真の敵とは内部に潜む
「ただいま! まおーさま! 正義の味方は⁉︎」
機械の体であるにも関わらずゼイゼイと体を全体で息をしているキルルが扉を蹴破り姿を見せた。
「あら、キルル。それならすでに終わりましたよ」
「なんで⁉︎ キルルの遊び道具は!」
マリアベルジュは捕まえたパリリンの身代金をどこに請求しようか考えながらキルルに適当に返事した。
扉にしがみつくようにヘナヘナと座り込むキルル。そのキルルの視線がソロティスの横で幸せそうにお菓子を食べる桜に向く。
「桜! なんでいるの! 仕事は!」
「ん、終わったよ? そのあとでちゃんと正義の味方潰したし」
イェイと言わんばかりに桜はvサインをキルルへと向ける。
「違う! なんでまおーさまの横にいるの!」
気に入らないのはそこらしかった。
いかにも怒っていると言わんばかりにキルルは地団駄を踏む。
「まぁまぁ、キルルもお菓子食べる」
苦笑を浮かべたソロティスはテーブルがお菓子を一つ取りキルルに勧める。それを聞いたキルルはニヘラァと言わんばかりに頬を緩めた。明らかに機嫌が良くなったのは誰の目が見ても明らかであった。
「……仕方ないなぁ、まおーさまがそこまで言うなら跪いて土下座したら食べてあげてもいいよ」
「そこまでして食べて欲しくはないよ⁉︎」
冗談ではなくかなりの本気度合いの声ということが過去の経験から解るソロティスは自分よりも明らかに小さく幸せそうにお菓子を頬張る桜の後ろに隠れた。
一応、忘れそうになるがソロティスは魔王である。威厳が微塵もないが。
「そーちゃん、隠れん坊?」
「そうだよ、桜。僕隠れないといけないんだ。いろいろと複雑な事情があって」
「ふーん」
すぐに関心が無くなった桜はまぁ、適当に尻尾でソロティスを隠しながらもお菓子を食べる手を止めない。むしろ早まっていた。
「そういえばファンファンさんは?」
「今⁉︎ 今疑問に思ったの⁉︎」
すでに桜が魔王城に帰還してから一時間以上経っている。それは桜がお菓子を食べ始めて一時間経つということを意味しているのだが彼女のお菓子へ伸ばす手の勢いは全く落ちず、ひたすらに幸せそうな表情を浮かべていた。
そしてようやく彼女はファンファンニールが部屋にいないことに気づいたのだ。
「ファンファンニールならあそこで戦ってますわ」
コルデリアが退屈そうに欠伸をしながら指差したのは異界モニター。その中には今だカルシウムスケルトンと戦い続けているファンファンニールの姿があった。
カルシウムスケルトンは幾つもの骨が叩き折られており、さらには得物である大太刀も刃の真ん中から叩き折られている姿が見て取れる。
対峙するファンファンニールは無傷。相も変わらずカタカタと全身を揺らしながら頭蓋の杖をデタラメな魔力で強化するとそれをただひたすらにカルシウムスケルトンに向けたたきつけるという力技で押し始める。
『魔法型のスケルトンが杖で戦うというのもシュールなものよ( • ̀ω•́ )ドヤッ』
ワインが異界モニターを見ながらマジックボードに文字を書く。マリアベルジュが見た瞬間には顔文字を消すという無駄な早業を行っていた。
「ですが私様が思うにあの攻撃方法だけが唯一、ファンファンニールがカルシウムスケルトンにダメージを与える方法ですわ」
「だねー」
コルデリアの言葉にキルルが同意する。
カルシウムスケルトンのスキル、魔法無効化は全てではないが上位魔法も無効化する。つまりカルシウムスケルトンを倒す方法は二つ。
圧倒的魔法で吹き飛ばすか、圧倒的暴力で叩き潰すかだ。
「なんか泥仕合だよねー」
異界モニターを見ながらキルルがあきれたような声を出す。
「確かにそうですわね」
『然りだ』
マリアベルジュ、桜の二人以外が同意の声を出す。しかし彼らもファンファンニールが弱いとは思っていない。単純に相性の問題なのだ。
「ごちそうさま」
軽く手を合わせ、さらには指についていた食べかすをペロペロと舐めていた桜が首から下がられている鈴を鳴らしながら立ち上がった。
そしてそのままスタスタとしたのフロアに下りると異界モニターを見ながら宴会を続けるモンスターたちの間をするすると抜けると入り口のほうへ向かい歩き始めた。
「あれ、桜ちゃんどこいくのい~」
九本の尻尾を揺らしながら入り口に向かう桜にキルルが問いかける。
その声が聞こえたのか桜は頭上のキツネ耳をピコピコと動かしながら振り返った。
「食後の運動?」
「あ、ずるい! キルルも暴れたい!」
「早い者勝ち!」
キルルが講義の声を上げたときにはすでにいたずらっ子の笑みを浮べた桜は踵を返し入り口の奥へと姿を消す。
「あぁぁぁぁ」
悲痛な声を上げるキルルは桜が姿を消した入り口を名残惜しそうに見ていた。
そんなキルルの肩にマリアベルジュがそっと手を乗せた。
それに振り向いたキルルは微笑を浮べるマリアベルジュを眼にする。
「安心しなさいキルル。あなたにも仕事があるわ」
「本当!?」
期待に瞳を輝かしたクルルが声を上げた瞬間、重苦しい音を響かせながら魔王城がゆれる。
「な、なに!?」
「あれでしょう」
マリアベルジュの指差す異界モニターにはカルシウムスケルトンに向け九本の尻尾を振り下ろし、ただの骨の残骸へと変えた桜の姿が映し出されていた。
『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォ! 桜様マジ天使ぃぃぃぃぃぃぃ!』
瞬間今度はフロアがゆれた!
主にモンスター野朗どもの野太い声によって。
じつは魔王城での一番の人気は魔王であるソロティスであるが二位は桜である。しかも三位のマリアベルジュに大差をつけてのである。そのため彼女にもソロティスと同じようにファンクラブがあるのだがソロティスのように弱くはないため彼女を遠くから眺めるだけの会になっている。
『へたなことをしたら殺される!』
それが魔王城に勤めるモンスターたちが持つ六死天への印象である。中でも桜は六死天のなかで唯一筆頭であるマリアベルジュと本気の殺し合いをしたような猛者である。
過去、彼女の私室に忍び込み下着などを盗もうとした輩は次の日魔王城のゴミ捨て場に頭、腕、足が反対側を向いた状態で捨てられているのが発見されている。(そのモンスターはしにはしなかったが自主退職した)
六死天最強の物理攻撃者。それが桜なのだ。
『いっぱつでへしゃげた?』
尻尾を動かし、完全に沈黙したカルシウムスケルトンの残骸を確認しながら桜は残念そうに顔をしかめる。
その顔には明らかに物足りなさが浮かんでいた。
「あ、あいかわらず桜はつよいね」
異界モニターをソロティスは顔を蒼くしながら見ていた。
以前彼は誤って桜のフロを覗いてしまい、悲鳴と共に彼女の最大の武器である九本の尻尾のラッシュをその身に受けしにかけたことがトラウマになっているのだ。魔王の癖になにかとトラウマが多い奴なのだ。
『ファンファンさんがいないね』
キョロキョロと周囲を見る桜は愛くるしいものなのか強面のモンスターたちが頬を緩ませる。それでも強面のためかなり怖いものではあるが。
「ファンファンニールならあなたの尻尾の下敷きになってましたわ。そのスケルトンと一緒に」
コルデリアが呆れたように教えてあげると桜は恐る恐るといった様子で尻尾をゆっくりとあげる。その下にはひしゃげた黄金のスケルトンが倒れていた。
『あ……』
オロオロとしながらも桜はファンファンニールに近づいて行く。
『ふ、ファンファンさん?』
声をかけてもカタリとも動かないファンファンニールを見て見ていてわかる位に真っ青になっていった。
すると今まで光が灯っていなかったファンファンニールの眼窩に光が灯り、下から桜を見上げる形でぐっと握り拳を作る。
『ナイスアングル!』
『……』
ファンファンニールの視線の先には桜の巫女服から覗く下着の姿があった。一瞬にしてファンファンニールが見ているものに気づいた桜はすぐに真っ赤になり無言で片足をあげ、ファンファンニールの頭蓋に向け踏み下ろした。
黄金の頭蓋が凄まじい音を上げながら砕け散り、更には床をも軽々と踏み抜いた。
しかし、頭蓋が半壊しながらもファンファンニールは止まらない。むしろまとわりつくかのように桜の脚へと骨の腕をまとわりつかせる。
『はぁ、はぁ、幼女、幼女のあしぃぃぃぃ!』
変態である。ファンファンニールはロリコン趣味の変態さんであった。
『ヒィィィ!』
そこからは言葉にするのも筆舌にしがたい。
小さく悲鳴を挙げた桜に反応した尻尾たちがファンファンニールを一瞬にして敵へと認識を変え、即座に攻撃に移ったのだ。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!
ひたすらに鳴り止まない連打。それも魔王城がゆれるほど破壊力が込められた尻尾の連打音が永遠に続くかと思えるほど異界モニターに備え付けられたスピーカーから鳴り響き続けていた。
『……』
宴会モードであったモンスター達は完全に沈黙。聞こえてくる破壊音に『桜様には手を出すまい』と再び心に誓う羽目となった。
ただ、沈黙していたのはモンスター達だけでく六死天の面々はまた違った。
ソロティスはトラウマを思い出したのか泡を吹いて昏倒。そんなソロティスを抱えてため息をつきながらコルデリアは体質した。
ワインはと言うと『尻尾の振りが甘いですな』と茶々を入れ、キルルに至っては潰れるファンファンニールを指差し、涙を浮かべながら笑っていた。
そんな笑続けるキルルにマリアベルジュは告げる。
「キルル、あなたの仕事はあの骨の掃除よ」
途端、笑うのをやめたキルルは残像が残るほどの速さで振り返り不満顔をする。
「えー」
「ファンファンニールの骨はちゃんと分けるのよ?」
マリアベルジュが指差した異界モニターではファンファンニールは文字通り粉々、骨という形で原型をとどめていないレベルである。
「あの粉々なものを!?」
「私は身代金の要求をしないといけないので」
明らかに面倒なことを押し付けていったマリアベルジュは音も立てず、残像が残る速度で退出。
キルルがすがるようにワインの方へ振り返るとそこにワインは姿形も存在しなかった。
「逃げられた……」
渋々といった様子で立ち上がったキルルが異界モニターを見ると今だに桜は元ファンファンニールの残骸に向け尻尾を振り下ろしていた。
『なんです、なんなんですか! いつもいつもわたしのパンツ盗ったり服盗ったりと! あ、この前わたしのお気に入りのパンツ盗ったのもファンファンさんでしょ! 何とか言ったらどうなんですか!』
魔王城が揺れるほどの衝撃を受け続けたファンファンニールにはすでに喋る口などは粉々に砕けており喋りたくても喋れないのだが頭に血が上っている桜は気づかず尻尾による殴打を執拗に続けて行く。
そんな桜とファンファンニールを見たキルルはため息をつきながら腕のパーツを掃除機に切り替えるのであった。
「桜ちゃん、攻撃やめてくれるかなぁ」
唯一そこが不安なキルルは桜達のいるフロアに向かい重い足を向けるのであった。
仲間だと思ってたら敵だった。
よくありません?




