ファンファンニール劇場2
白い骨の群れがフロアを凄まじい勢いで走る。
それぞれが武器を掲げ、どこから出しているかはわからないが雄叫びを上げながら〈殲滅天使パリリン〉一同に向かい駆けだしていた。
しかし、〈殲滅天使パリリン〉の一同とて無様に驚愕しているだけではない。彼女達も今日までモンスターを倒してきたのだ。その間違いではない事実。だが確実な誤差がある真実を信じこみ、そこに勝機を見出していた。
「怯むな! 相手はスケルトン。先程と同じように魔法で蹴散らす!」
『はい!』
骨のモンスターであるスケルトンの原動力は魔力。それも負の魔力で動いている。そのためその原動力たる魔力を魔法で攻撃し吹き飛ばすか物理的な攻撃で身動きがとれないようにしたりする、または神官などが使う浄化魔法で消し去るなどが基本的な対処方法である。
当然、〈殲滅天使パリリン〉が選んだ手段は浄化魔法などという生易しい方法ではなく、魔法、物理攻撃によるものだ。
魔力に自信があるものは魔法で、膂力に自信があるものは武器を構えスケルトン達を迎え撃つべく行動を開始した。
先制を仕掛けたのはパリリン側であった。
転移してきた時同様に息を付く間も与えぬと言わんばかりに魔法を応射。それも全体的に放つのではなく一転掃射に絞るという攻撃方法だった。
先頭を走るスケルトンはすぐ様その魔法の餌食となった。頭を吹き飛ばされ、歩みが止まりかけたところに叩き込まれ続けた魔法のせいで一瞬にして消え失せる。
「効いているわ! 近接組、左右から押し込んで中央に、魔法掃射範囲にスケルトンを押し込むのよ!」
『はい!』
指揮官たるレッドの号令な二軍と一軍の近接組がすぐに行動。横に広がっていたスケルトン達が徐々に押し込まれ縦長の隊列に変える。そのせいでスケルトン達は魔法の掃射範囲に入ると次々と潰されていく。
「HAHAHAHA、さすがはと言っておこう」
自軍のアルバイト戦士がやられていっているにも関わらずファンファンニールは今だ愉快そうに笑いながら身体の隙間から葉巻の紫煙を曇らせていた。
「なら、僕も動こうじゃないか!」
葉巻を放り投げ、さらにはバッと唯一見にまとっていた防具であるマントを脱ぎ捨てる。その脱ぎ捨てられたマントの下からは隠された(本人的には)黄金に輝く体というか骨が現れる。
「今こそ! このファンファンニールのクラスの真髄を見せる時!」
この世界にはきちんと職業のクラスがある。
魔法を使うのが得意な者ならば魔法使いというクラスに当てはまる。といってもクラスは自称が多く、同じ魔法使いであっても呪い系、精霊系、信仰系などと様々で同じ系統のものは少ない。そしてそのクラスにふさわしいスキルを習得が可能になるのだ。
しかも、高位のモンスターになれば二つ目のクラス、すなわちサブクラスと呼ばれるものが習得可能になるのだ。こちらも自称が多いものではあるがメインクラスの半分位はスキルを習得できたりするのだ。
では、種族スケルトンのファンファンニールが習得しているクラスが一体何かというと。
「そう! 僕の〈踊り子〉としての力をね!」
〈踊り子〉だった。
骨が踊るでは色気も何もないクラスである。
しあし、ファンファンニールは気にしない。自分が大好きだからだ。
実は先程使った闇の歌も〈踊り子〉のスキルだったりするのだ。
「この美しき僕の肉体美ならぬ骨体美! これを見せつけるためだけに僕は〈踊り子〉のクラスに着いたのだから!」
ポージングを取りながらファンファンニールは笑う?
様々なボージングを行いながら自分の黄金の骨がいかに映えるかというのを考えるのが実はファンファンニールの趣味だったりするのだ。
「おっと、一人悦に入ってる場合ではなかったね。早く能力補助を掛けなければ、骨美の舞!」
叫ぶと共に見ている人たちを不快な思いにさせるような踊りをファンファンニールは踊りめた。
悲しいかな、こちらに背を向けている味方のスケルトンには一切目に入ってはいなかった。
しかし、ファンファンニールの後ろの入り口を目指すパリリン側は不幸にも目にしてしまった。
結果として、
『ファンファンニールは骨美の舞を踊った。
殲滅天使パリリンは目撃してしまった。
やる気が下がった
闘争心が下がった
不快感が上がった』
というステータス異常魔法を成功させたのであった。さらに、攻め続けるスケルトン達にも変化が現れ始めた。
黒い靄のようなものがスケルトン達の身体を覆い始める。
骨美の舞の効果。
それはけして聞いている対象にやる気などを下げさせることではない。本来の能力は舞の影響範囲内にいるスケルトンの強化だ。ただし、この強化はそれを受けるものによって威力が異なるのだ。
骨美の舞の真の効果、それは生前の怨みがどれほどそのスケルトンが覚えているかに比例する強化魔法だ。
生前の怨みが強く残るほどスケルトンは強さを増していくのだ。
そして、すでにその効果はゆっくりとだが現れていた。
一発の魔法で弾け飛んでいたスケルトンが二発、三発と食らっても仰け反るだけに留まり始め、武器を振るう砕けていた骨が逆に武器を弾くまでななっていた。
上がったのは防御力だけではなく攻撃力も上昇していた。
軽々とあしらわられていた攻撃が今やパリリン一人では抑えきれないほどの力を発揮し、みすぼらしい武器から繰り出される無造作の攻撃が煌びやかな衣装を着たパリリンを軽々と吹き飛ばしているのだ。
逆に強化がさほどされていないスケルトンは今まで同様に粉砕されていっている。
「攻撃を集中させ続けなさい! 近接! もっと距離を詰めて複数で囲んで挑みなさい! 一対一は避けて!」
レッドが声を上げ、指示を出し続ける中、対象的にファンファンニールは踊り続ける。右へフラフラ〜ジャンプ回転。左へフラフラ〜ジャンプ回転、と見ていてなんだか不愉快になるのだ。踊りのくせにキレはなく、疲れると普通に休み、少しするとまた踊り出すと、魅せられる要素が微塵も存在しないのだ。
そんな一進一退の攻防が十分ほど続く。
「飽きた」
唐突に踊るのを止めたファンファンニールはどかっと座り込み、さらに虚空に手を伸ばす。
とぷんという音が鳴ると同時にファンファンニールの腕が半ば消える。しばらく漁るようにして腕を動かしていたが目当てのものを見つけたのか引き抜くようにするとファンファンニールの手には真新しいタオルが握られていた。
「骨美の舞の効果は一時間なわけだし踊り続ける必要はないんだけどね」
取り出したタオルで汗を拭うかのように骨を拭きながらぼやく。
当然汗などかいてはいない。しかし、タオルはむき出しになっている骨に引っかかりまくりすぐに雑巾と見間違える位ボロボロになっていた。
しかし、気にせず使い続けるファンファンニール。布が裂かれる音が鳴り響き渡る。
すでに繊維のようになった用済みのタオルをようやく視界に入れると掴んだ指先から黒い炎を出し、一瞬で燃やし尽くした。
「さて、さっぱりしましたが」
リフレッシュ? し立ち上がったファンファンニールは 再び脱ぎ捨てたマントを拾い上げ羽織ると下で行われている戦闘へと視線を向ける。
「おや?」
スケルトン達にはかなりの強化がかけられているが未だパリリンとの戦闘は全体的に見ると拮抗していた。
全体的には。
「ほほう」
ファンファンニールは一体のスケルトンに楽しげな色を浮かべた鬼火を向ける。
他のスケルトンが多数のパリリンに囲まれ少しずつ削られていくのなは対し、そのスケルトンはただひたすらに手にしていた刀を振るい、確実に戦闘不能に追い込んで行っていた。
「やはり、僕の読みは正しかったね」
そのスケルトンは戦闘開始前にファンファンニールが目をつけていたものだ。
「だがあれでCランク。余程生前の怨みが強いと見えるね」
注視しているスケルトンの握る刀はすでに血で濡れ真紅に染まっている。
さすがにこのスケルトンはマズイと気づいたのか二軍のパリリンが下がり、一軍の一人、青い衣装を着た少女がが前に出始め距離を取りがら武器を構えていた。
「ふむ、一軍はBランクと言……」
ファンファンニールの言葉が途中で途切れ、光の塊がファンファンニールの頭を穿つ、煙を上げる。
頭に被っていた王冠が宙を舞い、弧を描きながら落下。軽い音を立てながら床を王冠が転がる。
「……僕は参加しないと言ったはずだが?」
煙の中から姿を表したファンファンニールの黄金の頭蓋骨には傷ひとつなく、身体全体で呆れたような動きをし、空洞である眼窩を攻撃を放った者へと向ける。
視線の先には黄色と緑の鮮かな衣装を着た二人。直感的にファンファンニールはこの二人が二軍ではなく一軍であることを察する。
「一軍のお二人であるグリーンとイエローのお二人が僕に何か用かな?」
「な、なぜお前は俺たちのコードネームを!」
「……情報を集めるのは初歩じゃないかな?」
実際には衣装の色で判断したわけだか大物ぽさを出したいファンファンニールはあたかも自分が初めから知っていたかのような口ぶりで告げる。
「俺たち二人でお前を倒せば先に進めるんだからな!」
「勝てないと思うけど?」
首を傾げたファンファンニールに向かいグリーbbが獰猛な笑みを浮べる。
「やってみなきゃわからないだろぉ!」
グリーンが大きく粉塵を巻き上げながら跳躍、大斧を振り上げ宙を舞う。
「光よ! 縛れ!」
イエローがグリーンに視線が逸れた瞬間を狙い即座に魔法を発動。一瞬にしてグリーの下を高速で通過した光の魔法が鎖へと姿を変え、ファンファンニールの体を拘束、さらには床へと縛り付ける。
「おお、いい魔法です!」
自分が縛られていることに驚くのではなく、自分に放たれた魔法に対しての賛辞をファンファンニールは送っていた。
「調子にのるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ファンファンニールの頭上へと跳躍したグリーンが恐らくは全力で大斧を振り下ろした。それを呆然と見ていたファンファンニールが無造作に振り上げた腕が体全体を縛っていた鎖をいともたやすく引き千切った。
(こんな中位魔法で止めれると思ったんですかねぇ)
心の中でほくそ笑みながらこちらに向かい大斧を振り下ろさんとしていたグリーンを見据える。
彼女は何が起こったかわからないと言わんばかりに顔いっぱいに困惑の表情を浮かべていた。
そんな彼女を迎え撃つべくファンファンニールは体を弓なりに引きながら骨の手を拳の形に作る。
「不可抗力だから仕方ないよね! こっちはやる気がなかったんだから!」
そう笑顔? で言い放ち、勢いよく拳を開放。投じられた拳は寸分狂わずにグリーンの顔面を捉えるコースを疾った。
轟と音を唸らせながらグリーンの顔面に迫る直前、グリーンが一瞬にしてファンファンニールの視界から消える。
「バカな! 僕の知覚よりも速く動ける!?」
空を切った拳を慌てて引き戻しながら周囲を警戒するファンファンニール。
その視線は即座に周囲を伺う。
まずは床、座り込んだイエローの姿が見える。顔は完全に放心している彼女ではない。
次に右、ないもない。
次に上、特に異常はないように見えたがファンファンニールは気づいた。薄く、本当に薄く魔力で作られた糸が天井にくっ付いている事を。
最後に左……壁に何かがめり込んでいた。黒い球体のようなものが。そして壁と球体に押しつぶされたのか赤黒い液体が少しずつ零れ小さな水溜りを作り上げていた。更に鉄球には紙が貼り付けてあった。
『魔王のワナがうごきだすよぉ(・ω・)ノ』
「つまり、魔王様の罠か」
いかつい同僚が書いたとは思えない愛らしい顔文字を見たファンファンニールは一瞬にして警戒を解く。味方の罠であれば問題ないからだ。
(さてどんな罠を仕掛けたのか見物さしていただきますよ。我が魔王様)
脳裏でおそらくはまた蹴り飛ばされているであろう同僚を想像しながらファンファンニールはソロティスの仕掛けた罠を期待して待つのであった。
次回動き出す魔王様、転がりまわるワインの姿が眼に浮かぶ




