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カタカタカタカタカタ

 転送魔法陣の間はガヤガヤと人のざわめきで溢れていた。

 正義局の誇る大規模転送魔法陣。

 最大で三百人もの転送を可能とするものである。通常の転送魔法陣は大規模二人、または三人ほどしか転送することができない。普通はこの規模の魔法陣を持つのはよほどの財力がなければできないものなのだが潤沢な資金がある正義局はこの大規模転送魔法陣を保有している数少ない会社であると言えるであろう。

 そんな大手の会社である正義局であるが今日は朝から肌を刺すような緊張感が張り詰めていた。

 というのも<殲滅天使プリリン>の魔王城への出陣が間近だったからだ。

 番組の編集側は汗を流しながら機材を準備し、正義局の誇る殲滅担当に当たる<殲滅天使パルルン>は武器、衣装などの身だしなみを行っていた。


「今度行くとこ、なんか魔王城らしいよ」

「え、本当?」

「なんでも魔王本人からハガキが来たんだってさ「いつも楽しく見させて貰ってます」ってさ」

「はは、マジで?」


 そんな会話が待機をしている二軍〈殲滅天使パルルン〉の間で囁かれる。まぁ、概ね真実ではあるのだが。


「冗談じゃなくて本当の魔王らしいよ。魔王協会にも登録されてたらしいし、書いてあった住所には認識阻害魔法がかかってたけど城と街があったってさ」

「魔王協会に登録ってマジで賞金首じゃん。マスターPがマジになるのはそれのせいか」


 マスターPとしては倒せれば賞金が手に入り、<殲滅天使パルルン>二軍メンバーとしては格が上がり、アイドルとしてのデビューが近くなるのだ。


「よっしゃ!撮影班、準備できたとこから行くぞ! 殲滅班、そっちもだ!」


 気合の入ったマスターPの言葉がフロアに響き渡る。それに返事をするように周囲から疎らな返事が返ってきた。


「さて私達も準備出来次第いくわよ」

『はい、お姉様!』


 殲滅班の面々も慌ただしく動き出した中、ただ一人好戦的な笑みを浮かべる女性は唇を薄く舐める。


「さぁ、経験値稼ぎよ」



 ◇◇


 ところは変わり魔王城。

 すでに魔王城は臨戦態勢を整えており、コルデリアの魔力によって迎撃に相応しいとも言える場を形成していた。


「HAHAHAH、こいつは絶景と呼べるんじゃないかい?」


 葉巻を曇らせながらファンファンニールは彼にしては珍しく楽しげな声をあげていた。


「ふふん、私様の仕事を褒めてもよろしいんですよ」


 吸血鬼特有の青白い肌をさらに青白くさしながらコルデリアは勝ち誇ったような声を上げながら笑みを浮かべる。あきらかに魔力の使い過ぎによる欠乏症状である。

 彼女なりにかなり気合をいれて作ったのだ。


「そうですね。コルデリアにしてはまともなコーディネートでよかったです。あなたの部屋のようにドロドロとしたものばかりじゃなくてよかったです」


 ほっとした声を上げるのはマリアベルジュ。

 コルデリアに任せたのはいいものの彼女のセンスが絶望的なのを思い出したマリアベルジュとしては冷や汗ものだったのだ。


「しかし、マリアベルジュ。一体どれだけバイトを雇ったんだい?」


 ファンファンニールがコルデリアの作り上げた強大なフロアを見下ろす。

 六死天グリメモワールの三人が立つ一つ下のフロア、そこには、


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ


 ひたすらに鳴り響く骨の揺れる男。

 そして広間の半分を埋め尽くすスケルトンの群れだった。

 毅然とて立っているわけではなくゆらゆらと揺れているためかそこいら中で音が響いている。はっきり言って不気味である。


「集めたスケルトンは総勢千、ランクはC〜Dです。これならいかに貴方が優秀に指揮をしたところで負けるでしょう?」

「確かに、Bランクを相手になかなかに辛いだろうね」

「私様なら絶対やりませんね。負け戦の花を私様につけたくはありませんし」

「指揮官として挨拶をしてはどうですファンファンニール」

「そうしようか」


 ファンファンニールが手にしていた頭蓋骨の付いた杖で足元を軽くたたくと瞬時に紫の魔法陣が描かれ、発する光がファンファンニールを包み込むフワリと体を浮かび上がらし、スケルトン達の頭上に浮遊した。


「えー、この度は……」

 カタカタカタカタカタカタカタ


「この度は……」

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ


「こ、の度は……」

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ


「うるさいのだよ!」


 自分の声が骨の揺れる音で全く響かないことに気づいたファンファンニールは激昂。手にしている頭蓋の杖を振るい、黒い球体を作り上げ、カタカタ揺れ続けるスケルトンの集団の一角に放り込んだ。

 瞬間。叩き込まれた一角は骨を巻き散らかす爆発を引き起こし、スケルトン達の揺れる音が止まる。


「うむ、この度は我が魔王軍、臨時アルバイトに来ていただきありがとうございます。今回の司令官を務めさせていただくファンファンニールです」


 静かに静聴するスケルトン。

 それを見て満足したファンファンニールは言葉を続ける。


「今回の目的ですが〈殲滅天使パルルン〉の撃滅です。倒した数によってアルバイト代が変わるので奮って撃破してくださいね」


 アルバイト代が変わると聞いた瞬間、スケルトン達は嬉しいのかカタカタ揺れる。


「それではあと三十分ほどで〈殲滅天使パルルン〉のみなさんが来ますので少しの間お待ち下さい」


 それだけを告げるとファンファンニールはゆっくりと下降を開始、ほかの六死天グリメモワールのいる所に着陸する。


「前から私様疑問だったんですが、スケルトンは一体なににお金を使ってるんです?」


 コルデリアが頭に疑問符を浮かべる。いまいちスケルトンが買い物をしている光景が思いつかないのであろう。


「HAHAHAH、これは否こと言うねコルデリア。君こそ吸血鬼であるが服を買ったり爪の手入れようの物を買ったりするだろう?」

「いえ、そうですが、スケルトンって服を着ないじゃないですの? あなただってマントと王冠だけですし」


 確かにファンファンニールの今の服装は豪華そうなマントと小さな王冠が頭に申し訳程度に乗っているだけで他は何も着ていない。金色に輝く骨が見えるだけである。


「ふむ、まぁ、スケルトンも買い物はするさ。そのスケルトンによるがね」

「ちなみにファンファンニールはなにを買われているのですか?」


 話題に興味をもったのかマリアベルジュが問いかける。

 するてファンファンニールは輝く骨の手を顎らしき場所に当て思案し始めた。


「僕限定で言うならブラシだな」

『はぁ?』


 ファンファンニールの言葉にマリアベルジュ、コルデリアの両名が間の抜けた声を上げる。

 それを見たファンファンニールは「ああ、違う違う」とおそらくは苦笑のような感じで言葉を発した。


「僕の言うブラシというのは体を洗う用のブラシだ。あとは研磨剤だ。僕のこの光り輝く黄金の骨を燻らせるわけにはいかないからね」

「そうですか……」


 ファンファンニールがシャワーを浴びながらブラシで自分の骨を磨いている姿を想像したマリアベルジュは少しげんなりした。しかも、なぜか想像したファンファンニールは歌を歌いながらシャワーを浴びているのだ。

 美男子やショタならばともかく骨ではなんとも言えないのだ。


「そういえばマリアベルジュ、魔王軍への就職組はまだ枠が空いていましたよね?」

「? ええ、ランクがB以上のモンスターを選定対象にしていますが?」


 唐突に話題を変えてきたファンファンニールに訝しげな視線を向ける。その視線に気づきカラカラとファンファンニールは笑う。


「なに、見込みのあるのが二体ほどいるのでね」

「ですが集めたスケルトンはCもしくはDですが?」

「ついにない目玉で耄碌してきましたわね」

「手厳しいねぇ」


 コルデリアの暴言に笑いながらも白骨の指は一体のスケルトンを指差す。

 そのスケルトンは確かに他のスケルトンとは違っていた。

 ほかのスケルトンがカタカタと揺れ、音を立てているのに対してそれは一切動かずにじっと一点を見つめているのである。さらには武装にも違いがあった。

 普通のスケルトンは錆びた剣や斧、棍棒といった朽ちかけた物を武器にするのに対してそのスケルトンの手にあるのは刀であった。それも一切の錆が浮いていない物だ。


「確かに変わったスケルトンですが」

「他のスケルトンはあきらかに違いますわ」


 その点のみは2人ともが認める。


「スケルトンとは生前に恨みを持つ者の眠る墓にある骨が魔力を得てモンスターになる。そして生前の記憶はなくなりただ何かを憎んでいたことだけを覚えているモンスターだ。だが、ごく稀にだが生前の記憶を朧げにだが覚えているスケルトンもいるのだよ」

「あのスケルトンもそうだと?」


 今だに疑わしげなコルデリアの言葉にファンファンニールは静かに頷き返した。


「戦闘になればわかるさ。それに生前の記憶を持っているスケルトンは異常な進化をする物もいるしね。僕のようにね」

「そのいかにも自分が有能アピールやめてください。うざいです」


 辛辣な言葉を返されたファンファンニールは肩を竦める。


「仕方ない。その話は後だよ。今は我らが魔王様をお迎えしようじゃないか」


 そう言い、後ろを振り向きファンファンニールは膝をつき頭を下げた。それに習うようにマリアベルジュ、コルデリアも膝をつき頭を垂れる。

 やがて後ろの出入口から紅騎士ワインが魔王ソロティスを肩に乗せ現れた。


「あれ、賑やかだけどもう始まってるの?」


 ワインの肩から飛び降り、下のフロアを覗き込むソロティス。そんな姿を見てマリアベルジュは頬を緩ませる。


「いえ、まだ魔王様ご所望である〈殲滅天使パルルン〉一同は姿を現していません」

「ならよかった!」


 魔王とは思えない無邪気な笑みを浮かべるソロティスを抱きしめ、もふもふしたい衝動に狩られるがマリアベルジュはなんとか抑え込み、冷徹な仮面を被る。


「時に魔王様、本日の課題はきっちりこなしてきましたか?」


 マリアベルジュのその言葉にソロティスは悲壮感の漂った表情を浮かべ、後に自虐的な笑みに変わる。


「やったよ、やりきったよ・今日のこの自由時間を手に入れるために僕はかなりがんばったよ」


 若干眼が虚ろになっているソロティス。しかしそれは無理のないことであった。

 マリアベルジュがソロティスに出した課題は明らかに一日で終る量ではなかったのだ。そのためソロティスは不眠不休で! 一日八時間は睡眠をとるソロティスが不眠不休で課題に取り組みなんとか終らしたのである。よく見るとソロティスの眼の下にはくっきりと隈が浮かんでいる。


「ならばいいでしょう」


 満足げにうなずいたマリアベルジュを見てソロティスはほっと胸を撫で下ろした。


「それで魔王様はどこで見てもらうんだい?」

「魔王様には〈殲滅天使パルルン〉一同が姿を現したら魔王っぽいセリフを言ってもらったら後ろの観戦室に下がってもらいます」


 そのほうが魔王っぽいでしょう?とコルデリアは笑う。


「ここにはファンファンニールあなたが一人入れば十分でしょう」

「重労働は僕だけなのかい?」

「大丈夫だよ! ファンファンニール! 僕もちゃんとトラップを仕掛けたから!」


 きらきらした瞳で見上げられたファンファンニールは彼にしては珍しくたじろいだ。皮肉を浴びせられても全く動じない彼であるが純粋な善意というものは苦手なのだ。一応魔族であるわけだし。


「き、期待さしていただきます」


 微塵も期待はしていないのだが一応は答えた。


(この方は決して自分から攻撃を仕掛ける方ではないからなぁ~)


 せいぜい足止めに使おうと考えるファンファンニールだった。


「時間です」


 マリアベルジュが胸元から出した懐中時計に眼を落とし、次いで六死天グリメモワールの面々が眼下のフロアに視線をやる。

 時間通りにフロアに魔方陣が展開。

 光を放ちながら幾人もの人影が見えそして。


「ん?」


 ソロティスの間の抜けた声と主に六死天グリメモワールの面々の前にいくつもの魔法の輝きが迫っていた。

スケルトンだって綺麗好き!

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