食事の後で
イェルドは茶を飲んだ後、ほっとため息を一つ吐いた。
少女、ニーナもそれを真似してくすくすと笑う。
ゆっくりと食事を取った後特有の、どこか眠たいような怠いような、心地の良い雰囲気が居間には漂っていた。
「ニーナ」
できるだけ優しく、と気を使いながら声をかけると「なあに?」と柔らかい笑顔が返ってきた。
「お前の住んでいた所ってどんな所だった?」
「ニーナのいたところはね、いっつもゆきがふってたの。それで、しろいたてものがいっぱいあって、そらも、くもがたくさんあってまっしろなんだよ!」
あ、ちゃんとはれるときもあるんだよ!そのときはそらがとてもあおいの!
そう慌てたように付け足される言葉に、苦笑して頷いた。
いつも雪が降っているなら、おそらく北の国だろう。そうでなくともその国境付近か。
「住んでた所の目印みたいなものはあるか?」
「わかんない……ごめんなさい」
しおしおとうなだれるニーナの頭に手を置き、髪が絡まない程度に撫でる。子供を落ち込ませてしまうのはどうも気分が悪い。
「別に謝らなくていい。ただ、お前の家を探すには時間がかかる」
「探してくれるの!?」
ぱっ、と目を見開いてこちらを向くニーナの頭を先程よりも少し強く撫でる。
「迷子をここで放り出すほど冷たいやつではないんでね」
「つめたい?」
「ひどいって意味だ」
「なるほど!」
ほんの少し前の悲しそうな雰囲気はどこへやら。非常に楽しそうな様子である。子供は皆こんなものなのか。それともニーナが特別能天気なのか。
しばらく考えた後に、もう一つ言わなければならない事を思い出した。
「イェルドおにーちゃん?」
「あー、ニーナ。悪いがここは町から遠い所でな。手紙や荷物を運ぶやつが来るまでここで待たなきゃいけない」
「わかった!どれくらい待つの?」
「1週間くらいだな」
「7にち?」
「そうだ。その間泊まる事になるだろうが、我慢して、」
くれ、と続けようとした矢先に首を横に振られる。そんなに嫌か。
「がまんなんかじゃないよ!」
イェルドおにーちゃんはやさしいひとだもん!
若干大きく高い声で言われたその言葉に、頭を抱えたくなった。
誰かこいつに警戒心というものを教えてやれ。