ふりかけ
600文字ぐらい
『ふりかけ』とは一体誰が名付けたのだろうか。
茶碗に入れた白米にふりかけをふりかけながらふと考える。
‘ふりかける’という動詞がもとになっているに違いない。‘る’をとって名詞にするとは単純で、しかしながら分かりやすい。
同じ成り立ちの言葉は他にないだろうか。
例えば朝食前まで読んでいた新聞。‘読みかけ’の新聞だ。
だが‘よみかけ’といっても名詞にはならない。
なぜ?
そうか‘読みかける’という動詞はない。動詞に‘~しかけ’とつけて動作の途中を表す用法としての‘~かけ’なのだな。
食べかけ、立ちかけ、これらが読みかけ、と同じか。
では‘ふりかけ’のような名詞は他にないのか。
……追っかけ……そうだ、‘追っかけ’。芸能人とかを‘追っかける’人たちを表す名詞がこれだ。
他には……‘呼びかけ’。これも‘呼びかける’という動詞が元となっているはずだ。
他には……
「あなた、どうかしたんですか?箸が止まってますよ。」
妻の一言で俺は今が朝食の最中であったことを思い出す。
「いや、ちょっとくだらないことを考えていてな。」
「くだらないこと?」
「ああ、‘ふりかけ’や‘追っかけ’、‘呼びかけ’みたいな動詞が元の名詞がないか考えてたんだ。どうだお前も何か思いつかないか?」
こんな変わった疑問でも俺達は仲良く会話が出来る。そしてだいたい妻はこの手の疑問に対して実にいい返事をくれるのだ。
しばらく考えた後、妻はいたずらっぽく微笑んでこう言った。
「なんだか、変な‘問いかけ’ね。」