01-9 好奇心は何よりも勝らない
“黒い帯”は、満月の日に限って、大陸とカールマニア島の間の海峡の部分が晴れる。
故にか、昔は大陸側や島側から攻撃がある事があったが、双方合わせて二桁に満たない内に「補給線無いから継続的攻撃は不可能」と決めて、今までおよそ6世紀にも渡って守り続けられていると言われる不可侵条約を結んだ。
条約を結んだ後は、満月の海峡は情報や物資の交換の場となり、今でも船の形は変わりながらもにぎわっている。
ジャピード帝国女帝が、“黒い帯”に突っ込み、消息を絶ったその日、満月と新月の間の半月だった。だから、次の満月、つまり海峡の“黒い帯”が消えて、カールマニア島を支配するカールマニア王国と連絡が通じる日まで後20日ある。
つまり、ジャピード帝国にとっては、女帝の消息を知るには、その間待たなければならない。
なので、ジャピード帝国皇家や政府は、少しの望みをかけてもカールマニア王国からの報告を聞きたかった。たとえ、それが凶報だとしても。
一方で、カールマニア王国からすれば、大陸の命運に関わるであろうその報告を帝国が待ちわびているのは知らない。
だからだ。
カールマニア王国北西部の、王国でもあまり名を聞かず、大陸に至っては一度もその村の名を聞いたこともないであろうというホクーポート村の海岸に、突然煙を盛大に噴く2機のジャピード帝国空軍の戦闘機が来たとしても、彼らが身分をいつわれば、その20日間だけ、彼らは身分をいつわれる。
そして、その出来事が、カールマニア王国に始まり大陸にも及ぶ大きな“波”を引き起こした小さな風だった。
◇ ◇ ◇
アラクネ・ヘルタナウという少女がいる。
その日、彼女はいつも通り、村の集会所で年少の他の子供達が遊ぶのを見ながら、首都の大学に受かるため試験勉強をしていた。
毎年1月15日にあるカールマニア王国一斉大学入試試験には、彼女がいる村の18歳が受けた。受かったら者は首都に行くし、受からなかった者は猟師や出稼ぎに行く。
彼女が目指しているのは、彼女が尊敬して姉としてしたっていた2つ上の先輩のように、大学に受かる事だった。
「失礼します」
「おう! 夜遅くまでお疲れ!」
「いつも、ありがとね!」
村長を始めとする男衆や、月に1回開かれる村議会にメシを持ってきて、その後長話にひたっていた女性達に見送られ、彼女は村の高台にある集会所を出た。
高台を降りると、村の交差点を兼ねた中央広場の通じる道があり、その中央広場を左に行くと彼女の家に、右に行くとカールマニア王国北部で有名な都市の一つであるに、直進すると砂浜に出る事が出来る。
この日は、左に曲がって、家に帰ろうと彼女は思っていた。しかし、高台から真っ直ぐ海岸の方を見た時に写ったある物で、彼女の思いは変わる事となる。
「煙?」
しかも、濃かった。
普通、海岸でこの季節に濃い煙が上がる事はあまりない。
“黒い帯”まで5キロとない村の沖合いには船は来ないし、キャンプファイアをする村民も、小さな砂浜が点在するという地形上、あまりする事もない。そもそも、冬に近づいているこの季節に、キャンプファイアをしようとする村民も中々いないだろう。
だから、人一倍好奇心が強いと自他共に認めている彼女は、海岸に向かった。
首都のアルフェンバートのように夜更かしする人が少ない村では、まだ夜の10時前だというのに、道を歩く人々はいない。家か居酒屋の明かりが点々と点いているだけだ。
「えっ」
そして、アラクネは声を上げた。
遠浅の海岸の内、半分を砂浜に、半分を海の中に鋼の体を横たえた見たことがない戦闘機が2機、綺麗に並んでいたからだ。
「…………」
しばらくの間、その戦闘機を見ていた彼女は、やがて踵を返すと、一目散に高台へと走った。さすがに、彼女と言えども、好奇心は勝らなかった。
それからわずか30分後には、村民がすでに寝ていた子供達以外全員、砂浜に集まっていた。




