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なにかしら  作者: コーレア
上 忙しい旅の章
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01-8 わがままの結末

 その瞬間、人が作った巨大な雷は吠えた。

 深い闇に覆われた国境の南半分を、一瞬といえども明るく照らした雷は、続いて空気の波を放つ。


「ぐっ!」


 機体が大きく揺れる。

 思わず、目を伏せるが、人が作った雷の残光は中々目の奥から離れず、しばらく五感を失わせた。


『クリョーン! 大丈夫か!?』


 最初に戻ったのが聴覚で、女帝陛下の声が無線越しに聞こえてきた。

 まだ、視界は白いが、他は大丈夫だ。どこも痛くはない。


『大丈夫です』

『そうか。向こうの方も、機体に損傷をおっーー』


 女帝陛下の声は、最後まで聞こえなかった。

 なぜならようやく回復した視界に前方・・から白い煙が来るのが見えたからだ。


『くっ!』


 フィーガナが操縦する機体の左エンジンにミサイルが当たり、炎が上がるのを見ながら、女帝陛下が操縦する機体も右に傾けるが遅かった。

 ズドン! という鈍い音と共に、フィーガナの機体のように左エンジンから炎が上がる。


『なんで“東側”からっ!』


 女帝陛下の声の意味を深く考えるヒマも無かった。

 ガタガタと機体は大きく揺れ、思考を邪魔する。素人の俺でも、ヤバイ状況になっているのがわかった。


『“黒い帯”に突っ込むぞ!』


 久しぶりに聞いたユーリイの声が、俺達がさらに危機的状況に近づいているのを知らせた。

 機体が右に傾き、ついには海の上空まで出てしまう。

 下からの無線でも、機体を立て直せと叫ばれるが、『ペルーン』とミサイルの攻撃を受けた機体には、それは不可能に近く、時速2000km以上で“黒い帯”に近付いてしまう。


『ごめん!』


 女帝陛下の叫び声の直後、今度は同じぐらいの衝撃と共に、視界が黒く覆われた。

 そして、大陸の世界から、4人は姿を消す。


◇ ◇ ◇ 


 ジャピード帝国第3代女帝陛下が、攻撃を受け、“黒い帯”に突っ込み、消息を絶った。

 大陸の裏側の世界に響き渡ったそのニュースは、様々な方面で、様々な驚きと、様々な影響を生むこととなる。

 そのなかで、女帝陛下が消息を絶った当日、一番大きなショックを受けたのは皇家だった。そして、その中でも、国民には正体を隠している女帝陛下の姉・クリョーナだった。


「そんな……」


 臣下からその報告を自室で聞いた彼女は、気を失い、ベッドに倒れこんだ。

 彼女が目を覚めたのは、報告を聞いて10時間も経った後で、その時には各地に散らばっていた皇家全員が集まっていた。


「申し訳なく思っている」


 やつれた彼女が食堂に入って早々、扉の前に立っていたエルーカ大公が、頭を下げた。

 ミサイル発射直後、王宮から連絡を受けた部下を経由して目標機に女帝陛下が乗っている事を知った大公は、あわててミサイルの自爆命令を出した。

 本来ならこの時点で、女帝陛下とその連れの危機は去ったはずだった。しかし、悪魔がいた。

 稼働訓練で実弾装填かつ発射直前だった『ペルーン』が、レーダーに写し出された機体に向けて帝国軍がミサイルを放ったのを見て、実弾をその怪しい機体に向けて放ったのだ。

 即時の判断を求められる特徴上、『ペルーン』の発射に関しては『ペルーン』基地司令の独断による発射が許される。故に、この発射は正当な事だった。

 そして、更に不運は重なる。

 迎撃訓練が行っていた王国空軍の戦闘機が、帝国軍からのミサイル発射、そして『ペルーン』の実弾発射から実戦だと判断した王国空軍参謀本部からの戦闘指令に準じて、『サイドワインダー』と呼ばれる空対空ミサイルを放った。

 帝国軍からのミサイルは命中直前に自爆したものの、『ペルーン』の攻撃にかすった事と空対空ミサイルが直撃した事から、女帝陛下及びその連れが乗った2機の戦闘機は、操縦不能に近い状態におちいって、“黒い帯”に突っ込んでしまった。


「叔父様が全ての責任を負うことはありません」


 女帝陛下を地獄へと導く悪魔の矢を放ってしまった事から、自責の念にかられる大公の震える肩を、クリョーナは優しく手を添えた。

 そして、大公を席に座らせ、クリョーナは、皇家の面々の前で、以下の事を宣言する。


1、女帝陛下が消息を経った空域及び海域には、空軍ならびに海軍を当分の間派遣して、女帝陛下やその連れ、その他物品が存在しないかを確認する。

2、女帝陛下が消息不明の間、クリョーナが皇帝の代役を勤め、女帝陛下が帰還後は元に戻る。なお、可能な限り表には出ない。

3、以上の事をヨーロイド王国及び帝国政府にも伝える。


 クリョーナは、その宣言に皇家うなずく事で同意を示されたのを見た後、女帝陛下の専属メイドの代表である小職に同意を示してきた。

 宣言はこの場で出来る最善の策、と頭の中で結論を出した小職がうなずくと、クリョーナは小職のしわくちゃな手を握って、ただ一言「迷惑をかけてごめんね」とおっしゃられた。

 女帝陛下が生まれてから皇家に仕えてきた小職は、女帝陛下と共に女帝陛下を溺愛するクリョーナを見てきた。だから、クリョーナの気持ちは充分と言わずとも理解出来る。

 だから、小職には言葉を返す事が出来なかった。それを承知してか、女帝陛下とよくにた天使の微笑みを浮かべたクリョーナは、自分の席に戻り、朝食の開始を宣言した。

 ただ、小職には女帝陛下の御無事と、クリョーナの健闘を祈る事しかできずにいる。


     サークラ女帝専属メイド長

     アルタイル・アルフラの日記より抜粋

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