01-7 不幸な迎撃
もし、俺がルーアレード総合基地から2機の戦闘機が飛び立った後の“帝国”南東部の各基地の様子が見る事が出来たら、蜂の巣をつついた様だと言ってしまうだろう。
総合基地から、“東側”の国境までの間には4つの基地がある。そのどれもが総合基地のように蜂の巣をつついたような騒ぎだが、“東側”の国境からわずか1キロ弱しか離れていない陸軍の基地は、その騒ぎが他とは違った。
「SA-2、稼働開始」
ルーアレードから一報が来て、2分後。“東側”の攻撃にあった時のために備え付けている対空ミサイル網が、その時基地にいた1人の男の命令により稼働を始めた。
内戦の終結に大きく関わった恩恵として、帝国軍の軍規にはある文があった。
「大公陛下、ロックオン完了しました」
『有事の際、その時の皇帝から三親等以内の皇族が陸海空三軍のいずれかの基地にいた場合、その人物はその基地の軍を、三軍の最高指揮官たる宰相の命令を待たず、動かす事が出来る』という文だった。
そして、その時陸軍基地にいたのは、皇帝の父親の弟、つまり皇帝の叔父であるエルーカ・アルハンシア大公。
「……発射」
「発射!」
そして、エルーカ大公は内戦で陸軍部隊を直接率いた人物として軍の支持が強く、陸軍基地もルーアレード総合基地の事件直後から、基地司令の頭越しに大公の下に動いていた。
だから、エルーカ大公が陸軍基地にいる事がわかったクリョーナが、彼の携帯に連絡した時には、既に“悪魔の矢”は放たれていた。
◇ ◇ ◇
『国境付近のラーシャ陸軍基地から対空ミサイルSA-2発射確認』
飛びだってからまだ2分しか経っていなかった。しかし、確認などを飛び越して、いきなり射ってくるとは、ルーアレード総合基地から何も言わず飛び立って、その後も通信に答えてないから、か。
そして、帝国軍の優秀さを肌で実感する事が出来たが、こんな場面で実感したくはなかった。
『数は?』
『10発です。3発はこちらに、3発は進路の左側に、3発は進路上に、1発は進路の右側に向けて放たれました』
『ふん。陸軍の方、舐めてますわね』
『では、右側に行きますか?』
『もちろん。接近したらフレアを出して終わりよ』
『了解。では、誘導します』
右側は海側だから……わぁお。
女帝陛下とフィーガナの冷静な会話を聞きながら、右側に何があるかを想像した。そして、何があるかと言えば、この世界でもっとも怖い物。
『クリョーン』
『なんだ? サークラ』
よし、段々となれてきた。
『右側によるけど良い?』
『任した』
『ありがとっ』
年相応の明るい声。やっぱり、女帝陛下も人なんだな、と場合によったら反逆罪か何かに罰せられそうな事を思いながら、俺は右側の空を見る。
前に言った通り、海軍の勢力が弱い主因となっている“黒い帯”は、いつも通り、半月の淡い光に照らされていて、何キロも遠くにあるのに幻想的だった。
この大陸に人が降り立った直後から、大陸の周囲の海に現れ、外の『世界』とこの『世界』とを分けた“黒い帯”は、先端から500メートル以内に入ったら、何でも消滅する。
船でも、飛行機でも、人でも、そして水でも。だから、“黒い帯”の底は海底と接しているとも言われているし、はたまたこの惑星の裏側まで達しているとも言われている。
まあ、簡単に言えば、この“黒い帯”については、なんもわかっていないという事だ。
『ミサイル9発、転進確認。どうしますか?』
『最高速で国境を越える。基地は国境に近いんだし、そう国境とは離れていないでしょ?』
『はい。現在、国境とは1・5キロだけしか離れていません』
『なら、逃げましょ♪』
『わかりました』
……女帝陛下って、危険な状態になるほど、楽しくなっていく性格なのだろうか。
そして、2機の戦闘機が共にスピードを上げた直後だった。
(アラート、アラート。『ペルーン』稼働確認。繰り返す。『ペルーン』稼働確認。機体はこの空域より離れよ)
『ッ! 「ペルーン」が動いた!?』
単調な声のAIと女帝陛下の驚きの叫び声はギャップが凄く、そして事の重大さの規模も表していた。
両国共同開発対不法侵入機自動撃墜超電磁砲、通称・ペルーンは、去年に国境上に作られた、相次ぐ密航機などに対するために作られた装置だ。百発百中と言われるこの装置に捕まり、生き延びた者はいないと言われる悪魔の装置。
それが、事件からわずか5分で動いた、だと?
『フィーガナ!』
『はい』
『この状況でよけれる?』
『100%の確率で両方の機体がダメージを負います』
『一番軽い場合、国境は越えれる?』
『はい。しかし、予想不時着地域にはこの戦闘機が降りれる滑走路もしくは滑走路に準ずる長い道路などが存在しません』
……つまり、どの場合でも、機体は墜落するという事か。やっぱり命中率100%と言われる『ペルーン』はすごいな。
『この子達には任務を達成させてから、地上で死なせてあげたかったのに……。わかりました。フィーガナ、誘導して。ユーリイとクリョーンは、緊急脱出装置の確認を』
『……了解』
『了解』
そして、フィーガナが導きだしたミサイルを避けつつ『ペルーン』からのダメージを最低限に抑える進路をとって15秒くらい後。
『来ます』
フィーガナの声が無線から聞こえた直後。
左側の空が、一面の白に覆われた。




