01-6 基地にて出会う
ルーアレード総合基地。
“帝国”の中でも、もっとも“東側”に近く、そして人口がもっとも多い都市に近いことから、ルーアレード近辺にある陸海空三軍の基地はどれも大きい。
陸軍のルーアレード陸軍基地は、町の北側にあり、約4万人を受け持っている事からその大きさがわかるだろう。
そして、海軍の基地と空軍の基地が同居する総合基地は、比率で言えば空軍の方が多い。海軍が、この大陸の周りを囲っている忌まわしい“黒い帯”の内側しか活動出来ず、しかもルーアレードから東側に向かえる海峡も、“黒い帯”の発生地帯なので、戦力そのものが弱い事もある。
一方、空軍の方はというと偵察機から戦闘機、練習機、爆撃機、輸送機と全種類がそれぞれ2個飛行大隊揃っている程大きい。
そして、今回、“東側”にお邪魔するために、その空軍の機体を使う作戦が実行中だ。
「お待ちしていました、陛下」
西側に海がある関係上、基地の東側に長大なフェンスがある。そこを常時見張りがうろついている訳だが、その見張りが味方だったら?
答えは簡単。誰にも見つかる事もなく、侵入する事が出来る。
つい最近導入されはじめた監視カメラとかいう代物も、まだ王宮や首相官邸にしか備わっていないから、記録される心配も無い。
「陛下がご搭乗なされる機体は、MIG-35と呼ばれる高速戦闘機であります」
「スペックは?」
「速度においてマッハは2.83、時速に換算しますと3,090㎞、最大速度はマッハ3.2、同じく時速に換算しますと3,490㎞でありまして、航続距離は1,730 km、実用上昇限度は 20,700m、最大到達高度記録は37,600mであり、我が国の最新技術の結晶と言える戦闘機であります」
「その様な機体を“東側”に運んで良いのかしら?」
「もう一度開けられた場合、1時間後にミサイルが誤爆する仕組みになっておりますので、“東側”は欠片の一片も回収できなくなります」
「という事は、“東側”の基地以外に着陸しなければいけないのかしら?」
「はい。我が国の優秀なスパイが、“東側”のウォーナンブールの近くに、商業用に私営の空港を作っており、そこに着陸出来るので、そこでスパイが対応をはぐらかしている間に陛下は脱出してもらいます」
「わかりました」
しゃべっている内に、誰にも見つからず、一番の東の端にある格納庫に着いた。
監視所の中の兵士が、女帝陛下に頭を下げているのを横目に見ながら、格納庫の中に入ると、戦闘機のエンジンが動いている音が聞こえてくる。
大きな鉄骨製の建物は、球技が出来そうなほど拾い。緩やかなアーチを描く天井も、ドームの天井にも見えなくはない。
キィィィィィンと高く長い音を響かしている戦闘機は、天井にぶら下がる無数の電球に照らされ、銀色の輝きを放っていた。
「……誰?」
そして、その戦闘機の前に、戦闘機のヘルメットを被り空軍の制服などを全て着こなしている少女がいた。
声を出した女帝陛下をみた後、続いて俺、最後にユーリイを見た少女は、ほほえみを浮かべた。
「認証システム認識完了。本人と確認。これより、会話を始めます」
「えっ?」
「……私の名前はフィーガナです。私を作ったのは、ロボット工学の権威であったタクーラ博士。私はタクーラ博士に作られた最後のサイボーグであり、将来、サークラ女帝陛下が“東側”に行くことがあろうから、それを手伝えという指令に基づいて、その目的の遂行のためにこの場所にいます」
……付属品、というにはすごい代物だな。
人間より柔らかそうな肌色の顔が、ヘルメットの中に見え、俺は思わず質問した。
「誰の命令だ?」
「……先程申し上げました」
「違う。タクーラ博士に命令したのは誰だ?」
「……ヌーラア元国王陛下です」
ピクッ、と女帝陛下の体が動いたのが見えた。
ヌーラア元国王陛下とタクーラ博士は、7年前の同日に殺された。“東側”のスパイの手によって。その他にも内戦を戦った歴戦の将軍も、3人も死んでいる。
「日付は?」
「帝暦1967年1月21日にヌーラア元国王陛下からタクーラ博士に、同年1月27日にタクーラ博士から私に命令が下りました」
“暗黒の日”の1週間前、か。
「お父様は……」
弱い声色が、戦闘機のエンジンの音にかききえそうになる前に、俺やには聞こえていた。
「お父様は、何かおっしゃっていましたか?」
「はい。もし、我が娘に会った場合は以下の事を告げるように、と付属の命令を承っています」
「言って」
「……サークラ。恐らくは私は1ヶ月とない命だろう。だから、私の一番大事な娘の1人に言う。この国をクリョーナと共に導いてくれ。そして、一生を生きてくれ。私は天国か地獄かで見守っているから。……以上です」
「……有り難う」
しばらく、フライト用の服を持ってきた兵士が声をかけるまで、俺達は固まっていた。
『こちらイーグル01。02、感度は良好か?』
『こちらイーグル02。良好。よく聞こえる』
そして、滑走路へと繋がるドアがゆっくりと開きはじめた時には、すでに機上の人になっていた。
前の戦闘機には前席にフィーガナが、後席にユーリイが乗っていて、こちらの戦闘機には前席に女帝陛下が、後席に俺が乗っている。
『こちらタワー。イーグル01及び02、目的を答えよ。繰り返す、目的を答えよ』
東側に行くため、さ。
心の中で答えていると、両方の戦闘機はゆっくりと滑走路に入り、加速を始める。
『繰り返す! イーグル01及び02! 目的を答えよ! 目的を答えよ!』
『旅行のためよ』
地声で出した女帝陛下の声は、心なしか笑っている様な感じがして、2機の戦闘機は一定の速度を越えると、ようやくアラームがなりはじめた基地を横目に滑らかに機首を上げた。
世界がだんだんと傾いていって、押し付けられる力も増すが、女帝陛下の操縦にはなぜか安心できて、無意識に左側の窓からルーアレードの町並みを見た。
『綺麗でしょ?』
『はい』
機内無線で話しかけてきた女帝陛下の質問に即答するほど、整然と整えられた町並みは綺麗だった。
『こちらイーグル01。このまま高度30000メートルまで上昇後、時速3000㎞で南東に向かいます。よろしいですか?』
『こちらイーグル02。異存は無いわ。よろしく』
『有り難うございます』
ごめんな、更に遅くなるっぽい。
無線を聞きながら、無意識に浮かんだアイツに謝る。まあ、素直に謝っても、右のストレートが2・3発来そうだが。




