19-2 クリョーンという主人公について
クリョーン・フラクレアという少年を得る事が出来た組織は、この“大陸”を征服する事が出来る。
ジャピード帝国とヨーロイド王国の政府や軍の上層部で5年前から語られ始めたその噂は、今となってはかなりの信憑性を持つと言われている。
何故か?
大陸にいる14人の他のレベル5全員と戦い、ただ1人を除いて勝った少年が。
その14人のレベル5の半分以上と仲良くなり、その内の半分から好かれた少年が。
つい最近には、カールマニア王国のレベル5全員と共闘(?)した少年が。
2ヶ国から要請された戦いにおいて、個人では死者0人記録を更新している少年が。
そして、両国の軍隊の兵士の半分が、テロ組織の一部が、政府や王室が彼に限っては好感触を抱いている少年が。
ただの『高校に通わない少年』の域に収まるはずがなく、その『勢力』の規模ゆえに、噂の信憑性は高まっていた。
そんな少年を、恋愛感情で好きな乙女は多い。
例えば、少年が育つ村に住んでいる、小学生から社会人までの幅広い人々。
例えば、ジャピード帝国の皇室。
例えば、ヨーロイド王国の王室。
例えば、レベル5の何人か。
例えば、彼に助けてもらった数多くの人達。
結局。
この物語を書き始める前から、彼は主人公だった。
そして、この物語は、この“世界”における彼の最後の物語。
だから、特と見てほしい。
彼が、これからの物語でどんな道筋を歩み、その結果にどんな足跡を残していったか。
役者は続々と舞台に上がる。
舞台の準備は、あともう少しで終わる。
◇ ◇ ◇
1973年のクリスマスの日の事。
そのウソをついたらいけない日、1つの集団が、ある1つのウソを本当にしようとした。
「戦争による統一は、この世界に平和をもたらす」
そんな妄言を、その集団は信じてしまい、行動を起こしてしまった。
ブラッディクリスマス事件、通称BBケース。
後にそう名付けられた、ブラックバースデー事件とならび歴史上最悪の事件と言われるその事件は、大陸の双方の陸軍と空軍の一部、双方の国家元首を守るために組織された筈の親衛隊の一部、そして5つのテロ組織のその殆どが参加した。
互いの傷口に塩を塗りまくっていたご時世に起きたその事件は、参加者が何も知らずに巻き込まれた兵士も含めたら50万人以上に及ぶ巨大な事件だった。
「まさに鬼だった。戦場の綺麗な鬼だ」
しかし、一時はヨーロイド王国国王を捕らえ、双方の当時の内閣のその殆どを捕らえる所までいったその事件は、1人の少年が動き出した事によって、失敗という形で無理矢理幕が降ろされた。
例え、約50万人が武装していようとも。
1人の少年の呼び掛けによって、残りの20人のレベル5が動き出せば。
たった半日で鎮圧される事を、一般人は知ることとなる。
公式発表では、1人の少年の呼び掛けではなく、それぞれの判断が連鎖的に幸なる方向に進んでいき、それにこの事件に反発する兵士が呼応。敵対勢力を撃退するに至った、となっているが、それを発表した政治家達自体は、眼前に1つの現実を突きつけられたも同然だった。
もし、今回のように守備側ではなく、事前に準備して、レベル5全員が攻撃側に回ったら、恐らくは簡単にやられるという現実だ。
このBB事件の後、大陸の2つの国は、それまでのレベル5に対する対応を激変して、レベル5をどちらかと言えば嫌っていた姿勢から、機嫌取りに終始する姿勢にだ。
その“姿勢”からもたらされた策の1つが、『盗賊団「ラーク」の今までの罪を実質的に免除して、これ以降「ラーク」が罪を犯さず、治安に協力する場合のみその存続を許す』という、ヨーロイド王国の大胆な策だった。
「善な悪の組織を目指していく」
その後、大陸のどこかで開かれた会議において、リーダー格の1人だったレベル5がそう宣言した事から『ラーク』は盗みを働く『ラーク』と、それまでの稼ぎの一部を使って組織されたヨーロイド王国非公認治安部隊『ラーク』に分裂して、それぞれの道を歩んでいく。
治安部隊の方の『ラーク』のリーダーとなったレベル5の依頼によって、クリョーンから救いだされたセレナは、若干10歳にして『ラーク』に入る事となり、色々(・・)有りながらも得れた市民権から小学校に通いつつ、一方ではギャングなどを鎮圧して、警察に引き渡している。
「どこにも出れないお城にいたときよりかは、ものすごくまし!」
その環境をそう言い切ったセレナは、恋敵との一悶着があって、彼女の養母であるミーシャからこっぴどく絞められた後、1つの光景を見ていた。
場所はビクトリア市内最大の駅であり、首都のやヨーロイド王国に通じる鉄道の主要な駅の1つであるセントラル駅のホーム。
彼女は、ミーシャと手を繋ぎつつ立っていて、目尻には涙を浮かべていた。
一方で、彼女の王子様は、列車の窓越しにホームの上に立つセレナとミーシャを見ていた。表情は別れを惜しむような顔。
簡単に言えば。
首都のではなく、王宮があるに向かうクリョーンとその他の見送りだった。
「またあいにくるよね?」
窓越しなので声は聞こえないはずだが、クリョーンはセレナの口の動きから判断して、笑みを浮かべながら頷いた。
その返答に、セレナは涙が流れるのを抑えながら、ミーシャと繋いでいる手とは逆の手を大きく振った。
それと同時に、列車のドアが閉まり、電気機関車独特の大きな音を出しながら、その長い体を滑らし始めた。
この後。
クリョーンとセレナはしっかりと再開する。
ただし、1つ大きな違いを見せて。




