19-1 何回も行ってるとパターンが出る
サークラ女帝とクリョーンのヨーロイド王国入り。
そのニュースに対するレベル5達の反応は様々だった。
ある水のレベル5は、それを聞き流した。
ある炎のレベル5は「死ななかったのか」と一言、物騒な事を言った。
ある木のレベル5は、物騒な事を言った仲間を、自分の能力で攻撃した。
ある金のレベル5は、それを見ながら、その木のレベル5を茶化した。
その茶化した金のレベル5が、顔を赤らめた木のレベル5に拳で飛ばされるのを無視して、土のレベル5は自分達に下された命令に読み上げた。
結局の所、大陸のレベル5達に通じる思いはあっても、それぞれそれを口にする事はない。
それが彼らが生きている理由だし、その理由を失ったら、彼らはこの世界の掟を破るだろうから。
◇ ◇ ◇
少し前に言った5つのテロ組織。
実は、彼らには1つ共通する事がある。
「よっ」
少なくとも1回は、クリョーンに起こそうとした事を鎮圧されている事。
ある組織では、すでに8回も鎮圧されていて、まさに彼らの天敵になっていた。
「……………………」
「あれ? 黙りこみ?」
だから、彼らの殆どはクリョーンの事が嫌いだ。
その殆どに入らなかった人達、つまり数学の全体集合で言うならAにもBにも入らない人達にとっては、クリョーンという少年は好奇の対象だ。
そして、その内の1人が、ビクトリア市にいた。
「また太りました?」
その1人の目が細くなって、行動を起こす。
クリョーンに行動する暇を与えなかった。いや、むしろ、クリョーンは動こうとしなかった。
「やっぱり、いつものクリョーンだ!」
ギュッと。
家の2階のベランダに飛んできた木のレベル5・クリスティナ=ローラーが、決して小さくはないそれを、自分の体とクリョーンの体で挟み込んだ。
今年で24になるには見えない容姿のクリスティナの温もりを感じながら、クリョーンは辺りを見渡す。
石造りの家だったり金属の家だったり新旧入り交じる住宅街の、家の屋根の上だったり、電柱の上に人が立っていた。
「お久しぶりです、みなさん」
「久しぶりだ、クリョーン君」
クリョーンが、4人に対して挨拶をする。対する返答は、家の目の前の電柱の上に立って笑みを浮かべる男性だけ。それが彼らのいつも通りの挨拶だった。
「勝手に人の家の前の電柱に立たれると、鬱陶しいのだが?」
ボワッ、と一瞬背中が熱くなった。
電柱の上の土のレベル5・カルマンタ=スチュアートは、笑みを残したまま礼をする。
「申し訳ございません。呼び鈴を鳴らすと、迷惑をかけるかと思いまして」
「電柱の上に立たれるよりかはましだ」
ベランダの外に立っているクリョーンとクリスティナの横ではなく、セレナにあてがわれた部屋で、一堂に介した5人のレベル5全員を纏めてそう評したミーシャさんは、コンコンと窓を叩いた。
窓は雨も降っていなかったのに、ベッタリと全体が濡れていた。
「ルイ。能力無しで、後でこれを拭いとけよ?」
「わかりました」
ミーシャさんの火によって飛ばされた雑巾を、自分の水の能力で消火しながら、ルイ=ローンチェスターは答える。
「は・な・し・て! クリョーンはわたしの!」
「クリョーンは私の許嫁よ!」
火のレベル5のミーシャさんと、王国親衛隊のリーダー&副リーダーのピリピリとした空気の一方で。
クリョーンの方では、セレナとクリスティナが彼を巡って争っていた。争う、といっても彼の右手と左足を引っ張りあっているだけだが。
「地味に痛い」
別に俺は誰の物でもない、と冗談で彼女達が争っていると同時に結論付けたクリョーンが言うと。
「ほらぁ! 痛いって言ってるじゃない! お子様は諦めて離しなさいよ!
「お子様じゃないもん! まだ11才のりっぱな子どもだもん!」
レベル5同士の争いは激化した。
それを止めたのは、クリョーンでもなく、クリスティナの上司であるカルマンタでもなく、セレナの里親であるミーシャでもなく。
「うるさい」
完全無音、狙った物は外さないが売りの筋肉から作られた狙撃銃の2発の銃弾と、二重の意味をこめたフィーガナの言葉だった。
「「「は、はい」」」
数本の髪の毛の先を持っていかれた2人と、フィーガナのジト目を見たクリョーンが同時に答えた。
ミーシャさんとカルマンタさんは同じような苦笑いを浮かべた。
こうして、少し人が増えたのと結末以外には、あまり変わらないクリョーンのいつも通りのヨーロイド王国入国2日目の朝は更けていった。




