18-3 試練と日常
「彼のパートナーになるんだったら、まず料理の腕を上げないとね」
1月26日午後10時過ぎ。
市内のある一軒家に私達はいました。年収何千万と言われるミーシャさんは、恋心を自覚して、色々と計画を建てていった中で決めていたらしいその家のリビングに、私と女帝陛下とさんがいました。
眼前には、テーブルの上の皿に置かれた黒い物体。
私が生まれて初めて作ったポテトは、ぐずぐずに崩れ、フライパンの中のそれは黒く固まっています。
「そして、君はまず基礎から鍛えないとね」
私の隣に立つ女帝陛下にも、ミーシャさんは言います。
自信をつけて作ったというオムライスは、米は水の入れすぎでべったりとなり、卵はスクランブルエッグみたいになり、そしてお肉はそのほとんどが繋がっています。
ぎゅっと拳を握り、ミーシャさんの言葉を身に染みませた女帝陛下は、完璧なお礼をにした後、エプロンを畳んで置き、リビングを去ります。
「ありがとうございました」
私も礼を言ってお辞儀をした後、エプロンを畳んで置き、リビングから出ました。
「おっ。フィーガナか」
風呂から上がったクリョーンが、頭から湯気を登らせながら出てきます。
普段ならば、それを電脳の記憶にすぐにインプットして未来永劫使うようにデータベースに入れますが、その時の私はぼんやりとしていて、すぐには頭が動きませんでした。
「……クリョーン」
「んっ?」
その時の私は、ただ彼に聞きたい事があって、それを言うか言わないか迷っていただけでした。
けれど、私の口は私が止める暇もないうちに、彼に質問をしました。
「料理が出来ない子は嫌い、ですか?」
「嫌いじゃないよ」
即答、だった。
「料理は出来なくても、その子にはその子なりの得意分野があるし、苦手な事があるんだったら、皆と一緒に治していったら良いしな」
……一緒に治す、か。
「じゃあ、クリョーン」
「んっ?」
「一緒に私の苦手な事治す事を手伝ってくれますか?」
「ああ、もちろん」
笑顔で、彼は答えてくれました。
着替えを私達にあてがわれた部屋に取りに行って、お風呂に浸かり、人工の筋肉が弛緩していくのを感じていると、やっと冷静になりました。
「さっきの約束、告白に聞こえるよね」
一人言で呟いて事を再認識して。
どうせ彼は気付いてないんだろうなと思っても。
体中が熱くなった後その熱はなかなか引かず、お風呂とは別の理由で弛緩した顔もなかなか元には戻りませんでした。
◇ ◇ ◇
『クリョーーーーーーーーーーーーーン!!』
電話越しに聞こえる声を聞きながら、俺はよく声が続くなあ、と思っていた。
目の前には、呆れ顔の女帝陛下。さっきのフィーガナとの会話を聞いていたらしく、一頻り俺をからかった後、ミーシャさんから電話を借りて、ある所に電話をかけた。
『大丈夫だった? どこかケガしなかった? サークラにいじられなかった?』
最後の1つは、さっきやられました。
「大丈夫ですよ、クリョーナさん。そんなに心配してくださりありがとうございます」
『あっ。……ごほんごほん、えーとクリョーン君?』
「はい」
『まぁ、何と言うか……お疲れさま、だ』
「ありがとうございます。残りの半分も気をつけて行きます」
『ああ。……必ず帰ってこいよ?』
「はい」
電話を女帝陛下に渡して、姉妹水入らずの会話を聞きながら、俺はリビングに向かった。
そのリビングには、テレビにはまだ慣れないから、と新品のラジオを机の上に置いて、定時の国際ニュースを聞いてるミーシャさんがいた。
『……皇帝が長期間にわたり公務などに姿を現さない事について、ジャピード帝国政府は以下のように発表しました。
「皇帝陛下は皇居の中で重傷を負われ、しかし臣民に心配をかけないように、本日まで沈黙を保っていた次第である」
約3週間にわたる長期間の沈黙の後のこの発表に、帝国中から皇居前に人々が押し寄せ、一刻も早くケガが治るように祈っています。なお、ヨーロイド王国政府も「ジャピード帝国からの要請があれば、何時でも最高の医師達を派遣する事が出来る」と報道官が会見で話しています』
戦闘機が撃墜された事は、そのまま不法侵入を行おうとしたから共同で撃墜した事になっているらしく、帝国と王国が躍起に事実を隠そうとしていた。
まあ、皇帝が国王を亡命に誘おうと撃墜覚悟でヨーロイド王国に入ろうとした、とありのまま話したら話したで、戦争が始まりかねないが。
「これからはどうなってるんだ?」
俺はカールマニア王国の時と同じく、必要な時にしか話さないユーリイに聞いた。
ミーシャさんと反対側の椅子でラジオを聞いていたユーリイは、視線をこっちに移して答えてくれた。
「隠すも何もあったもんじゃないから、公式にヨーロイド国王を訪問する事になった。まあ、一般には伝えられないが」
「ように言うと、不法侵入とカメラ有りの公式訪問の間で落ち着いたと?」
「そんな所だ。お前にも、最後まで付き合わせてもらうぞ?」
「もちろん」
そこまで話した所で、ミーシャさんが顔を上げた。
国際ニュースが終わって、3国の天気予報に入ったラジオを緩慢な動作で消した後、リビングを見渡そうと首を振る。
「あっ、いたんだ」
「はい。少し前からいました」
1つの事に注目すると、周りま見えなくなミーシャるさん。リビングを見渡してから、ようやく俺に気付いた。
そんな彼女を積極的にサポートして、知らない間に彼女の心を掴んでいた元プロデューサーは、上司に呼び出されて、仕事場のテレビ局に行った。
だから、この家にはミーシャさんとセレナと俺達しかいなく、10時半という時間帯なら、その内の1人は寝てるはず、なのだが。
「クリョーン!!」
船着き場と同じ、というよりはいつもと同じく、超音速でセレナが突っ込んできた。
いつも通りに、俺は彼女の首根っこをつかんで、彼女はそれを支点にしながら止まる。
「子供は早く寝る時間だろ?」
「子どもじゃないもん! だからいっしょにねよ?」
……否定してから、すぐに否定する。
そんな、いつも通りのセレナに、俺は喜びを感じつつ頷いた。




