18-2 王子様は大食い。けど運動してるから……
わずか3歳にして、レベル5となった彼女は、生まれ育ったヨーロイド王国によって、王国北東部のある島に連れてこられた。
『正しく能力を使えるように』
その言葉と共に、彼女は国家によって育てられた。
時には、軍人が能力者と戦闘の考えについて教えた。
時には、国立大の教授が勉強を教えた。
時には、経済学の専門家が経済学を教えた。
それは、まるで王室の子息に教えるような勉強だったという。閉ざされた島で、彼女は1人で様々な事を学んだ。
彼女は、抵抗した。
時には、その小さな島を逃げ回った。
時には、教師を人質にとって、大陸で遊ぶ事を許可させようとした。
時には、肉に手をつけず、ひたすら痩せようとした。
しかし、それらは全て叩き潰された。
ヨーロイド王国の歴代の政府に属する大人のレベル5達によって。
「はじめまして、ラップンツェル」
13歳の彼女の誕生日。
彼女が言う“白馬の王子様”が、彼女の下にやって来た。
馬には乗っていなかったけど。
服は所々破れていたけど。
頭からは決して少なくない血が流れていたけど。
「御迎えに参上致しました」
彼女には、確かに囚われの姫を救うためにやって来た王子様に見えた。
◇ ◇ ◇
ビクトリア港。
ヨーロイド王国の南方州の州都であり、王国の中でも第3位の人口を擁するビクトリア市にあるその港は、ヨーロイド王国最大の貿易港でもある。
対ジャピード帝国の海上貿易においては約8割を占め、対カールマニア王国においては帝国との協定によってヨーロイド王国唯一の貿易港となっているため、3ヶ国のそれぞれの人々が一番多く集まる町だと言われている。
港の近くのレストランも、3ヶ国の人々が一様に集まり、それぞれの食事をしていた。
しかし、そのレストランでも、町でも、無意識に3ヶ国の人々の注目を集める光景はなかなか見ることが出来ない。ストリートライブにしても、あれは意識的にやっている事だ。
午後6時半過ぎ。本人達にとっては無意識で、人々の注目を集める一団が、壁の木が変色してきている所もあるレストランにいた。
「マスター、おかわり」
ボックス席の片方に座る少年が、ある料理が入っていた皿を、席の前で待ち構えていた客の1人に渡した。
「私も」
少年とは逆の席につく女性も、皿を客に渡した。
自ら進んで、キッチンと席の間を往復する役についた客は、笑みを浮かべながら、キッチンに向けて走る。
何秒かした後、あらかじめ作られていた料理を持ってきた客は、2人の前に皿を置く。
「「いただきます」」
律儀に、最初から合わせて7回言っている言葉を言った後、2人は同時にその料理に手をつけた。
フィッシュ&チップス。
一般的にそう呼ばれる事の多いその料理は、鱈などの白身魚を揚げた物にポテトを添えて食され、ヨーロイド王国ではファーストフードとして親しまれている。
普通のサイズのフィッシュ&チップスを頼むと長さ20センチ、幅10センチ、厚さ3センチの切り身を揚げた魚が出てくるが、2人は一気にそれを平らげる。
その後は、相手の動きを見ながら、胃を休ませるためにポテトをゆっくりと食べる。小皿の上のケチャップも、そろそろ瓶の半分まで減ろうとしていた。
「相変わらず、ですね」
隣の窓側に座るクリョーナとその膝の上に座るの視線をずっと受けながら、クリョーンは女性に話しかける。
2年ぶりにあった女性は、やはり窓側に座る夫の心配そうな視線を受けながら、余裕をこめて答える。
「君もだよ。2年ぶりにここに来てくれたおかげで、ストレスも解消できた」
8皿目を食べ終わると、女性は手をあげた。
「負けたよ。やっぱり、衰えがあるね」
おおっ、と周りがどよめいた。
クリョーンはそれを聞きながら、客に空の皿を渡す。そして、自信たっぷりに言った。
「おかわり、お願い出来ますか?」
歓声と、クラッカーを打ち上げる音が、店から溢れた。
◇ ◇ ◇
この世界において、女性が活躍できる仕事は、徐々にだが多くなってきている。
例えば、軍の兵士。カールマニア王国ではすでに導入され、大陸の方でも導入が検討されている。
例えば、旅行の時のコンダクター。一度導入されると、『無愛想に見える男性より良いと主に女性の観光客から人気が上がり、人数では今や男性を越えた。
例えば、学校の教師。軍の徴兵経験を受けて帰ってきた男性の教師は、厳しくてイヤだという主に子供の意見によって、半々の割合で雇っている。
そんな徐々に女性の進出が目立ってきた中で、9年前からあり今でも女性の注目の的を集める職業がある。
アイドル
ヨーロイド王国の南半分を統治していた王国の親衛隊から始まり。
戦争が終わった後からは、庶民の間に急速に広まっていき。
ジャピード帝国とヨーロイド王国。
溝よりも深いと言われた皇室と王室の間の仲を、それぞれの中からアイドルを輩出して、ユニットも組ませる事によって変わらせた職業。
そして。
ついさっきまで俺と食べ比べをしていた女性は、つい半年前にアイドルを辞めた伝説の人物のであり。
その隣で女性を慰めているのが、ミーシャ・カロリッタさんのプロデューサーだったクレメンス・カロリッタさんであり。
すでにおめでただけども、セレナを養ってくれる事を受け入れてもらったレベル5の夫婦である。




