18-1 ヨーロイド王国入国! 感慨深くはない!
ヨーロイド王国。
その先祖となった国々は幾つもあるが、直属の先祖としては、一般的に2つの国が挙げられる。
一方はカレランス王国。南側に30年前からあった立憲君主制、つまり国王が直接統治しないという珍しい政治体制の王国だった。戦争に関しては、中立を主として、攻められた場合にのみ戦うという専守防衛の体制だった。
他方はセラルーミ王国。北側に17年前、つまり今の1965年から数えて統一の8年前(これからも1965年から換算していく事とする)にあたる年に建国された比較的新しい王国である。戦争は、拡大するチャンスがあれば、積極的に拡大していく方向性を取り、とりわけ西の後のジャピード帝国の母体の1つとなるセルバーレ帝国との戦いは、今や物語にもなっているほど有名である。
その文化のカレランス王国と軍事のセラルーミ王国が合わさり、ヨーロイド王国が誕生したのが、ジャピード帝国より10日早い時だった。
形式的には、2国の政治体制の並立が憲法で謳われたが、実際は北のセラルーミ王国による力が強く、カレランス王国だった所では州なみにまで力を減らされた。
それを憂い、祖国の力の回復によってヨーロイド王国に『本当の平和』をもたらすと、国民を騙しているのが、カレランス王国の軍人や政治家、資産家などによって結成された『カレランス党』であり、その下部組織ではないかと言われているのが、時にジャピード帝国でもテロ活動を行うテロ組織『マルルーナ』である。
カレランス王国と同じような経緯を辿ったのサランタ帝国の人々によって作られた『サランタ復活祭』、この世界の魔力の源を出している“ルウル”などに住んでいたインディアンによる『世界のための組織』、東西統一を目指して東西の民族の垣根を越えて結成された『世界を統べるために』、そして今しがた解散された『山賊』と並ぶ3ヶ国国際指定テロ組織に登録されている『マルルーナ』は、警察はもちろん軍からも狙われている。
今まで、ロケットランチャーやサブマシンガンなど軍で使われていた、もしくは使われている兵器を『マルルーナ』に使われてきたので、やる気も満々である。
そして、また『マルルーナ』は、時々それ以外の組織からも狙われる事がある。
盗賊団『ラーク』
それが、時には『マルルーナ』と戦う事もあれば、時には手を組む事もある組織の名前であり。
同時に、ジャピード帝国とヨーロイド王国から各2人ずつレベル5が所属している組織でもある。
◇ ◇ ◇
俺達が帰ってきた1月8日。
ヨーロイド王国最南端の州である南方州の州都であり、元々はの首都であり、そしてアシルさんやロワイエなどがかつて在学した大学があるキャンベラ市で。
『ラーク』に所属する少女は、1人で海岸沿いにある倉庫の1つの中で寝ていた。
「生きてるか~?」
音も立てずに、金属の階段を男が上がってくる。
その声に、少女は薄目を開くが、長く綺麗な金髪の間から男を見た彼女は、ゆっくりと目を閉じーー。
「寝るな」
れなかった。
ゴツン、と見事に男の拳骨が、脳天に決まった。
「いったーい!」
少女から上がったのは、可愛い、子供特有の高さが残る声だった。
所々、中の羽毛が出ている布団と、新しい掛け布団から起き上がったのは、身長140センチの少女。金色に輝く短髪はその多くが跳ねていた。
「なに?」
「お前、携帯の電源入れてないだろ」
「はい?」
「時間、わかっているのか?」
「じかん?」
「今、午後6時39分だ」
「……えっ?」
男がの驚いた顔を認識した直後だった。
バリン! と、倉庫の窓が同時に割れて、1つの音となった。
「相変わらず早いな」
割れた窓と、その先に見える船を見ながら、男はーーセレマース・マーランは呟いた。
周りには多くの窓ガラスが飛び散っているにも関わらず、セレマースは服を含めて傷1つ無かった。
◇ ◇ ◇
ドップラー現象という物理現象。
音の速さの関係で、『さっき』聞こえた音と『さっきより後』に聞こえた音が、違う音の高さに聞こえる現象。
しかし、時にはその音源が近づいてくる時の音が聞こえてこない場合がある。
それは
秒速1000メートルで飛び込んできた幼女の首根っこを、左手で掴んだ場合だ。
もちろん、炎の能力を出したら出し女を掴んでいる右手が吹っ飛ぶので、あえてしなかったので恐らく、幼女が文字通り飛び込んできた速度で体が回転しようとした。
しかし、その回転は止められた。
「えい!」
莫大なエネルギーを、小数点レベルまで繊細に操った幼女の逆噴射によって。
「……“金色の風使い”、か?」
はためく長い髪を押さえながら、女帝陛下は幼女に、通称で確認した。
対して、周りの風の暴走を無意識に抑えた幼女は満面の子供の笑みを浮かべながら答えた。
「私はセレナ・エルヴィス! クリョーンお兄ちゃんのしょうらいのおよめさんになる人!」
いつも通りの自己紹介だった。




