11-20 降ろせたかな?
軍艦、という平和主義者にとっては、忌避する存在であるその言葉は、主に海軍の艦船の種類を包括した時に言われる。
戦艦、航空母艦(空母)、巡洋戦艦、巡洋艦、海防戦艦、駆逐艦、水雷艇、砲艦、フリゲート、海防艦、ミサイル艇、魚雷艇、潜水艦……。その種類の中にある艦船達は枚挙に暇が無いが、“黒い帯”のせいで広範囲に活動が出来ず、予算が陸軍や大陸のみにある空軍に比べたらものすごく少ない海軍にとっては、1つ1つ厳しく審査して配備する艦艇を決めている。
「なぜ、1回だけの攻撃に抑えたのか。その理由は巡洋艦を誘き寄せるだけに目的があったからですね」
巡洋艦。
ジャピード帝国とヨーロイド王国にそれぞれ1隻しかなく、このカールマニア王国では最大クラスの軍艦であるその艦船は、現在カールマニア王国海軍が有事で出動した際、水上部隊を指揮する役割がある。
それと同時に、これはこの世界全体に言える事だが、巡洋艦は対潜攻撃の主要な艦艇の1つとなっている。
幾度となく、更新され続け、飽きもせずに3ヶ国やその前身の国々達との間で結ばれ続けた『大陸及びカールマニア島周辺海域おける3ヶ国の海軍の規模、活動、規定などを総括するために結ばれる協定』、所謂海軍協定において。
「巡洋艦以外の艦艇には一定数以上の対潜装備の設置が禁止されています。だから、海軍は巡洋艦の巨大化、対潜装備の更新といった事を急いできました」
潜水艦という海面下からの攻撃に海軍は怯え、その敵に対抗しえる大きさや装備を兼ね備えてきた。
しかし、その弊害と言える事が出てきた。
「巨大化や更新によって、同じ艦艇を複数備え、そしてそれを維持するお金が無くなってきました。ですから、このカールマニア王国には地上に対して攻撃できる巡航ミサイルを唯一持っている巡洋艦を、東側に行かせる必要がありました」
首都でこれから起こす反抗のため邪魔だったからです、と彼女は理由まで言う。
そろそろお腹が空いてきたが、まだ話は続きそうだ。
「その作戦は順調に進み、巡洋艦は東側に向かわされる事となりました」
しかし、です。
そう区切ってから、彼女はコーヒーを飲み干して、自分のコーヒーを作り始めた。ポットのお湯をコップの中に入れて、ポットの隣に置かれている牛乳を入れながら、彼女は話の続きを言った。
「しかし、考えてみればおかしい事があります」
「それは?」
「何故、用心深いルータ将軍が、たった1回の攻撃だけで、巡洋艦を東側に向かわせたのか、という疑問です」
「……何故だと思う?」
「簡単ですよ」
「その命令を指示した人物が、ルータ将軍より上位の軍の指揮権を持つ者だから、か?」
毛布の集団から女性のはっきりとした声。
右手をつきながら体を捻って俺達を見るアドリーヌの瞳は、鬼気迫る物があった。
「正解です」
答えたのはフィーガナ。
出来たコーヒーをアドリーヌに渡し、自分の分をまた作り始めた。
「粗方の所、目的は『軍内部に大量に潜む危険分子の野郎どもの殲滅』か?」
「汚い言葉は使うな」
「今さらだ」
すぐにはコーヒーを口につけず、パイプ椅子を俺の左側に置くアドリーヌ。
対してフィーガナは、自分のコーヒーを作り終えた後、右側のパイプ椅子に座る。
「まだこちら側のレベル5が5人いて、そこにレベル5の中でも最強クラスと呼ばれるクリョーンが、期せずしてこの国にやって来たんだ。事を起こす気にはなるだろうな」
アドリーヌが浮かべる笑みは、嘲るような笑みではなく、少し感謝を帯びた柔らかい笑みだった。
◇ ◇ ◇
動乱が終わった日の夕方。
その頃には、まだ戒厳令や外出禁止令が出ていたり、多くの町に警察や軍がいたりと物々しい雰囲気だが、“後片付け”のような雰囲気が漂っていた。
「お疲れ様」
アルフェンバート市内に建つ国防総省。
その建物の中にある部屋の1つで、ロワイエ大統領は労いの言葉をかけていた。
「どうも」
簡潔な返事を返したのは、首相。
ロワイエの親友でもある彼は、厳重な手錠を嵌められ、腰にはロープが巻き付けられ、足には左右の机の脚に片方がつけられている手錠が嵌められていた。
彼らの計算無しでも予想通りに死なず、捕らわれただけのは、窶れた声を出す。
「大変だったんだぞ。ルータの野郎にばれないように二重人格を装ったり、時々作戦に進言して『命令が出たら信じれる人物』とルータに思わせるのは」
「その全てをひっくるめてお疲れ様、だよ。今はそれぐらいしか言えないしね」
「なるほど」
仏頂面をずっと浮かべていたは、漸く納得したような表情をした。
「道理で、その後ろには怖い表情をした英雄がいるわけか」
「……お久しぶりです」
「お久しぶり。このような格好で済まないね」
まあ、予想通りと言えるの対応だった。
なにしろ、この国を戦争に導こうとした輩を、一気に炙り出させるという目的を達成したから、ずっと笑みを浮かべている。
「それで? 一体、犯罪者である私になんのようだい?」
「この動乱で殺された人の人々の分を償うために、ルータ将軍もろども犯罪者として死んでいってほしい。ただ、それだけです」
「……言うね」
「後、自殺や暗殺はやめて下さい。さらに、ロワイエ大統領は巻き込まないで下さい。彼には『後始末』を任せたいので」
「……だってよ、ロワイエ。どうする?」
ほんの少しも身動きをしなかったロワイエは、1つため息をついて、ボサボサになった髪を掻きながら答えた。
「わかった。英雄の言う通りにするよ。刑の執行はいつでも良いね?」
「それはご自由に。内政には関わらないので」




