11-18 強すぎる繊細な2人
先ず結果だけを言おう。
結局、俺達が勝った。つまり、意図的に周りの空気をそのままにされた俺と、少女と同じ空気のレベル5である大尉の手によって、こちら側の全勢力を潰そうとした彼女を止める事が出来た。そして、最後の切り札を使う事を阻止する事も出来た。
しかし、だ。
少女が言っていた“豪華な顔ぶれ”の中で。
少女に失神させられた者はいたが、ケガを負わされなかった者はいなかった。
そして。
少女は一切ケガを負わなかった。
「強い、な」
戦いが終わった後、俺は少女を誉めた。
「運が良かっただけだ」
コシチェイを天空に返しながら少女はぶっきらぼうに言うが、顔は笑みを浮かべているのが後ろ姿でもわかった。
極限まで自分を開発していく少女。少女が目指すゴールが見えているのかいないのかは、少女だけが知りうる事だ。
「運が良かっただけで、誰も死なせずに戦いを終わらせる事が出来るか?」
世間一般では『悪者になりきれない悪者』と言われる所以はそこにある。敵を完膚なき所まで叩くことはあるが、決して殺そうとはしない。何度も挑んできた敵に対しても、精々半身不随にするまでだ。
その決して殺そうとはしない事と、帝国・王国の双方から指名手配されているにも関わらず若干18歳ながらも逃げ延びている事、そして美少女という容姿から、双方からの人気は意外と善悪問わず高い。一切何者も殺さない、と宣言している犯罪組織が、目標たる人物と決めているほどだ。それは、宗教という物が一切信じられなくなったこの世界では、目標たる人物を定める事自体が珍しい。
「それは、こいつらの運が良かっただけだ」
こいつら。
そう少女が言った三人称は、少女が守った兵士でもあるし、フィーガナなどのこちら側の戦力の事を指す。全員、気絶はしているが、死んではいない。
こちら側の全勢力を潰そうとした、とさっき言ったが、言葉が足りなかった。
彼女は殺そうとしていた。
俺と大尉を殺した後、若干残しておいた酸素を全て吸い上げる事によって。
「では、用も無くなった事だし、ここを去らしてもらおう」
少女は、まるで買い物に行くときかのような足取りであるきだした。
無言でそれを見ていると、10歩を過ぎた辺りで止まり振り返った。
「あ、そうそう。1週間後に“渡し船”で見ても騒がないように伝えといてくれ」
「誰が、誰の事を、誰にかぐらい言え」
「私の恋人ならそれぐらいわかるだろ?
……まだ想ってくれていたのか。
「そんな表情をするな。言っただろ? 私は何時でもクリョーンの事を想い続けるって」
「けどーー」
「わかってる。これが叶わない恋だという事は。まっ、気長に待っとくよ」
手を振りながら、少女は去っていった。さっきまでとは違い、無警戒な背中を見せながら。
気長に、か。
その少女の寂しそうな背中を見ながら、俺は久し振りに“アイツ”の事を思い返していた。
◇ ◇ ◇
クリョーン君はそう証言したのですか。
彼は、嘘つきですね。
私は戦ってなんかいません。確かに、あの少女の攻撃に耐えて、その後もずっと起きていました。いえ、ここは表現を変えましょう。起きていた、のではなくただ突っ立っていました。
隊長など、その場にいた人達が一様に気絶した後。
音が消えました。
それは、2人が動かなくなったからではありません。
2人は、動きました。おそらくは、ほぼ同時に。
それぞれの10本の指先から飛び出した能力。それは、ちろちろと燃える生易しいレベル1といった勢いではなく、レベル4の1回貯めてから撃つものでもなく。
その双方の10の攻撃が、それ1つで町1つを破壊出きるような規模であり、人の目には決して見えない速さである攻撃。
衝撃波は、何重にも生まれました。
1つ目に、その攻撃それぞれの極細の衝撃波。
2つ目に、攻撃がぶつかり合い、それぞれが交互に組み合わせながら、広がっていく衝撃波。
そして3つ目に、上2つの衝撃波を消す衝撃波。
「相変わらずだな」
「お前こそ」
一方は炎を爆発させて、一方は空気を操って、自分たちが生み出した衝撃波を消しました。
それを、恐らくは攻撃を出しながら計算して、共に他に被害が及ばないようしたのでしょう。
そんな事を平然とやらかしたその2人は、さっきと動かずに、そのままの姿勢で、感想を言い合いました。
そして。
「まだまだ足りないか」
そうあの少女は言って、敵に背を向けました。
その後は彼の言った通りですよ。
◇ ◇ ◇
クーデター事後措置特別委員会 発
カールマニア王国大統領官邸 宛
報告書①タイムテーブル
より抜粋
午前7時25分 クリョーンによるルータ容疑者への攻撃から戦闘が開始
午前7時25分~27分 クリョーン及び少女を中心とする会話
午前7時27分 少女による攻撃。この一撃で、クリョーンを除く半径1キロ以内にいた敵味方問わない全員が気絶する。詳細は後告書で報告する。
午前7時29分頃 クリョーンの証言によると戦闘が終了。共に決定打を与える事ができず引き分けに終わる
午前7時32分 クリョーン、大統領側の部隊に対する合図であり、首都にいた将軍側の最初で最後の炎弾攻撃を実行。全兵士が気絶する。
午前7時34分 王宮より半径1キロより外側にいた大統領側の部隊が王宮に到着。ルータ容疑者などを中心とするクーデター側の主な面々を拘束。




