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なにかしら  作者: コーレア
上 忙しい旅の章
45/58

11-16 とある敵は強すぎる

 趨勢すうせいは既に決まっている。

 魔術師は、焼け焦げた王宮の前で敵が現れるのを待ちながら、半分は負けている気持ちでいた。

 そもそも、このフィールドにクリョーンという異物が現れた時から、半分は失敗が決まっていた。さらに、その半分は、ルータというやたら怒るおっさんの幼稚な作戦で埋められ、クーデターが始まってから半日も経っていないにも関わらず、既に最後の切り札を使おうとしているまでに至った。

 だから、半分は負けている気持ちでいた。

 もう半分は、これからわかる。おっさんの車が止まった直後に、恐らくわかる。その半分の結果で、自分の将来が決まる。名声が闇の世界に飛び交うか、再びクリョーンに挑まなければならなくなるか。


「将軍閣下の車が見えた」


 不安にさいなまれながらも、おっさんを信じてついていっている兵士もいる。

 そんな中で、それでも手際よく、最後の切り札を使うためだけに作られたカノン砲を兵士達が部屋から出し終えた直後、無線機にこの場の指揮を任された男の緊張した声が流れた。

 普通、クーデターとかそういった現在のその国を統治しているモノに反旗をひるがえす事に参加する場合、そのリーダー格の人物の事を知ろうとするだろう。

 手を加えたりはしないが怒りっぽいその性格は最悪な性格ではないが、その怒られた兵士は、周りの兵士達に軽蔑けいべつの目で見られる。

 それに耐えかねて、元に戻ろうと思っても、のも元の所から見ればその兵士は犯罪者、それも国家に逆らった者の1人である。無論、良い歓迎はされない。

 そうやって、逃げ場を失ったその兵士が行く道は限られ、どの道にも良い結末は待っていない。

 だから、今ここにいる兵士達から見れば、ルータというおっさんは、その手で殺されるよりも厄介な地獄を与えてくる野郎であり、その事は彼らもわかっている。

 だから。


「来たか」


 だから、音速で飛んできた火の攻撃を防がなければいけない。

 おっさんの為ではなく、不幸な兵士達の為に。


◇ ◇ ◇ 


「やっぱり、アンタだったか」


 おっといけない、声に出してしまった。


「わかってて、こんな音速の攻撃を仕掛けて来たんだろうが」


 何かを振り払うように右手に持つ剣を振ったそいつは、左手の開いていた指を5本一気に握った。


 音が、消えた


 マッハ5で迫ってきた空気の細長い槍を、こちらもマッハ5で放った炎弾で当てただけだ。

 たったそれだけで、5個のその細長い槍は飛んできた速度と重なり、すさまじい勢いで爆発した。誰もいない川の上で。


「やっと会えたな、くそ野郎」


 その爆発の衝撃波で波が起きている中でもその場所を、今までと同じ態勢でいる大魚のリーダー格の大魚が、うらみの対象であるその魔術師にありったけの怨み節吐いた。

 吐かれた魔術師はその言葉を無視して、ずっと俺の方を見ている。


「……ねぇ」


 ピリピリとした空気の中で、別の大魚に乗っていたアドリーヌが話しかけてくる。今も続々と増え続けている全ての兵士達ではなく、明らかに初めて見た魔術師を警戒しながら。

 やっぱり、名前は知られているが顔さ知られていなくても、正体は何かと感じとるらしい。


彼女・・、いったい誰なの?」


 男口調のローブを羽織った女魔術師。

 例え美男だと言われても信じてしまうほどの美貌びぼうを持つ俺と同じ18歳の少女でもあるその魔術師は、自分に関わる話題になると、よく口を挟む。もちろん、話す時の相手は選ぶらしいが。

 今回も。

 彼女は口を挟んだ。


「国境の村出身の“影”よ」


 と。

 山賊であった彼女には、その抽象的な言葉で、金髪をポニーテールでまとめている少女が誰であるかわかったようだ。

 少しだけ目を見開き、警戒態勢を厳にしたアドリーヌを見て、その少女は笑みを浮かべた。


「っ!」


 カラン、と木片が地面に落ちる音が響いた。

 少女とアドリーヌを結ぶ線上の地面に、その木片は落ちていた。少女側の木の先からそのほとんどがひしゃげた木片が。

 あざ笑う少女の笑みにアドリーヌは最高速で木片を作り、少女に放った。その木片を、少女は動くことなく、空気を操って叩き落とした。

 字面で見れば簡単だが、それを1秒前後の間に成し遂げているから凄い。


「クリョーン」


 さっきの攻撃の時も俺を見たままだった少女は、友達に話しかけるように俺を呼んだ。いや、実際に俺と少女は友達だった。


「なんだ」


 対する自分の答えは素っ気なく、警戒心をあらわに。

 それが3年前のあの日から始まり今に至るまでの俺の、彼女に対する評価だった。


「隠れている人達も呼んでくれると嬉しいんだが」


 何度もあった戦闘の中で。

 俺は少女に勝ったこともあったし、少女が俺に勝ったこともあった。

 しかし、共に止めはささなかった。それをしてしまうと、越えてはいけない一線を越えてしまうから。


「……わかった」


 そんな『好敵手ライバル以上友達未満』の関係を作りあっている少女。

 その名前を知らぬものはこの世界にはいない。

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