11-13 プロメテウスの導き
つまりは連戦連敗であり、苛つきはすでに天を衝いている。
ついさっきまで続々と入ってきていた情報を持ってきていた不幸な兵士達は、今ではすっかりいない。
その代わりに執務室に取り残されたのは、壁に貼られた各基地など軍事情報満載の地図をずっと睨んでいるルータ将軍に、その将軍にかける言葉が見つからず今までの損害が纏められた紙を心置きなく見ている陸軍参謀総長、そして自分の机でその2人を見比べている私だ。
首都の真ん前で繰り広げられた戦闘の後、午前5時30分の今まで不気味な沈黙が保たれている。無論、今では西側の港にいた艦隊も展開している東側の海を含めた全ての海域で、軍港1つをパーにした潜水艦が動いたという情報も無い。
つまり、それは何かしらの成果も無いという事だ。
だんだんと戦力を削られていく味方に対して、元々が強いのにそこに山賊とルータ将軍以上の英雄と言われるナルクア氏がついた敵。徐々に、部隊から離反する兵士も出てきたらしい。
前の大陸との“邂逅”の時に密入国させた魔術師も、相手を追い詰める所まではいけたが、ギリギリで少年と山賊に逃げられた。激怒して罵声を飛ばしまくったルータ将軍の言い分を一頻り聞いた後、表情1つ変えずに静かに退出した。まあ、怒ってはいるだろうな。
「……首相閣下」
じっくりと考えた末の新しい作戦が出たらしい。
「“プロメテウス”の使用を許可願いたい」
はあ。規定路線通り、か。
これは予想より早く決着がつくかもしれないな。
「民間人を巻き込んだら、どうなるかわかるな?」
「もちろん」
参謀総長が、その事の重大さにおろおろと私とルータ将軍を交互に見ているのを視界の端に捉えながら、私は答える。
「では、許可する。東側に繁栄があらんことを」
◇ ◇ ◇
「ルータ将軍の作戦は、過激な作戦が多かった。その作戦に、私や首相が反対して、ルータ将軍が修正している内に、状況は動き、そして作戦は失敗していった」
それで私達に個人的な恨みが溜まったのかもしれないな、とロワイエ大統領は付け加えるように言った。
午前2時、アシルさんの秘密研究所の中での事だ。
「そのルータ将軍が考案した中で、一番過激な作戦が“プロメテウスの火”の使用だ。」
……プロメテウスとは、このカールマニア王国の国内で伝えられている伝説の中で存在する神様の名前だ。人類に火を与えた彼は、彼を含んだこの国の神話の主神にこっぴどく怒られ、しかも天界を追放された。そのプロメテウスの子孫が、現在の火の能力者であると言われているらしい。
現在では、リスクの大きい科学技術に対する暗喩として言われる事もある。
30年前の事だ。
1945年当時、それぞれの国を後に統一する事になるそれぞれの国王は、まだ表舞台に出ていなかった。
この時代は、現在のサークラ女帝陛下やヨーロイド王国国王のお爺ちゃんが後の自分達の国になる中で覇権を争っていたが、その部下である将軍達もそれぞれの軍の中で覇権を争っていた。
その中の1人、ジャピード王国陸軍参謀本部にいたルーべ大佐が1つの案を参謀本部に上申した。それが、後に核爆弾と言われる事になる新型爆弾の製造案だった。
今では大陸でもカールマニアでも知らない人はいないと言われているほど有名な地名となっているオリンピックダム鉱山に、銅などの元々使っていた鉱物の他にあった新しい鉱物が、今までの調査の結果、現在使用しているいかなる爆薬よりも強力な爆薬を作れる代物になるらしいので、製造を許可してくれないかとの事だった。
統一後の抑止力などで色々と悩んでいた参謀本部は、先制攻撃には使用しないという条件付きで、製造を認可した。
作っていく過程の中での物語は置いておくとして、結局完成したのが.1953年の事だった。
「平和の礎に」
1954年、後にヨーロイド王国となる地域で覇権を争っていた南北2ヶ国などを呼び寄せて、後のジャピード帝国の直接の祖先となるレーピッド帝国が、大陸中部の砂漠で公開核実験を行う。
その威力と悲惨さに恐怖したレーピッド帝国と直接戦っているサラファン帝国は、国境云々で言い争う事もあったが核実験から半年後に、レーピッド帝国と講話条約を結ぶ。
一方で、直接関係はなくとも西側への拡大を狙っていた東側の2ヶ国、ヨーロイド王国とシュルヴァト王国は、この核実験後に拡大を諦め、それぞれを倒すことを目標とする。
核爆弾開発を主導した科学者が、起爆スイッチを押す直前に言ったその言葉が、この世界全体を指すのかそれとも祖国を指すのかはわからないが、平和が出来たのには変わらなかった。
但し、その平和が一時の平和にしか過ぎず、結果的には内戦の終結に導いたがより多くの悲劇を生み出す事になろうとは、その時は誰も思いもよらなかっただろう。
その話はまた別の機会に述べるとして、ジャピード帝国の核爆弾を真似て開発したヨーロイド王国製の13発の核爆弾の内の1個が、カールマニア王国国内に持ち込まれた事は殆どの人に知られてはいない。
しかも、その核爆弾が1964年のクーデター以降、王宮跡の地下に移された事についてはロワイエ大統領・首相・アシルさん・ルータ将軍だけしか知らない事だ。
だから、早めに決着をつける必要があった。
焦れたルータ将軍が、最後の切り札を使わないように。しかし、予想より早く、それを使われる段階に入った。
午前6時30分、東の空に太陽がその身を全て出しきった時、核爆弾運用許可が陸軍に下る。
同時に。
大陸から来た魔術師は、ある準備を終えた。
結局の所、今までは単なる前哨戦。
これからが、最初で最後の本番。
この国の命運を握る最後の戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。




