11-12 そして新たな段階へ
あけましておめでとうございます。
今年も残り364日と17時間よろしくお願いします。
「……ありがとう」
「こちらこそ♪」
アドリーヌは楽しそうだった。
直接ではなかったといえ、俺の爆発の衝撃を防いだからだろう。
まあ、直接ではなかったからな。それに力も少し抑えてたし。別に悔しくなんか無いが。
そして、山賊の皆さん。羨やましそうで恨むような表情しないでください。さすがに約200人に攻撃はされないけど、じっと見られると怖いし恥ずかしい。
纏めると、だ。
刑務所の酸素を燃料として久しぶりに起こした大爆発。前はキノコ雲がはっきりと見えたほどの爆発を起こしてしまったので、其ぐらいにはならないように気を付けはしたが、年に1回はするかしないかの力業に細かな制御は無理だった。
想像以上に規模が大きくなった爆発は、目的だった分厚い刑務所南側の分厚い壁だけではなく、その先の外にある地形をも吹き飛ばしていった。
アドリーヌ曰くゴツゴツとした岩肌が海岸まで続いていたという地形は、今ではすっかり砂だけの平坦な坂道になっていた。
「運んであげよう♪」
今までの疲れとこの力業で限界に近づいた体力の俺を見て、コシチェイの攻撃を迎撃したり避けたりしながら、アドリーヌがそう言って、許可を取らずに俺を自分の背中に乗せた。
所謂おんぶという物で、コシチェイただ一点に集中していた山賊達の意識が一気にこっちを向いたのがわかった。
現れた場所から足を1ミリも動かしてないから、という理由でコシチェイは刑務所の1階の廊下だけしか動けないという結論を導きだしたドリーヌの勘は運良くあたり、今はゾンビの遠距離攻撃を防いでいるだけだ。そのゾンビも、刑務所の外には出ないが。
「ところで、クリョーンに質問」
「なんですか?」
「どうやって出るんだい、ここから?」
「簡単な事ですよ」
アドリーヌの背中から降ろしてもらい、水面を叩いた。ある妖精の名前を心の中で呼びながら。
「遅かったな」
5秒も経たない内に、その妖精達は出てきた。
無数の大魚という形で。
「すまんすまん。ゾンビとコシチェイが現れてな」
「コシチェイ? 珍しい奴が出てきたな。……で?」
「んっ? ああ、この人達がお客さんだ。200人ぐらいいるがいけるだろ?」
「俺達をなめるな」
ヴォジャノーイ。
主にジャピード帝国や同じ血統の西側の民族で信じられている民話の中の水の妖精であり、俺をここまで連れてきてくれた黒い大魚だ。
前までは人々を無理やり水のなかに引き込んで餌としていたらしいが、ある事件の後穏健になり、色々と人間に協力している事で有名な妖精だ。
「この女性がアドリーヌ・シャンクレア。山賊のボスだ」
「クリョーンに口説かれた1人か?」
「はっ?」
恐らくはアドリーヌに聞いているのだろうが、思わず俺が反応してしまった。
一番前にいる黒い鱗の大魚の視線が1度こっちを向いた後、また前のフィーガナに戻った。
「まだ、口説かれてない」
「ほー」
アドリーヌの真剣な表情の返事を見た後、口をパクパク動かして周りの大魚を集めたリーダー格の大魚は背を向けた。それに応じて、他の大魚達も背を向ける。
「続々と海岸の周りにうるさい奴等が集まってきている。早く乗ってくれ」
話始めたのはお前からじゃないのか、という文句を言ったらこいつの性格上すねるのは確実なので、口には出さない。
アドリーヌや山賊達も、様々な感情で俺を見ているが、文句は出ないらしい。
結局。
少しの間の混乱の後、埠頭から出されたフル装備の部隊が見たのは、今にも崩れそうな刑務所と、ゾンビの効果が切れて死屍累々(ししるいるい)と横たわる全員気絶した刑務達だけだった。
無論、彼らの目的である山賊や少年の方は生きている者はおろか、死体さえ見つからなかった。血痕は色んな所に飛び散っていたが、ただそれだけだった。
首都の真ん前で繰り広げられた戦闘と、その結果として勢なはずの勢力側の勝ち。
アルフェンバート刑務所の戦い、として語り継がれるその戦いの意味は、時が経つほど大きな物となっていった。
◇ ◇ ◇
一方でロワイエ大統領は、西側にある1つの村の集会所にいた。入口、といっても明確な線引きがあるわけでもないが生い茂っていた林が開けて、光景が広がっている西の入口から入った。
その村は、主に南と西の2つの方角から入る事ができる。しかし、南の入口は危険で、攻撃をされたら歴戦の兵士でも高い確率で終わる暴れ馬が下に待ち構えているから、そこは使わなかった。
なによりも、その南の入口はつい10日前に攻撃されたばかりだ。
「お待ちしておりました、大統領閣下」
ホグーポート村の高台にある集会所。潮風の臭いが時々漂うその集会所に、大統領を含む一団を待っていた老齢の男性がいた。
10年前からアラクネが見ていて、10日前にクリョーンやサークラが見たその男性。
「お久しぶりです。ナルクアさん」
大統領でさえ敬語で話すその男性の名前は、フレデリック・ナルクア。このカールマニア王国の中で、10年以上前から生きていた人にとっては、知る人ぞ知る有名人である。
一応、大陸でも知ってる人がいるが、生憎俺達は知らなかった。
「敬語はやめてください。今はたんなる村長にしか過ぎませんから」
「しかし、8年前のこの世界の危機を救ったあなたには、国民を代表して、敬意と感謝を申し上げなければいけません」
「大げさですよ」
優しい、おおらかな笑みを浮かべたナルクアさん。
それは、アラクネやサークラ女帝陛下と一緒に護衛の1人としてついてきていたフィーガナによれば、10日前に見た笑みと変わらなかったという。
「折り入ってお願いがあります」
そして、大統領はかつてのカールマニア王国陸軍参謀総長であり、8年前に大陸の統一を手伝った英雄であるナルクアさんに単刀直入に言う。
「反撃軍の指揮をお願いします」
「……わかりました。異民族である私を匿ってくれたこの村を守るためにも手伝いましょう」




