01-4 首都にて②
帝暦1974年12月23日大陸中部時間19時17分。
ジャピード帝国・アーデレード市内エリースパークの噴水の近く。
そこにいるのは、俺と女帝陛下とそのお姉様と女帝陛下のボディーガードと宰相閣下の兄。
「妹を“東側”に連れていってほしい」
女帝陛下のお姉様であるクリョーナさんは、確実に俺の方を向いて、俺にむけて、はっきりとその言葉を言った。
だから、急に頭が動くのを止めた。次に動き出したのは、止まってすぐかもしれないし、何分もたった時かもしれない。
「じょ、女帝陛下を、ですか?」
そして、頭が動いて、それにつられる様に動いた口は、無意識に真っ先に浮かんだ事を言葉に出していた。
「ああ。私は単なる仲介者だ。君を妹と会わせるためのね」
「しかし、なぜ、私が……」
「簡単な事だよ」
頼まれたら自信がある人以外は、口に出すであろう質問に、パトソールさんが口を挟んだ。
ちらりと、クリョーナさんの方を見た後、スーツのポケットから少し折り目がずれた紙を出す。
「時に、今、この世界で能力者と認定されているのは何人ぐらいか、クリョーン君は知っているかい?」
「約1万人ほどだったと」
「正確には1万1053人だ。このジャピード帝国で3076人、“東側”で6977人。
その内、なにかしらの能力を使った犯罪を起こしたのはその内1729人。その無法者達は、全員刑務所に収監されている。
次に、軍に入ってこの国のために働いてくれている人達は2735人。陸軍と空軍、そして海上警備庁の労働環境の整備は完璧と言える。
最後に、民間で働いてくれている人達は5089人。こちらの労働環境も完璧と言える。
そして、隠居や学校に通っている人達は1499人。やはり、環境は完璧と言える。
さて、第2問だ。今まで、能力者の内何人を言った? そして、その余りの人物の名前は?」
「1万1052人、です。名前はクリョーン・フラクレア。つまり、私です」
「そう。理由は、君が発見された翌日に崩御された前皇帝陛下が残された遺言書に、君のフルネームの後に『処遇は彼に任すように』と書かれていたから」
この遺言書に、皇室や政府は騒然とした。
どれほど記録や記憶をひっくり返しても海岸に漂着する前日の記録が一切無い少年の名前を、皇帝陛下が知っていて、しかもその少年の後の事を遺言書に書き記していたのだから。
しかも、その少年は伝説にも出てくる容姿をしていた。紅く輝く髪、海のように青く澄んだ瞳、そしてその美貌の3つが一級品で全て揃っていて、極めつけは12歳にして能力のレベルが最高位の一歩手前の5だという事だった。
「もちろん、政府としては東側に取られないためにも、管理下に置きたい。しかし、皇帝の遺言は必ず実行しなければ、裏切り者となるので、強くは言えず、また法律上から学校にも入らす事もできず、宙ぶらりんの君ができた。
そして今回、政府は君にある条件を提示する事にした」
「条件、ですか?」
「ああ」
一気に喋りとおしたパトソールさんは、一度大きく息を吸う。
「もし、君が女帝陛下の護衛をしてもらうのなら、政府が教育基本法を改正する、という事だ」
さながら、それは甘い果実だった。
アイツと同じ学校に通う。それは、いつからかずっと抱いていた夢で、とうてい叶わない事だと思っていた。
しかし。
今、その夢が叶う取り引きの舞台に俺は上がらして貰っている事になる。
恐らく、女帝陛下が東側への旅行(?)の途中で死んだら、どんな理由で死んだとしても俺は捕らえられ、悪くて即刻死刑になるだろう。
だが、『連れていかない』という答えも悪い方の結果をもたらすかもしれない。だったらーー。
「わかりました。女帝陛下にお伴します」
護衛のユーリイ以外の3人が、俺の答えに笑みを浮かべた。




