11-10 天使と炎神
その時。
カールマニア王国陸軍ロケット砲小隊の隊長だったナーリャ・ルーフェンスは、無事全弾が飛んでいったモノ達を見ながら、人生で一番嫌な気持ちになっていた。
ルータ将軍直々に誘われて優秀な部下を引き連れてこのクーデターに賛同したが、抗する基地にロケット砲を撃ち込んだ時には、ズキッと心が痛んだ。
しかし、今はその基地を砲撃する時より心が痛む。まだ、基地を攻撃する時には、抵抗する敵を排除するという理由があった。だが、今は違う。
目標の村にはあの作戦でまざまざと見せつけられた特別攻撃小隊や大陸から観光で来ていたという少年少女がいるという情報があるが、その他にいるのは、私達の同士と、武装解除され武器を持たない村民達である。
自分みたいに今さら後悔しているのも他にいるんだろうな、とロケット弾が飛んでいった方を見ながら、そんな事を半ば現実逃避で考えていた。
だから。
自分が見ていたロケット弾の全弾がほぼ同時に爆発した時、いつもより反応が遅れたし。
「……はっ?」
漸く頭が起きた事を理解して、それが体に染み渡った直後でもすっとんきょうな声を上げた。
な、なにが? 誤爆した? 全弾が? ほぼ同時に?
黒煙を上げながら森の中へ落ちていくロケット弾だった物は、すぐに消えて、ただ黒煙が立ち上るだけになった。
「手を上げろ」
そんな光景を見ていると、カチャ、という音が自分の後ろで聞こえて来た。
攻撃でロケット弾がやられたという事を一切考えずに、ボケーとしていた事に対する後悔より先に、敵に問いたいという気持ちが先に沸いた。
「お前達が撃墜したのか?」
と。
一切抵抗の素振りをせずにゆっくりと腕を上げるナーリャに驚きながらも、敵の兵士はそれを表に出さず答えた。
「いや。大陸から来た“天使”が落とした」
その言葉を聞いて、ナーリャに沸き上がった感情は喜び。誰も殺さずに済んだという軍人らしからぬ喜び。
「小隊全員! 武器を降ろせ。我々の完敗だ」
だから、負けを認めて部下に言う時、ナーリャの顔には笑みがこぼれていた。
天使が愚かな私達を断罪してくれた。そう思えたからだった。
午前4時24分。
一切の死傷者を出す事なく、大統領側の部隊はクーデター側の部隊だったロケット砲小隊を鎮圧する事に成功した。
◇ ◇ ◇
一方で。
アルフェンバートの埠頭に立っていたある若い兵士は、その埠頭の沖合にある島を他の兵士と共に凝視していた。
無線が言うには、本当の事をわかっていないバカな少年が、我々の民族の絶滅を謀る男にたぶらかされ、同じ目的を持つ山賊救おうと、難攻不落の刑務所に入ったらしい。我々に反意を翻したとは言え、西側に比べたらまだ敵性が薄い刑務所に潜入した少年は、途中までは成功したものの『大陸から来た魔術師』が起こした奇術によって、立ち往生されているとも言っていた。
ジャピード帝国や西側の間で広まっている民話に基づき作られた骸骨。まさか、自分達が信じる民話に殺されようとは思いもよらなかっただろう。
しかし、1階で骸骨と戦っている奴等が、可能性は薄いがもし外に出れた場合に備えて、アルフェンバート湾の沿岸に展開するそれぞれの部隊がそれぞれの武器を構えていた。
刑務所島から約500メートル離れた所にある埠頭にいる兵士達は、対戦車ミサイル『ミラン』の安全装置を外していた。
『全部隊、射撃準備はいいか?』
「第1小隊、いつでも行けます」
小隊長が本部からの無線に返事した直後だった。
刑務所の南側が白く光った。
湾の沿岸にいた全ての兵士と、屋内で軟禁されていたり監禁されていたりしたアルフェンバートにいる全ての住民が見ることが出来た光。それは、何千人もの人々の行動を一時的に止めるには充分過ぎるほどった。
そして、目を開けたままでいられた一部の兵士は、次にその太陽を間近で見ているような光の中で繰り広げられた光景を見ることが出来た。
いや、例え見ることは出来なくても、何が起きたかは全員想像することが出来た。
そう。
まるで隕石が落ちたような爆発音を聞いたら、その音源で何かが起きている事ぐらいは想像出来る。
だから、カラン、と刑務所の檻の一部だった鉄の棒が間近に落ちても、ほとんどの兵士が固まったままだった。
1、2分が経って漸く刑務所を覆っていた煙が消えた時、全方位の壁がひび割れているという無惨な姿をさらしたそれが見えた。
最近、地の文は多いです。




