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なにかしら  作者: コーレア
上 忙しい旅の章
36/58

11-7 美人と老人、そして少年

 アドリーヌ・シャンクレア


 10年前のあの日の前から、その人物の名前は国民に広く知られていた。

 カールマニア王室親衛隊の初の女性隊員として。


 しかも、統一戦争や大陸での“衝突”の武功で名を上げた事で名門となったシャンクレア家の後光を使わず、母親の妹の夫の家族の所に家出。陸軍の中でも特殊部隊以上に精鋭と言われる親衛隊のメンバーになった人物は、ある記者の質問に対してこう答えた。


「私は父親とは違う。父親の後は絶対継がない」


 10年前のあの日まで、陸軍の参謀総長についていたラーヌ・シャンクレアは、その娘の言葉に対して「別に気にしない」とぶっきらぼうに言った。


 それ故に、だろう。


 10年前のクーデターの失敗の後、山賊の初代リーダーとなっていたラーヌが、3年前に戦傷が元で亡くなった後に、アドリーヌが山賊の首領を継いだ時、国民が大きく反発した。

 その反発がきっかけとなり、アドリーヌが首領になって半年後、それまでで最大規模の部隊が山賊の本拠地を攻めた。

 しかし、結果は陸軍の敗北だった。

 アドリーヌが、いつの間にか身に付けていたレベル5の木の能力によって。

 ルータ将軍が、引き際を判断していなかったら、壊滅していたと言われるほどにだ。

 『木の戦い』として数多くある要塞での戦いの中でも記憶に残る戦いで、アドリーヌはおそれられ、同時にルータ将軍は特に西側の兵士に尊敬される事となる。

 その後も多種多様な手段をもちいて繰り広げられた戦いは、まさに一進一退の攻防を見せ、わずか2週間前の時でも、その山賊の勢力の範囲は『木の戦い』の時と対して変わらなかった。

 しかし、外と内からの天敵によって、戦いに終止符が打たれた……はずだった。


「彼女を連れてきてほしい」


 アドリーヌもロワイエ大統領もアシルさんも恐れていたクーデターが起きなければ。

 前に言った通り、10年前の加害者の多くは西側の民族であり、被害者の多くは東側の民族である。

 そしてアドリーヌを含めた山賊の多くは、元々は加害者であり西側の民族である。だから、今回のクーデターを起こした面々(ルータなど)にとっては、クーデターのもあるし、その後の村への襲撃が西側と東側で3:7だった事もあり、恨みの対象だった。

 しかも、その首領であるアドリーヌは、カールマニア王国に唯一敵対しているレベル5。これからのためにも、山賊の排除は優先すべき事になっている。

 だから、ロワイエ大統領が彼女たちが協力してくる事を望み、俺に『アドリーヌを含んだ山賊を刑務所から連れ出す』という作戦を頼み、俺はその頼み事を了承した。


「わかりました」


 頼んだのがこの国の元首なので、刑務所への行きは簡単に出来た。

 申し訳ないなと思いながらも、炎弾を使って、刑務の人々を気絶させていった。本部ももちろん、全員を気絶させた。成功したあかつきには、収容されていた全員が消えているのだから。


『……全員に告ぐ。収容者を全員殺せ』


 アドリーヌ個人が入れられていた檻の鍵を、彼女の協力を取り付けた後開けた直後だった。

 平坦な、本当に抑揚よくようのない所長の放送が、刑務所に響きわたるまでは。


「野郎共、なんとしてもここを出るぞ!」

「おおー!」


 静かに、うめき声も出さず、まだ気絶しているはずの時間帯で起き上がった刑務。

 俺と、魔力を封じる手錠を外したアドリーヌを一瞥いちべつすると、なんの躊躇ためらいもなく、水弾を出した。

 それを難なく炎であしらった直後に、刑務所の至る所から聞こえてきた爆発音。その時点で信じられない事が起きている、という事をやっと頭が理解した。

 そうすると、起こすべき行動は1つ。


 ゾンビのごとく迫ってきた刑務の人達を倒しながら、この島を脱出する。


 しかし、さすがはゾンビだった。

 何度も何度も気絶させても、ものの10秒経てば、ゆらりと立ち上がってくる。

 歴戦の強者さんぞく達でも恐れる中、アドリーヌは出口に向かいながら、檻を次々と開けていく。開けられていく檻が増えていく度に、壁に穴が開いたり、鉄格子が吹き飛ぶ数が多くなっていった。


「やっとッ! 来れた!」


 山賊達にも負傷者が段々と出ていく中、2階までの全ての檻を開けたアドリーヌと、途中から手伝っていた俺は、やっと1階への階段を降りきった。

 山賊約200人vs刑務約150人の戦いも、やっと勝利への糸口が見えてきた。そう思った直後だった。


 これまでとは比較できないほどの穴が、俺のすぐ横の壁に開いた。


 破片が飛んでくる恐怖で目を閉じてしまうのをこらえながら、超音速で真横を通過した“何か”の発射源を見る。


「久しぶりに能力を使うとなると、やはり簡単に当たりませんなぁ」


 そこにいたのは老人。

 黒いマントをまとっただけの老人。

 喋っても口は動けない老人。


 そして


「しかし、恩を返せなければなりません」


 神話の中で語り継がれてきた老人。


「コシチェイ、だと」


 宗教は否定していても、この島や大陸に昔から信じられている物語の1つの主人公。

 命を我が身に宿さない老人。


 不死身のコシチェイ


 そう呼ばれる、しわがれた声を出す骸骨の老人が、眼前に立ちはだかっていた。


◇ ◇ ◇ 


 銃弾と砲弾。

 それまでの攻撃と、コシチェイが出してくる攻撃を比べれば、普通にそれくらいの差があった。

 しかも、恐らくだが空気を操ってきているので、俺の炎弾やアドリーヌの枝とは違い中々見えない。コシチェイが指をほんの少しだけ動かすのを見ていないとよけれない程に。

 極めつけに、その弾は重く、速かった。マッハ3ぐらいの速さで、はじこうとしてもずっしりと来る重さの弾が来るのである。


「あんた達は踊り場に隠れてなさい!」


 アドリーヌがすぐさま山賊達を引かせたほどの強さの攻撃を繰り出す骸骨は、現れた時と同じ所に立ったまま、次々と弾を出す。


「にゃろう!」


 隙間すきまをぬって、コシチェイに向けて攻撃を繰り出しても、弾で簡単に弾き返される。


「さて、若者。降参する準備は出来たかなぁ?」


 そして、10秒事に動かない口から出る言葉。

 最初に現れた時をのぞいてその言葉しかしゃべっていない。最初は鬱陶うっとうしいだけだったが、今では絶え間のない攻撃にそう思う暇もない。

 ただし、20秒事にこれだけは言っておく。


「「誰が降参するか!」」


 しかし、戦闘が始まってからすでに8分。今までの疲れが溜まっている。そろそろコシチェイを倒さないと、体力的にヤバい。

 アドリーヌも避けたり、受けたり、攻撃したりとさすが元親衛隊隊員と言える最小限の動作で戦ってはいるが、顔の汗の量が凄まじい事になろうとしていた。


「ねえ、クリョーン君」

「なん、ですか!?」

「ちょっと、ばかし、作戦を、頼みたい、っと!」

「わか、りました!」


 アドリーヌが手振りで山賊達を2階に上がらせ、それを見送った後、左右の壁に貼りつく。

 今さらだけど、これを真っ先にしてたら、こんなに疲れる事は無かったんじゃ……。


「ふむ。作戦会議かねぇ」


 俺達が隠れる直前にズドン! と、廊下の床をえぐる弾を放ったコシチェイは、一旦攻撃を止める。たんなる興味か、あったらだが疲れを癒すためか、その後も攻撃はない。

 まだ上では散発的に爆発音が聞こえるが、ゾンビ映画が目の前で始まった時からに比べたらまだ静かだ。何十分かぶりの静寂に、ようやく肩の荷が降りた。


「ありがとう」


 長い一息をついた後に聞こえてきた一言。その一言は、これまで聞いた声の中で一番弱く、小さい声だった。

 けれど、その声で自分の今に意味があるんだなと、安心感が湧いてくるのは、俺が弱いからだろうか。


「どういたしまして」


 違う。これは伝説の英雄や神でさえ、その言葉を聞いたら、俺がと同じ気持ちになる。

 だから、その時だけに感じる事ができるくすぐったい感じを心に残しながら、何回も言った事を言った。

 そして、聞く。

 女性の微笑みから山賊の首領たる微笑みに、その意味を変えたアドリーヌに向けて。


「それで? 作戦とは?」


 アドリーヌは、悪者の微笑みを浮かべながら、その作戦を告げた。



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