11-2 追われる者はある意味では使い
「そうか、逃げられたか」
「申し訳ございません。2個小隊で攻撃しましたが、“流れ者”達の反撃が大きく……」
「問題ないよ。あくまでこれは威嚇だからね。これ以上、表舞台には出てくるなという意味の」
と言っても、ロワイエの性格上、なんらかの形で表に関わってくるはずだ。
そこに特別攻撃小隊やあの4人が加わっているから、その表に関わる確率も規模も大きくなるかもしれない。最悪の場合も考えないといけないだろう。
「首相閣下」
「なんだね、ルータ将軍」
普段ジムに通っている私でも到底比較にならない体格の持ち主であるルータ・クレイネ将軍が、何かを思い付いたようだ。
前任に代わり現在までの6年間、対山賊の部隊の指揮を続けてきたルータ将軍は、軍や政府の間では「勝ちはしないが負けもしない将軍」と言われている。つまり山賊に勝つ事もないが、撤退の判断がすこぶる良いので負ける事もない、という事だ。
そして、ようやくルータ将軍が認可した特別攻撃小隊の出動と、偶然この島国に現れた彼らの活躍で、山賊は壊滅状態になった。
まあ、ここからはあまり語らなくても私が何を言いたいかわかるだろう。
「捕らえた山賊の中の能力者を、陸軍の能力者の兵士の監視の下、釈放を条件にして山中への派遣を提案します」
やはり、そう来たか……。
ほとんどの実働をルータ将軍に任していた私でも、真っ先に考え付いた作戦だった。
「参謀長」
「はっ」
このクーデターが実行され、ルータ将軍と一緒に入ってくるまで名前さえ知らなかった参謀長に確認する。
「ルータ将軍が提案した作戦、実行の余地はあるか?」
陸軍参謀長の役職についたルータ将軍より、地位は高いはずの参謀長だが。
「はっ。最低でも対象者の行動を制限して、私達のプランに与える支障を低くする可能性があるので、実行する余地はあるかと」
ルータ将軍の後ろを歩いてきた時点で、すでにルータ将軍の腰巾着だという事はわかっていた。
そして、私は彼らの無事を祈りながら、掃討部隊の結成をルータ将軍に命じた。
午前1時23分の事である。
◇ ◇ ◇
「ルーナを助けよう」
午前1時24分。
私はダメ元で、友達を助ける提案をした。
首都の郊外よりさらに内陸部に入れば、山々の木々が広がり、それを利用した山賊を見つけるには、そこら中を照らさなければいけないほど深い森の中。
今日の5時過ぎには大統領官邸には戻ろうと思っていたので、カッターシャツとズボンを着て寝ていたが、所々土がついていた。
「了解しました」
真っ先に賛同してくれた隊長を含め、アラクネという村から来た少女をのぞけば、全員の服に血がついていた。
クリョーン君のように自らの血もいれば、サークラ女帝のように他人の血による者もいる。女帝が射撃に長けている事には驚いたが、いわく「父親から教えられた」との事。その父親も、デリンジャー2発で襲ってきたヤツ2人を撃ち抜いていた。
「了解です」
陸軍からもらった戦闘服を着こなして、フィーガナさんの治療を受けたクリョーン君をはじめ、大陸から来た人達も同意してくれた。
それが、私が大統領であるからかどうかはわからないが嬉しくなったのは事実だ。
「彼らは私達を見て、賛同したんだよ」
特別攻撃小隊の隊員+クリョーン君の奪還組と、隊長+フィーガナさん+大陸組の待機組にわかれ、隊員達とクリョーン君が奪還作戦を話している時だった。
アシルは、デリンジャーの状態を確認して、弾をつめた後、ポケットにそれを直しながら言う。
「お前がクーデターのヤツらから逃げた後、普通なら安心した表情を見せるのに、ずっと険しい表情を浮かべていたからな」
「浮かべていたのか?」
「わかりやすい程に。やっぱり、初恋の相手を心配するとなると、冷静なお前でもそうなるんだな」
「聖人君子ではないからな。お前と一緒だよ」
「俺と?」
「ああ。奥さんの話を大学でする時、やたらと嬉しそうだったからな」
「初めて聞いたぞ、それ」
そりゃそうだ。妻帯者でもお前を思い続ける女子がいたからな。
「鈍感」
呟きは、カシャンという銃の音に阻まれ、アシルの下には届かなかった。
◇ ◇ ◇
「くしゅん」
警視庁の会議室。
そこに、4人の武装した軍人と共に、警察の要人が軟禁されていた。
その中で唯一の女性であり、警察のトップであるルーナ・クリエスタ警視総監はくしゃみをしていた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。誰かが噂してるんだと思う」
隣に座らされている私こと副総監は、「今までの警視総監の中でいろんな意味で一番最高」と言われている総監を見ながら、頭の中ではある男性の事を思い浮かべていた。
時々、総監室に入った時に、総監が乙女の表情で見ていた写真を、がいない間に見たことがある。
写っていたのは、2人のサイボーグに挟まれた知らない人はいないだろう男性。総監のプロフィールの中で、皇帝と同じ期間、当時のヨーロイド王国国立大学に入学していたのを見たから、恐らくその時からだろう。
「大丈夫です。必ず助けに来ますよ、アシルさんは」
「にゃ!? だ、誰があの人の事を!」
直後に銃を向けられ、私をにらみながら押し黙ったは顔が赤い。
すでに警察幹部の中では広がり、「恋する乙女を守ろう」という事で一致団結していた私達は苦笑する。
必ず姫を助けに来てくださいね、皇帝の使いの皆さん。




