10ー2 アルバムとパズル
インターホンが鳴った。
「お帰り」
廊下を通してリビングの先にある玄関からアシルさんの声が聞こえて、俺はアルバムから顔を上げる。
陸軍の人が運転する車に乗って1時間。車と一緒に病院まで来たロワイエ大統領と一緒に、首都の郊外にあるこの家に着いた。
そこには既に家主のアシルさんと首相がいて、何かを話し合っていた。俺達が来た直後に話を切り上げたらしいから、いわゆる大人の話なのだろう。
「こんばんは、ロワイエ大統領」
「こんばんは、サークラ皇帝」
首都の中心部、丘にあった王宮まで続いていた直線の道路沿いに建てられた市場に行った3人を待っている間、俺達4人は色々と話した。
陸軍では山賊と闘うために入った人々が集団で辞表を提出していて参謀本部が受理するかどうか徹夜で査定している事、俺の村の事、開発者を交えてのサイボーグの事、その他色々と。
「こんばんは、首相」
「こんばんは、サークラ皇帝。改めまして、カールマニア王国へようこそお越しくださいました」
「ありがとうございます」
そして、そろそろアシルさんとの話のネタが尽きようとした時に、「サークラとの写真見るかい?」と聞かれた。女帝陛下や皇室の姿はどういうものなのだろうと思っていた俺は「是非お願いします」と返答した。
今思えば、アシルさんが微笑みを浮かべていたのを気にしていれば良かった。
「ひさしーー」
女帝陛下の口が、俺の腕の上にあるアルバムの写真を見て固まった。
ペアルックの可愛いパジャマを来た姉妹が、中庭らしき所を笑いながら走っている写真。
一回聞いたら普通の家族写真では? と思うかもしれないが、よく考えてほしい。
普通、高校生の姉妹がもしかしたらいるかもしれないがペアルックのパジャマを着ているだろうか?
そして、アシルさんはカールマニア王国に亡命に近い形で来ているのに、帰れる事が出来るだろうか?
ここまで言ったら、どんな写真を入れたアルバムかわかるだろう。
「それ……」
「あ、アシルさんから」
女帝陛下の家族以外は見たことがないだろう小学校低学年、つまり最低でも8年前の時の女帝姉妹の写真を入れたアルバムである。
1枚目を見て驚いたが、アシルさんのにやにやとした笑顔と、「おぉ」と俺の顔の隣で声を上げたフィーガナの『次の写真を見よう』という目線に押され、そして自分自身の気持ちもあわさって、さっきまで次々とページをめくっていっていた。
「お父さん」
「はい」
「後で話があります」
「……はい」
うなだれるアシルさんを見て一言。
「これが親子なんだなあ」
『全然違う』
7人同時にジャピード語で言われた。
◇ ◇ ◇
「お邪魔します」
夜も深まった頃、再びインターホンが鳴った。
丁度、ドアに近いトイレから出てきた所だった俺が出ると、戦闘服を見ている俺には窮屈そうなスーツを着こなしている特別攻撃小隊隊長のアルフェントさんが立っていた。
「イベントが予想以上にかかり遅くなりました」
「陸軍のイメージアップのためだから仕方ないよ」
首都の公園の中で行われていたこれまでの山賊との戦いの歴史と、今回の作戦の内容。そして、その作戦の中で初の実戦でも大きな活躍を見せた特別攻撃小隊隊員の話が聞けるイベントに、さんは参加していた。
山賊を捕らえた英雄を一目見ようと、その公園にはあふれだす程の人々が来たため、情報通信車両が周りにマイクを通して声を伝える事になった程の盛況ぶりだった。
そして、話を終えた特別攻撃小隊のメンバーが帰ろうとすると、周りから握手を求める声が広がり、1万人は確実に越えていたという声に押され、急遽1時間の握手会が開かれた。
時には泣かれ、時にはさんより体格が良い人に抱き締められ、時には子供からお菓子を貰い、時には写真を一緒に撮り。
結局、2時間にわたって行われた握手会は5人合わせて1万人どころか2万人越えていたかもしれないとの事。
「そして、護衛の車が1台だけだったので君だけがここに来るわけにはいかず、小隊の隊員の全員で来てしまった、という事かい?」
「はい。申し訳ございません」
「いやいや、別に良いよ。君達を含めた私達が行ってきた偉業が、ようやく私の身に染み込めたしね」
「それに、この国が安定する事は、ジャピード帝国にとっても嬉しい事ですし」
女帝陛下がカールマニア語でアルフェントさんに握手を求めながら言った。
大統領の友人の娘といった認識しかその時は無かったと、後にその時の心情を語ったさんは、いぶかしげに握手を返す。
そして、握手をしながら、女帝陛下は意地悪な笑顔で言う。
「はじめまして。ジャピード帝国第3代皇帝のシーク・アルハンシアです。本名はサークラ・アルハンシアと言います。」
その時。
特別攻撃小隊の5人全員が驚いた。体がほんの少し動いたからわかる。しかし、それ以上は動かなかった。さすが、と言えるだろう。
そして、大陸の片方の国の元首と握手をしていたアルフェントさんは、すぐに笑みを浮かべる。
「はじめまして。改めまして、カールマニア王国陸軍特別攻撃小隊において隊長を勤めるです。カールマニア王国へようこそ」
う~ん、動じなかったか。
女帝陛下との賭けはどうやら敗れたようだ。別に嫌ではないが、この日の夜はフィーガナと寝なければいけない事になった。誰かと一緒に寝るなんて、アイツ以外は無いと思ってんたが。
……てか、フィーガナはそれで良いのだろうか?
「……鈍感」
「んっ? なんか言った?」
「何も」
……なんでフィーガナはムスッとしているのだろうか。




