10ー1 2人の国家元首
12月31日午前11時53分
ヨーロイド王国・ メリド市内王宮
美少女。
王宮の中庭で太陽を見つめる人物はどんな印象に見えるか? と聞かれたら、その人物を知らぬ百人中百人はきっとそう言うだろう。
黒いサングラスをかけていても、歴代のヨーロイド王国の王室とは違い髪は短くても、ドレスではなく所々汚れがついた作業着を着ていても、全体が美少女と言えた。
そして、その人物を王宮の中から見ている5人には、王宮を含めて全員がイケメンと言える顔立ちだった。それも当然だろう。
その5人全員の顔立ちが一緒なのだから。
細い瞳の中にある碧眼、凛々しい眉毛、きっちりと整えられた髪型、執事ともボディガードとも取れる雰囲気。
その男性に当てられた女性は、数知れないと言われている。だから、王室も認めているファンクラブが結成されるほどの人気もある。5人に対してではなく1人に対して、だが。
「どう見える?」
少し低いイケメンボイスで、一番中庭に通じる扉に近い所に立っている男性Aが、同じ顔立ちの4人に対して聞く。
「心拍数、脈拍共に落ち着いているが、やる気という物が感じられない」
機械で計ってもAと同じ声である男性Bが、碧眼を赤くしながら答えた。
その答えに他のC~Eも肯定して、Aはため息を出しながら、彼らの主人を再び見る。
「やはり、彼女への愛はそこまで深かったか」
「私が見たジャピード帝国サークラ女帝と主人の会話の3時間27分54秒77の間、常に主人の脈拍は上がっていた。その後の17時間43分36秒の間も同様だ。あと、Dをぬかすな」
男性Dが、彼らの記憶を司り細かい所まで言う。後、後半の文、いちいち「、D、」って書くのが面倒なんだ。
「3文字だけだろうが」
Dが虚空の何かと火花を散らそう(笑)とした時に、彼らの主人から声がかかる。
その声に今日の担当であるAがコンマ1秒で反応して、コンマ3秒で体が動いて、人間には出せないほど早いが周りには被害が出ないようなスピードで、デッキチェアに深く腰かけた彼らの主人に近づく。
「いかがいたしましたか?」
「あれから何秒経った?」
「6日と11時間41分38秒でございます、陛下」
「まだ1週間も経っていないのか……」
呆れるような弱々しい声は、やはりいつも多くの使用人と家族が聞くような活気溢れる声ではなく。
『陛下、にも注意しなかったか』
『ああ』
すっかり冷たくなった紅茶を入れ換えながら、ヨーロイド王国第2代女王・エクセンリナならぬ正真正銘の少年であるサーランに仕えるサイボーグ隊の総意として、5人は青い空に願っていた。
帰ってきてください、と。年末の王宮の楽しみを味わえなくなる心配も少し含めて。
◇ ◇ ◇
「ヘイ、そこのお嬢ちゃん達!」
そして、大陸の2つの国家からその行方を心配されている少女は、市場でとアラクネと買い物に来ている時に声をかけられていた。
40代の海の人、と少ししわがれた声から判断しながら、サークラは足を止めて、声が聞こえてきた方を振り返る。
魚を前にずらりと並べた男は、灰色の針金のような髭面と髪をしていて、左の頬には一目でわかる大きな切り傷があった。
「私達の事ですか?」
そして、若干だが左足を痛そうにしている。
この国の軍に入っていたけど、10年前のクーデターかその後の山賊との戦闘でやられ、漁師に転職した、という所か。
「そうさ。あんた達の事だよ。ジャピード帝国の方から来たのかい?」
「よくわかりましたね」
「なかなか、この国やヨーロイド王国の方には金髪がいないからね。旅行かい?」
「いえ。ホームステイで来ました」
髭面の男性は、ユーリイの後ろに隠れてるアラクネの方を見て、小さくうなずいた。
「それじゃあ、そのお礼に料理を振る舞わないかい? 今日は安いよ」
なるほど。いかにも引っ込み思案そうなアラクネを見て、私が料理を振る舞う事でアラクネとの距離を縮めてみてはどうか、っていう事ね。
実際は、私が首都に初めて来たんだからユーリイの所に捕まっていなさい、と言ったからなんだけど、安く魚を買えるなら……。
「ありがとうございます。今日のおすすめは?」
「マジェランマイナメさ。昨日、島の南の沖合でたくさん獲れてね。この日に合わしたかのようだよ」
「マジェランマイナメは深海魚では?」
「よく知ってるね。けれど、ここ10年で大量にマジェランマイナメが増えていっているのは知らないだろ?」
「ええ。帝国にいる時は何も聞きませんでした」
「『会合』の時は、大陸の方に魚を渡していく事だけに力入れるから、あまり言えないんだよ」
脂肪が多い白身魚で、照り焼き、焼き魚などにして食される。また、 ソー スやハーブを用いた料理にも利用されているという事を聞いてから9人分のマジェランマイナメを買う。
元兵士です、という風格の男達がちょくちょく店を出している市場を抜けた時には、ユーリイの腕にはマジェランマイナメを主食としたの材料を9人分持っていた。
アラクネが3分ぐらい間をおきながら袋を持とうとするが、その度にユーリイは断っていた。
「ここまで」
市場の前の大きな道でタクシーを捕まえて、トランクに袋を運転手が入れて、私は助手席に、2人は後部座席に乗る。
首都の一角にある住宅街に向けて、タクシーが走り出した後、アラクネが尋ねてくる。
「どこに向かっているの?」
「“博士”の家に。丁度、4人が暇らしいから料理を振る舞おうかなって。ヨーロイド王国の礼儀らしいわよ」
「4人? ……ああ、なるほど。後はフィーガナとクリョーン?」
「ええ」
タクシーは快適に昨日来たより活気が満ちているを走り抜けて、緑が多くなってきた所にある住宅街の一角に止まった。
有名人がいそうな豪邸は無いが、首都でそれなりの役職で働く人が持っているような一般的な家より少し大きい家には、既に明かりが点いていた。
「ありがとう」
住所を書いた紙を見せた時から、野次馬に近い興味が出ていた運転手に代金と、快適な運転をしてくれて、更にカールマニア語丸出しの会話に入らなかったお礼を含めて少し多いチップを渡す。
「上官を運ぶ時よりかは楽でしたよ」
去り際に笑みを浮かべながら小さく言った初老の運転手は、礼をしてから、滑らかにタクシーを走らせた。
私の正体を知った時の運転手の表情を浮かべて、思わず笑みが漏れた後、私は家のインターホンを押した。




