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なにかしら  作者: コーレア
上 忙しい旅の章
27/58

04-1 大統領と警視総監

「これ以上、なんと礼を言って良いのかわからないよ、クリョーン君」


 目の下にクマを浮かべたロワイエ大統領が、開口一番そう言ってくれた。

 病院の丸椅子に座っている大統領のかたわらには、昨日会った首相が静かにたたずんでいて、昨日より深い微笑みを浮かべている。

 要塞に比較的近く、王国陸軍の要塞攻撃の本拠地として使われているーーいや、使われていた陸軍基地の中にある病院の一室に俺達はいた。


「私達、カールマニア王国政府は君達をなんとしてもヨーロイド王国に送るよ。それが、私達に平和をもたらしてくれた英雄達に出来る恩返しですからね」

「ありがとうございます」


 大統領とはベッドを挟んだ所に立っている女帝陛下が、作戦終了後、全てをカールマニア王国政府に打ち明けた。

 村に現れた状況、村と列車を襲った山賊を捕らえた手腕、そしてカールマニア王国の能力者リストには書かれていないレベル5の少年。

 俺達を裏では疑っていたが、この国に好意的である事や、その戦力の巨大さ、そしてジャピード帝国前皇帝の“進言”から表だって、俺達に敵対するような行動を取れなかった政府は、おおいに驚き、ジャピード帝国現皇帝の“お願い”に即諾してくれた。

 そのお願いとは以下の3つ。


 第1に、私達を秘密裏にヨーロイド王国に送り届ける事。

 第2に、この事は特別攻撃小隊の隊員を除いて、公表しない事。

 第3に、カールマニア王国の滞在中、私達がお金を借りる事に同意する事。請求はヨーロイド王国政府に対して送る。


「だから、いくらでも金を使ってもいいんだぞ?」

「使いません」


 病院のベッドで目が覚めた俺が、正面のベッドにいるフィーガナと一緒に女帝陛下の話を聞いていると、首都から駆けつけてくださった大統領と首相が病室の中に入ってくる。

 昨日に続いて2回目の対面だから、カチコチだった昨日よりかは緊張は少ないが、声と体が固くなっている事は自分でもわかった。

 入院費用は政府が全額負担する事や、山賊の状況などを、首相の補佐入りの大統領から聞いて、2人が病室を退室したのは、来てから15分が経った時だった。


「疲れました~」


 ドアがしっかりと閉まると同時、アラクネが丸椅子に倒れるように座る。

 俺も疲れて、最高品質らしい枕に体を預けているが、その他の3人は平然としていた。この時ばかりは、3人をうらやましく思った。


「ここの医者によると、フィーガナは3日後、クリョーンは5日後に退院できるらしいから、それまで十分な休息をとっておいて」

「わかった。サークラ達はどうするんだ?」

「私達は、で遊んでおくよ。それにパパとも色々と話したいからな」

「気を付けろよ?」

「大丈夫だ。特別攻撃小隊の人がついてきてくれるらしい。この病院にも1人配置されるらしいから、なにかあっても動かないようにね」

「……できる限りそうする」


◇ ◇ ◇ 


 その日の夜は、カールマニア王国中で宴会や祭が開かれた。

 翌日の新聞に『祝いの飲み物を飲まなかった国民はいなかった』と書かれるほどの騒ぎは、特に山賊に苦しめられていた村で大きく、一部の村では祭を1週間続けると言ったほどだ。

 翌日、つまり12月26日になっても余韻よいんは引かず、各所で記念のバーゲンセールが開かれた。

 そして、こういった「悪者を退治した」事の後には、英雄が国民の注目の的となる。


「豪勢ですね」


 今回の場合は、特別攻撃小隊を中心とした陸軍が英雄となり、個人や村から多くの祝儀が贈られる。それは、「山賊と戦った英雄達を治療した病院」である山賊の本拠地に一番近い陸軍病院も例外ではなかった。

 子供からの手紙から、大金、仕入れなくとも1ヶ月は過ごせそうな大量の野菜や肉。そういった物が来た。


「あなた達が本物の英雄だから当然よ」


 そして、俺とフィーガナがいる病室には、病院食だけど豪勢な昼食と共に、1人の女性も来ていた。

 腰まですらりと伸びた金髪の髪と、淡い青色の瞳。その容姿だけでも、しばらくは食っていけそうな顔と体を持った女性の名は。この国の初の女性警視総監、ルーナ・クリエスタである。


「私達を拾ってくれたお礼ですよ」

「お礼にしてはでかすぎると思うけどね」


 農民から、ヨーロイド王国で一番と言われる大学を首席で卒業した後、10年前のクーデターで襲撃されて機能不全となった本庁に変わり、市警察署長として首都を始めとして全国で起きた混乱を収拾した人物。

 4年前に前警視総監が引退した後、大統領と同じように、異例の抜擢で警視総監になったさんの人気は、大統領や首相と同じくらいだとも言われている、らしい。


「ルーナさんは、ヨーロイド王国国立大学で大統領と博士と同じ学科でしたか?」


 俺とルーナさんの会話にならって、ジャピード語でフィーガナが会話に入る。

 肩を木の剣で貫かれた他はあまり大きなケガは無く、サイボーグだから回復も早い。まだケガしてから1日も経っていないのに、すでに顔色は良く、朝の問診では明後日には包帯が取れるらしい。

 良いな、といったら、俺の全身を上から下まで見た後、ため息をつかれたが。


「ええ。開発者の個人情報も、サイボーグに入っている物かしら?」

「いいえ。この任務が下るまで、少し暇だったので、3つの国々の要人は調べておこうかと思いまして」

「ふーん。大学で起きた事は知ってるの?」

「それについては情報統制がかかっていたのでダメでした」

「情報統制?」


 普通の世界では聞き慣れぬ、しかしルーナさんやサークラがいる世界では、何度も聞いてるだろう単語に思わず反応する。


「まっ、色々とあったのよ。今でも諦めてないし」

「「?」」

「少年少女にはわからなくて良い事よ。それじゃあ、また仕事あるから」

「「ありがとうございました」」


 風のようにやって来て、風のように去っていたルーナさんを見送った後、俺とフィーガナは少し冷えた豪勢な病院食を食べ始める。

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