02-5 短い戦闘
……ここは?
意識が戻って、最初にそれを考えた。
……確か
女帝陛下に護衛を頼まれて
攻撃されて
カールマニア王国に来て
山賊を撃退して
ああ、首都へ向かう列車の中、か。
だったら……。
なんで、青空が真上に見えるんだ?
「ーーー!」
誰かの叫び声が、回復してきた耳元に聞こえる。
その言葉は、カールマニア語だった。
「ぐあっ!」
今度は野太い声の悲鳴。
その直後に、聴覚の全てが復活した。
連続する銃声。
向こう側に金属にあたる銃弾の高い音。
時々聞こえる遠い所からの悲鳴。
明らかに、戦場の死を引き連れた音だった。
そして。
「こっちに! 来るな!」
フィーガナの叫び声。
それは、金属の向こう側から聞こえていて。
金属に着弾する音とも近かった。
「フィーガナ!」
叫んで、立とうとする。
しかし、体を動かした直後、体中に激痛が走り、横向きにぶら下がる手すりに左手を伸ばした。
なんとか手すりを捕まえた体から痛みが引いていくのを感じながら、全てを思い出した。
そう、いきなり戦車に撃たれたのだ!
そして、列車が横倒しになって……。
「キャッ!」
フィーガナの悲鳴に、現実に引き戻される。同時に、銃声も止んだ。
「よし! 女を捕らえろ! 後で徹底的に痛めつけてやる!」
恐らくそんな声が聞こえた。
だが、野太い別の男の声が聞こえて、直後に歩く音が聞こえたら、我を失うには充分だった。
二度と、女性を傷つかせない!
その心情と共に、右手を前に出す。
直後、車両の下部が消し去った。
「な、今度はなんだ!?」
戦車の横にくっつく男達がざわつくが、そんな事はどうでもいい。問題は、この列車を砲撃した戦車だ。
金属音と共に、小さく戦車の砲が俺に照準を向けようとする。が、二度も砲声を轟かす事はできなかった。
理由は簡単。
キャタピラから戦車を燃え上がらせたのだから。
「うわあああ!」
戦車の中から、男達が出てくる。
炎で土砂を舞い上がらせ、力加減を操りながら、小爆発を起こす。すると、爆風で加速した小石が、燃え上がる戦車から逃げようとする男達の肩を貫く。
久しぶりにするが、腕はおとろえていなかった。
「どこをケガした?」
あらかた“片付け”を終えると、近くのわざと残した電車の下部にもたれかかったフィーガナに駆け寄る。
女帝陛下とは色ちがいの赤いワンピースを着た彼女は、右腕が元通りになった所だった。一方で、左肩からはワンピースの赤より濃いシミが浮き出している。
「……やっぱり、強いですね」
「相手が弱いだけだ」
「だったら、私も弱い事になりますよ?」
「10人以上は倒しているんだから強いよ」
白の薄いシャツの一部を火で切り、血がにじみ出している所をきつく締める。
顔色はさっきよりましになったフィーガナに安心してから、あたりを見回す。
500メートルぐらい先まで草原が広がる緑色の中に、燃える戦車とうめく声以外は無く、つまり2波目はないようだった。
「体は大丈夫なのですか?」
「節々が痛いぐらい」
「……抱きしめましょうか?」
「……えっ?」
「私でもあなたなら抱きしめられると思いますが……えっ? なんで右手に炎を灯して近づくのですか?」
「触れてはいけない事に触れたから」
「……Help me!!」
「ヨーロイド語で話されても無理」
◇ ◇ ◇
バタバタと足音がドアの向こう側から聞こえ、滅多に人が3ケタを越えないという集落の忙しさがわかる。
消防や救急、警察、集落の家や集会所に運ばれた列車の乗客、そして事件を聞きつけた報道陣。3ケタどころか4ケタを越えているかもしれない。
「奇跡! 戦車に砲撃されるも死者0人! という具合かしらね。明日の朝刊は」
左肩を打ったためワンピースの中にシップを貼っているという女帝陛下が、俺を見ながら楽しそうに言った。
カールマニア王国政府の人いわく、戦車で砲撃される直前に俺が無意識に能力を発動して、列車の左側に“布”を展開。そして、その“布”が運転士さえも爆発の炎から守りきり、全員が深くても全治半年ぐらいの重傷にとどまった、らしい。
起きた直後なのによく発動できたなあ、と我ながら思う。




