00-2 過去の過去=大過去
英語の文法では、タイトルで合っているのでしょうか?
ゴールピの足は、絹のように白くて、ものすごくスベスベな感触でした。
クリョーンに言われて、私はリュックサックの中に念のために入れておいた救急箱を取り出して、ゴールピの右足のケガを治療している時に、私はそう思いました。
「終わりましたよ」
「ありがとう。……御質問はどんな事でしたか?」
「食生活についてです。1日何食ほど食べていて、またその具材はどんな物がありますか?」
「家族によって違いますが、成長期の時には1日4食、野生の羊を食べるのもいます」
ローザは、私がゴールピを治療している間に、姉から伝染した記者精神が復活して、鉛筆にメモ帳のセットで、ゴールピに色々と質問をしています。
対して、ゴールピは天使のような微笑みを浮かべながら、ローザの質問に答えています。
「最後の質問ですが、クリョーンとあなたの馴れ初めを教えてもらってもよろしいですか?」
私が治療を終えるのを待っていたかのように、ローザは鉛筆を握り直して、真っ直ぐとゴールピに質問しました。
ゴールピはクリョーンを見て、アイコンタクトを取った後、ローザの方を向いてゆっくりとした口調で話を始めました。
◇ ◇ ◇
まず、私のこのケガの原因から言わないといけません。
私を治療してくださったさんならわかると思うのですが、この傷はあるドラゴンの爪で引っ掛かれた事によって出来た物です。
クリョーンと出会った3年前のあの日も、私はそのドラゴンに付きまとわれていました。私が子供の頃に、たまたま両親が死別して一人ぼっちだったクレステッドゴールピのオスを弟のように育てたのですが、成体となった時に、私がロックゴールピにも関わらず、私に求婚をしてきたのです。
私達ゴールピの間では、他の種族のゴールピと交わり、子供を産むという事は、大いなる災厄の始まりと言われていて、ご法度とされています。
ですから、私は断ったのですが、彼はしつこく付きまとい、何度も私に求婚を迫ってきました。私ではなくとも、彼の種族で彼にあうメスは沢山いるというのにです。
あの日も、私は彼に求婚を迫られ、巣だと周りに迷惑をかけると思い、いつも通り空の上で鬼ごっこをしていました。
嵐が南端海を横断している中で、私達は雷雲の中や上を飛び回り、そして最後に彼から逃れようと、雷雲の下に出ることにしました。
いつの間にか、彼が私の姿を見失ったらその日の鬼ごっこは終わりと暗黙の了解が出来ていたので、この嵐の中、彼が私を見失ったら良いなと考えながら、雲の下に出ました。
南端海の“黒い帯”に近い所、という事は飛んでいてわかっていたのですが、まさかあんな所にいるとは思っていませんでした。
その時は彼から逃げようという事だけを考えていたので、そこまで注意を払わなかったからだと思います。
だから、でしょうね。荒れ狂う海の上に、木の葉のように動く小さなボートを見た時、普通なら警戒して近づくべきでは無かったのですが、私はなんとなしに近づいてみました。
そこで、私は見ました。
雨に濡れながら、仰向けに倒れ、一向に動かない少年が、頭から血を流しているのを。
「待ってー!」
人間の言葉で言えば、そんな叫び声が荒れ狂う海に響き渡った直後、私は彼が攻撃してきたのを感じました。
攻撃、と言っても私をケガさせるほどの物ではありません。クレステッドゴールピが得意とする『威力は弱くともコントロール出来る炎弾』です。彼からしてみれば呼び止めるために、肩を叩くという感覚でしょう。
しかし、タイミングが悪かった。
私はボートの上で寝転がっている少年が気になって、もう一回近づこうと、一回転した後、今度は海面すれすれで飛んでいました。そこにある程度早い炎弾が飛んできたので、今から私が上に上がっても、ボートに炎弾が当たる、と感じ取った私は避けない事に決めました。
そして、空気の流れで接近している事を感じて、体を硬くしようと飛びながら身構えようとした時でした。
私の顔の横を、オレンジ色の炎弾が猛スピードですれ違いました。それは、クレステッドゴールピの放った炎弾に当たり、爆発を起こします。
ボートの上の少年、つまりクリョーンに目を移すと、両手から雨を蒸発させるオレンジ色の炎がゆらりと上がっていました。
「このやろー!」
初めて見る能力者にあぜんとしていると、船の上を通り過ぎた私には脇目をふらず、クレステッドゴールピがボートに特大の白い炎弾を放ちました。ゴールピのオスにとって、自分の炎弾は力の象徴と言える物で、それを破られるとプライドを踏みにじられたのも一緒です。
ですから、クレステッドゴールピは炎弾を放ちました。白い炎、プラズマの弾を。……ええ。プラズマとなると人間の能力者のレベルは6です。レベル5でも、数秒ぐらいしか受け止める事が出来ないです。そして、今も昔も炎の能力者でレベル6になった人はいません。
私は、丁度上昇中なので、守ろうにも守れません。第一、あの火力の弾に当たれば、ゴールピといえども死にます。
ボートに迫るプラズマの巨大な弾。私はそれを見届けるしかありませんでした。見ながら、少年の死を確信しました。
けれど。
クリョーンは防ぎました。
うまく、自分のオレンジ色の炎弾の上面で、クレステッドゴールピが放ったプラズマの弾を滑らして、進路をそらして。




