02-3 驚いたら貴方は叫びますか? 彼は叫びます
ホクーポート村から、車でマールセストンに行って、そこから電車に乗ってアルフェンバートへ。
アシルさん曰く、明後日から緊急議会が始まるので、首相が臨席して式典を行う事は出来るのは今日と明日だけらしいので、俺達4人+アラクネ+村長の6人は、昼には村を出た。
アシルさんの車に俺と女帝陛下、村長の車にユーリイとアラクネとフィーガナが乗って、車は走り出す。乗る直前に、女帝陛下がアラクネに耳打ちしていたが、何を言ったのかは大体想像出来る。
「サークラ女帝陛下。誰も聞いていないですし、本題を話して良いですか?」
いきなりジャピード語で、アシルさんがしゃべる。俺は驚いたが、女帝陛下はニヤリと大人の笑みを浮かべた。
運転するアシルさんの横に座る無口なアシルさんの秘書が、静かに2つの封筒をカバンの中から取り出す。
「ああ、どうぞ。久し振りだな、博士」
博士?
苦笑いを浮かべたアシルさんを見ながら、一人首をかしげていると、秘書が一方の封筒から、注釈つきの写真を取り出して平坦な一言。
「読んでください」
「は、はい。……えーと『左の写真は整形前、右の写真は整形後の写真である。やはり、“怪盗”の整形技術はこの世界の誰にも及ばぬ物である。我が身をもって体験できた事は、科学ではなく人生において最高の喜び』。……左の写真って、まさか……」
「はじめまして、クリョーンさん。タクーラ・カルミラです。以後お見知りおきを」
バックミラー越しに見えたアシルさんもとい博士の微笑みは、テレビの特集で何度も見た物で。
思わず、車の中で叫んでしまう。
◇ ◇ ◇
「落ち着いたか?」
「は、はい。しかし、なぜ博士がここに?」
「ふふ。博士はよしてください。私は中央政府の役人、という肩書きなんですから。それに、私をこの大陸よりかは穏やかな国に追放した事については、女帝陛下の方が詳しいですよ」
「何度も言うが、追放ではない。こっちも大変なんだぞ? カールマニア王国やヨーロイド王国に気付かれないように、サイボーグ用の部品を送り込むのは」
「えっ? 博士、まだサイボーグ作っているんですか?」
「創作意欲が尽きない限り、私はずっと作り続けますよ。その時の集中力と、完成した時の達成感は何とも言えない物ですし」
「それを、政治でも生かしてくれれば、帝国や娘からしても万々歳なんだけど? それと、フィーガナに騙しを手伝わせるな 」
「不可能な事を頼んでも無駄だよ、サークラ。それにあの時は死ぬんだと思っていたからな」
…………んっ?
◇ ◇ ◇
「クリョーン。どうかしたの?」
「何が?」
「私の聴覚が、あなたの叫び声を2回聞こえた」
「ああ……。なあ、フィーガナ。アシルさんが後2つの名前持っているの知っているか?」
「もちろん知っているよ。前皇帝陛下が亡くなったとされる日に同一人物の声で別々の人物として命令されているし」
「そういやあ、そうだったな」
「その事を車の中で知らされたの?」
「まあ、そういう事。そっちの車では何かあったか?」
「何かって?」
「ユーリイとアラクネの事とか」
「アラクネがユーリイの肩で寝ていたぐらいしかわからない。私は寝ながら、某人物の声を聞いていたし」
「肩で寝ていた、でも十分な事じゃ?」
「サイボーグだから、色恋沙汰はわからない」
「そっか。フィーガナは可愛いと思うけどな」
「……天然」
「何か言ったか?」
「何も」
◇ ◇ ◇
耳の奥(内耳)に三半規管というバランスをつかさどる器官がある。三半規管の中にあるリンパ液が体の傾きを察知すると、脳に信号を送り身体のバランスを保っている。
歩いている時などは歩く速さと同じスピードで景色も動くので、三半規管で察知しているバランス感覚と目で見える景色や体(筋肉)で感じる知覚との調和がとれているが、車などに乗っている場合、絶えずリンパ液が揺さぶられる状態にある上、「自分は車の座席でじっとしている」のに「景色がどんどん変わるし体も下揺れている」という感覚のズレも加わり、体が変調をきたし乗り物酔いがおきてしまう。
個人差があるが一般的に横揺れより縦揺れの方が酔いやすく(車の左右の揺れは大丈夫でも船の上下の揺れはダメという人がいるようにだ)、大人より感覚が敏感で頭が不安定である子供のほうがなりやすいと言われている。
また、乗り物酔いは人間だけーー。
「目をつぶりながら、ぶつぶつ言われると、有り体に言えばうるさいのですが」
「……」
マールセストン発アルフェンバート行き快速列車。
約190キロの道のりを3時間かけて走る。俺達が乗った列車は、簡単に言えば普通の乗車率で、別に混んでいるわけでも、空いているわけでも無かった。
そして、今。
俺は列車に酔っていた。それを紛らすために車酔いの原因を小声でぶつぶつ言っていたわけだが、さすがにフィーガナには聞こえていた。
俺とフィーガナ。女帝陛下と……アシルさんと呼んでくださいと言われたのでアシルさん。アシルさんの秘書と村長。そしてユーリイとアラクネのペアで、前向きの座席(なんて言うのかそこまで頭が回らない)に座っている。
俺は酔って、フィーガナは村から貸してもらったカールマニア語の教科書を読んでいる。女帝陛下とアシルさんは話し声が時々聞こえてくる。秘書と村長さんは何をしているかわからない。アラクネは車酔いがあると言っていたから無意識にユーリイの肩で寝ていて、ユーリイはいつも通り感情がわからない顔でいる。
「寝たらどうですか?」
「良いのか?」
「今、周囲に生体反応はありません。もし、現れれば伝えます」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
しかし、十分な眠りは無かった。
1時間後、襲撃があったからだ。
戦車が現れる、という形から始まる襲撃が。




