嫁の養蜂室は家名に不要だそうなので、継承印を返した夫と蜂ごと別家します
「高いね」
ぱちん、と私の蜜蝋燭の火が消された。
指先で。買わない人の指というものは、ずいぶん気軽に職人の火を消す。
「伯爵家にも卸している向こうの獣脂蝋燭なら、同じ銅貨で三本買える」
「こちらは煤が少なく、長く燃えます」
「蝋燭は燃えればいいよ」
ごもっとも。売り台の向こうでは、安い獣脂蝋燭が黒い煙を上げていた。あれを鼻の穴で吸いながら言えるのだから、商売人の肺は強い。
私は一本も減らない籠を抱えて伯爵家へ戻った。
食堂では昼食が始まっていた。義母と義姉のカタジナ、ラディスラフの席はある。私の席はない。
ただし、私の蜂蜜は三壺とも出席していた。しかも一壺はもう半分しかない。
「お義母様。そちらの壺は今朝まで七分目でした」
蜂蜜をパンへ落としていた義母の匙が止まった。
「皆でいただいているのよ。家の実りは、皆のためでしょう」
「ええ。今のでお義母様が五匙、カタジナ様が三匙です」
「数えていたの?」
「蜂蜜ですから」
人の言い訳は忘れても、蜂蜜の匙数は忘れない。甘いものへの執念ではない。これは財産管理である。甘いものへの執念も、もちろん少しはある。
家令が私の椅子を運んできたが、置く場所がなかった。義母は空いていない卓上を見回し、空いている私の人生を片づける調子で言った。
「養蜂室は閉じます。三日後、朝食終了を告げる九つ鐘で、扉を板で塞ぎなさい」
「かしこまりました」
家令は時刻だけを受け取った。
「十二の巣箱と残っている蜂蜜の権利は、カタジナへ移します。養蜂室は家名に必要ありませんが、蜂は家産ですから」
「私なら、もっと上手に売れるわ。お母様のおっしゃるとおり、家産ですもの」
カタジナは母の言葉を半歩先で復唱した。巣箱へ半歩近づいたことさえないのに、口だけは働き蜂より勤勉である。
ラディスラフが立った。
「母上、オーサが育てた蜂です」
「家の裏庭でね。あなたも座りなさい」
彼は座らなかった。
三か月前までなら座っていた。私の成果が本家名義で売られ、私の給金がどこかへ消えるたび、あとで部屋へ来て「すまない」と言うだけだった。
今は黙って私の売れ残り籠を持ち上げた。納品札には、彼が訂正させた私の名が残っている。
「承知しました、お義母様。棚も道具も十二箱も置いていきます」
「わかればいいのよ」
「残りの蜂蜜は?」
「皆のために必要です」
義母は六匙目をパンへ垂らした。
残り三日。
私の取り分まで食べられる前に、運べるものを決めなければならない。
* * *
「量が足りない。値も高い。うちの客は香りより本数を見る」
翌日、商家の主人は見本の蜜蝋燭を一本だけ転がした。
「煤で商品を汚さない灯りです」
「汚れたら拭けばいい」
拭く人の給金は、蝋燭の勘定には入らないらしい。世の中には無料で働く布巾と、無料で働く嫁がいる。私は後者を廃業予定だ。
礼をして店を出た。
残り二日。
三つ目の露店へ出すはずだった銅貨を、養蜂室の助手へ渡した。
「出店は取りやめます。これは今月分の給金です」
「でも、奥様。最後の蜜蝋を売れば、少しは」
「売りません。明晩の収穫祝いで灯します。売れない灯りなら、燃やして働かせます」
最後の蜜蝋一桶を灯明用へ回し、助手と灯芯を切った。細いもの、太いもの、曲がっていても燃えるもの。人間より採用基準がやさしい。
ラディスラフが上着を脱ぎ、向かいへ座った。
「俺もやる」
「切り揃えてください。長さはこれに合わせて」
「わかった。それと、オーサ」
彼は切りかけの灯芯を置いた。
「本家へ戻ってほしいのではない。君と別の家を作りたい。夫婦のまま、俺と来てほしい」
「求愛だとは知っています」
彼の耳が赤くなった。蜂には命令できないくせに、耳だけはたいへん素直である。
「知っているから、今日だけ立派でも困るのです」
「ああ」
「三か月分は見ました。返された給金の日付も、刺された翌朝に来たことも、納品札へ私の名を先に書いたことも」
最初の一か月から、彼は給金を返し続けた。二か月目には、私が何も言わなくても本家名義の札を破棄させた。三か月目には巣箱へ手を入れ、三度刺され、四度目には蜂へ「頼むから話し合おう」と懇願した。
継続はしている。
だからこそ期限の日まで答えない。
「わかった。急かさない」
ラディスラフは灯芯を一本つまんだ。
「これは長すぎるか」
「倍あります」
「こっちは」
「短すぎます」
「蜂より難しい」
「灯芯は刺しませんよ」
「黙って燃え方で採点するだろう。蜂より怖い」
彼は切り直した。今度は揃った。
私は褒めなかった。明日の灯りが褒めてくれる。仕事はそのほうが正確だ。
* * *
残り一日。
「追加の蜂蜜は?」
朝、義母付きの使用人が空瓶を三本持ってきた。
「ありません」
「奥様が、収穫祝いにはもう三瓶と」
「育種帳を包むので忙しいとお伝えください」
婚家へ追加で納めるつもりだった私の取り分の蜂蜜は、助手と私の移転用に分けた。追加分を詰めるはずだった布で育種帳を包み、衣類より先に運搬車へ積む。
ドレスは濡れても乾く。蜂の血筋を七年分記した帳面は、煮ても焼いても戻らない。たぶん焼けばよく燃えるだけだ。想像したくない。
「奥様、本当に棚は空にしなくていいんですか」
助手は養蜂室の壁を埋める木棚を見た。
「棚と道具は置きます。十二箱もです。持っていくのは育種帳と衣類、それから正当に分けた小さな蜂群だけ」
「全部、奥様が作ったのに」
「ええ。ですから、次も作れます」
助手の口が歪んだので、私は給金袋をその手へ押しつけた。
「数えてください。足りなければ今言って」
「足りています」
「では、その顔も働かせましょう。運搬布を畳んで」
ラディスラフは借りた荷車へ椅子を積もうとしていた。
「それは何です」
「新居で使う椅子だ」
「蜂群より先に?」
「君が座る場所は必要だ」
「椅子は現地でも買えます。蜂群を運べる箱は今しか借りられません」
彼は椅子を下ろした。
「箱を積む」
「四つ。通気孔を塞がないでください」
「寝台は」
「後です」
「食器棚は」
「後です」
「鍋は」
「一つなら」
ラディスラフは鍋を選びに走った。
蜂群を運ぶ箱より先に妻の椅子を積む。三か月前の彼なら、母に言われた家宝の銀器を積んでいただろう。進歩はしている。方向だけ少々おかしい。
夕刻、収穫祝いの食卓に火が入った。
中央には婚家が安く仕入れた獣脂蝋燭。壁際と配膳卓には、私が最後の蜜蝋で作った灯り。
最初の異変は魚料理の上で起きた。
獣脂蝋燭の芯が弾け、黒い煤が白いソースへ落ちた。使用人が皿を下げる。別の一本から溶けた脂が垂れ、卓布へ染みを作る。
「取り替えて」
義母が命じた。
「先ほど替えたばかりでございます」
「新しいものを」
獣脂蝋燭が外され、また獣脂蝋燭が立てられた。二本目も煙を吐いた。安い灯りは元気いっぱいである。料理へ参加したがる蝋燭など、私は初めて見た。
一方、配膳卓の蜜蝋灯は細い炎を保っていた。使用人が新しい皿を運び、その灯りの下で焼き色を確かめる。
獣脂蝋燭を替える。
蜜蝋灯へ皿を寄せる。
また獣脂蝋燭を替える。
蜜蝋灯へ皿を寄せる。
ついには、使用人の一人がまだ燃えている蜜蝋灯を皿ごと持ち上げ、義母の背後へ移した。
「何をしているの」
「こちらのほうが、お料理がよく見えますので」
食卓の顔が一斉に私へ向いた。
今さらですか。私は七年、よく見えるところで働いていましたよ。席だけありませんでしたけれど。
「オーサの蜜蝋か」
ラディスラフが聞くと、使用人はうなずいた。
「はい。夕刻から一度も替えておりません」
家令まで手元の獣脂蝋燭を消し、蜜蝋灯へ書類を寄せた。
カタジナは煤の落ちた焼き菓子を避け、無事な皿から二つ取った。
「私が巣箱を引き継げば、この灯りも作らせるわ」
「カタジナ」
ラディスラフの声が低くなった。
「なによ。巣箱は私のものになるのよね、お母様」
「ええ。皆のために役立てればよいのです」
「誰が作るのですか」
私が尋ねると、カタジナは焼き菓子を噛んだまま止まった。
「使用人に決まっているでしょう」
「どの使用人が女王蜂を見分けられますか」
「教えればいいわ」
「誰が?」
カタジナは義母を見た。義母は家令を見た。家令は時刻を確かめた。
「閉鎖命令に変更はございません。明朝、朝食終了の九つ鐘で板張りを開始いたします」
働き者は家令だけだった。
私は蜂蜜を添えた肉料理を一口食べた。私の蜂蜜である。せめて私も食べる。義母が二匙、カタジナが四匙、ラディスラフはまだ零匙。私は一匙。七年分としては少ないが、味はよかった。
祝いのあいだに獣脂蝋燭は六度替えられ、蜜蝋灯は最後まで燃えた。
誰も養蜂室を残そうとは言わなかった。
それでいい。
蜜蝋灯の価値を見たからといって、席を一脚増やされても困るのだ。私が欲しいのは今日だけ照らされる席ではない。
食卓が片づくと、私たちはそのまま裏庭へ向かった。朝までに小さな蜂群を運搬箱へ移さなければならない。
月明かりの下で、ラディスラフは覆面布をかぶった。前後を逆に。
「見えない」
「でしょうね。網が後頭部にあります」
「蜂からは俺の顔が見えない」
「首筋は丸見えです」
彼が慌てて直すと、箱へ向かっていた蜂が二匹、露出した指へ止まった。
「動かないでください」
「動いていない」
「声が動いています」
「これは止められない。オーサ、彼女たちは話し合いに応じるだろうか」
「彼女たち?」
「敬意を払っている」
「手遅れです」
ぱしん、と彼は自分の頬を叩いた。蜂は刺さずに飛び去った。
次の一匹には指を刺された。
「痛っ」
「毒針を抜いて。箱は離さないでください」
「箱と指なら、どちらを優先する」
「蜂群です」
「即答か」
「指は九本残ります」
彼は運搬箱を支え続けた。
別の蜂が覆面布の内側へ入った。ラディスラフは走り出しかけ、箱を抱えたまま小刻みに回った。右へ一周。左へ一周。最後に膝をつく。
「頼む。ここは君の家ではない。外へ出てくれ」
「蜂へ懇願している場合ではありません。顔を上げて」
「怒らせないか」
「今さら一匹増えても同じです」
網を開いて逃がすと、彼は土の上へ長く息を吐いた。それでも箱を下ろさなかった。
「明日もやる」
「明日には新しい土地です」
「なら、そこでやる」
刺された指は隠さなかった。腫れた手で留め金を確かめ、運搬布を結ぶ。三か月前から、彼は失敗を見せるようになった。見せたうえで翌日も来るようになった。
四つの運搬箱を荷車へ積み終えるころ、空が白み始めた。
「少し休んでください」
「君は?」
「育種帳を確認します」
「なら俺も」
「字が読めますか」
「ひどいな」
「私の記号です」
「読めない」
「正直で結構です。では湯を」
彼は台所へ向かい、しばらくして鍋ごと湯を運んできた。昨日選んだ一つである。新居用の鍋が早くも働いた。椅子より先に積んで正解だった。
朝食には、昨夜の蜜蝋灯が一本だけ残っていた。
義母はいつもの席に座り、私の席はやはりなかった。私は荷箱へ腰かけた。これは今日から私たちの家具でもある。座れて、蜂も運べる。椅子に勝った。
「最後まで見届ける必要はないでしょう」
義母が言った。
「私の仕事の閉鎖ですから」
「家の決定に不満があるの?」
「ありません。予定どおり出ます」
「ラディスラフは残りなさい。あなたまで意地を張ることはないわ」
「意地ではありません」
ラディスラフは腫れた指でパンを割った。
「俺も出ます」
「次男とはいえ、あなたには継承の順位があるのよ」
「今、返します」
ラディスラフが懐から継承印を出した。
義母の手が止まった。私の蜂蜜を掬うときより、ずっと長く。
「何を言っているの」
「俺に割り当てられた取り分は、三か月かけてオーサへ返しました。未払いだった給金も同じです。今後は俺自身の生計から、別家の費用を負担します」
「妻にそそのかされたのね」
「私は三か月、返事を保留しています」
私が言うと、義母の視線が細くなった。
「では、今からでも考え直せるでしょう」
「考えた結果です。俺はオーサの仕事を本家へ戻したいのではありません。俺が彼女と出る」
義母は継承印を受け取ろうとしなかった。
家令が立ち、窓の外を見た。
「朝食終了まで、あと一刻です」
「そんな報告は要りません」
「板張りの時刻でございますので」
家令は最後の蜜蝋灯へ記録板を寄せた。火はまだ細く残っている。
食卓が終わると、全員で裏庭へ出た。
養蜂室の前には板と槌が用意されていた。十二の巣箱が朝の光を受け、羽音を重ねている。
「カタジナ様。鍵でございます」
家令が差し出すと、カタジナは手を伸ばしかけた。
一箱から蜂が飛び立つ。
「きゃっ!」
カタジナはラディスラフの背へ隠れた。鍵だけは背中越しに受け取った。
「追い払って」
「新しい名義人へ挨拶しているんじゃないか」
ラディスラフが言った。
「そんな挨拶いらないわ!」
「今後は必要になる」
普段は簡潔な男の、珍しくよく刺さる一言だった。蜂より見事である。
鐘楼から最初の音が落ちた。
一つ。
家令が養蜂室の扉を閉める。
二つ、三つ。
使用人が板を当てる。
四つ、五つ、六つ。
ラディスラフが継承印を義母の前へ差し出す。義母が手を引くと、彼は家令の記録盆へ置いた。
七つ、八つ。
家令が槌を上げた。
九つ。
釘を打つ音が、鐘の余韻へ重なった。
残り零日。
板が一本、扉を横切った。
次の一本が打たれる。養蜂室は予定どおり閉ざされ、十二箱の鍵はカタジナの手にある。私が追うものは、もう一つもなかった。
ラディスラフは荷車の運搬箱へ戻り、腫れた手を底へ差し入れた。
「持つ」
「待ってください」
彼はすぐに手を止めた。
答えを急かさず、箱だけを支えている。
「確認します。あなたは継承印を返したから、私が一緒に行くべきだと思っていますか」
「思っていない」
「本家を捨てて私を救ったと?」
「違う。俺は三か月前まで、君を消す側にいた」
板へ三本目の釘が入った。
「母の命令に逆らわず、君の蜂蜜が本家名義で売られるのを見ていた。あとで謝れば、君が黙っている理由まで自分に都合よく使えた」
「私は騒ぐ時間で蜂を見ていました」
「ああ。君が耐えられるから、俺は変わらなくていいと思っていた」
「そこは少し違います」
ラディスラフが私を見た。
「私は耐えていたのではありません。運べるものを数えていたんです」
養蜂室の棚。十二箱。婚家の土地。失うものは先に数えた。
育種帳。衣類。給金。分けられた蜂群。私の手。持ち出せるものも数えた。
そして三か月、返された金の日付、訂正された納品札、翌朝も来た回数を数えていた。
「あなたを連れていくかどうかも?」
「人を荷物のように言わないでください」
「すまない」
「謝罪を増やしても点にはなりません」
「では、何をすればいい」
「新しい家で、私の仕事を手伝うつもりですか。それとも罪滅ぼしが終われば別のことを?」
「手伝う、ではない」
彼は運搬箱から手を離さずに言った。
「君の配下にも、君を養う主人にもならない。俺の分の生活費を稼ぐ。巣箱の世話を覚える。売るときは誰が作ったものか相談して決める。失敗したら、君の後ろで謝るのではなく、俺の名で損を引き受ける」
「蜂に刺されたら?」
「翌朝も行く」
「指が九本になっても?」
「できれば十本のままがいい」
「私もそう思います。箱を持つ人が減るので」
ラディスラフの口元が曲がった。笑ってよいか迷っている顔だ。
私は迷わせたまま続けた。
「私が欲しいのは、あなたが家名を失うことではありません」
「ああ」
「養蜂室を取り戻すことでも、カタジナ様から鍵を奪うことでもありません」
「ああ」
「私の名で働き、あなたの名で働き、二人の負担を二人で決められる生活です。巣箱をどこへ置くか、何本売るか、蜂蜜を誰が何匙食べるか」
「最後の件は厳しく管理されそうだ」
「当然です」
「俺はその生活がほしい。君を本家の内側へ戻したいんじゃない。君と別の家を作りたい」
「立派な家でなくても?」
「椅子を積めないほど小さくても」
「椅子は買います」
「よかった」
「ただし、私の席だけない食卓は困ります」
「二脚買う。同じ卓につけるものを」
「食事を作るのは?」
「相談する」
「蜂蜜を五匙食べたい日は?」
「申告する」
「許可ではなく?」
「相談する」
ようやく、同じ答えになった。
閉ざされた扉を背に、彼は本家へ戻らず、私は養蜂室へ戻らない。互いを古い場所へ押し戻す手が、どちらにもなかった。
「扉は閉じました」
「ああ」
「では次に、二人で開ける扉の話をしましょう」
私は運搬箱の反対側へ手を入れた。
「私はあなたと行きます。別家も、夫婦を続けることも受けます。あなたが私を選んだからではありません。私もあなたを選びます」
彼の指から力が抜け、箱が傾いた。
「ラディスラフ!」
「すまない!」
二人で膝をつき、寸前で支え直す。中の蜂が一斉に羽音を上げた。
「受諾直後に落とさないでください!」
「手が、急に」
「十本あるでしょう!」
「全部震えている!」
まったく。相互理解とは、もっと静かで美しいものだと思っていた。
実際には蜂入りの箱を落としかけ、夫婦で地面へ這いつくばるものらしい。だが、箱を持ち直した手は二人分あった。
ラディスラフは私の答えをもう一度聞こうとはしなかった。
「せえので持つ」
「はい。せえの」
板を打つ音から離れ、私たちは同じ箱を荷車へ積んだ。
* * *
それから数週間を、私たちは運搬と掃除と買い物に使った。
十二の巣箱は取り戻さなかった。養蜂室の板も剥がさなかった。助手には約束した給金を払い、新しい土地では分けてあった小さな蜂群から始めた。
借家の庭は伯爵家の裏庭より狭い。
寝台を入れると椅子が二脚しか置けず、鍋は一つ。蜂蜜壺は今のところ二つ。私が三匙、ラディスラフが四匙食べた。彼はきちんと申告したので、罪には数えない。
納品札を書くとき、ラディスラフは必ず私の名を先に置いた。
「二人で作った品だ」
四度目に私が言うと、彼は筆を止めた。
「では、並べて書くか」
「どちらを先に?」
「品ごとに働いた量で決める」
「蝋燭は私が先。箱の運搬はあなたが先」
「蜂蜜は?」
「蜂が先」
「人の名を書く欄だ」
「では、二人で相談しましょう」
納品札には、二人で決めた作り手の名が並んだ。
問題は巣箱の置き場である。
「日当たりなら東だ」
「朝から働かせすぎます。こちらです」
「そこは台所の窓に近い」
「蜂蜜を運ぶのに便利です」
「蜂も台所へ入る」
「窓を閉めればいいでしょう」
「暑い」
「我慢してください」
「俺が?」
「蜂が」
ラディスラフが巣箱を東へ一歩ずらし、私は西へ二歩戻した。彼が北へ半歩。私が南へ半歩。
巣箱の中から、たいへん不機嫌な羽音がした。
「オーサ」
「動かないでください」
「三か月の経験から言う。これは刺す音だ」
「正解です。走って!」
二人同時に巣箱から離れ、狭い庭を横切った。ラディスラフが扉を開け、私が先に飛び込み、彼も転がり込む。
扉を閉めた途端、肩がぶつかった。
「東は反対だと思う」
「私も西は少し近すぎるかと」
「明日、相談し直そう」
「ええ。明日も二人で」
伯爵家の裏庭より狭い。けれど、どこへ巣箱を置くか私に聞く人がいる。
十分どころか、少し贅沢だ。




