ドライブマイカー
YouTubeに小説の主題歌「ドライブマイカー」をアップしました。クリステルオリジナルです。
小説と一緒にお楽しみ下さい。
https://youtu.be/GK7dB_m8Vu4?feature=shared
「アンタホントにドンくさいわね!」
彼女のいう通りだし、そう言われると僕はゾクゾクする。お尻の穴から吹き込まれた熱い吐息が脊髄を通り抜けて脳天を直撃する感じ。僕って少し変かな?
小学校から高校を卒業するまでの12年間、僕はずっとイジメられっ子だった。なんなら幼稚園の2年間もプラスしてもいい。
だからイジメっ子に関しては誰よりも詳しい。そして彼女は典型的なイジメっ子だ。
でも彼女のイジメを僕は受け入れている。いや、それでは足りない。彼女のイジメを僕は愛しているんだ。
飯を作れ! 迎えに来い! バカだチョンだと言われるたびに僕は表面上、困惑と哀しみの作り笑いで応じるが、内心は歓喜している。それは彼女の僕に対する甘えであり信頼であり、愛そのものなのだ。
イジメっ子にも色々なタイプがあるが彼女は特別なタイプだ。
タイプ①フィッシングイジメ
基本的に人見知りであり、僕をいじめる事で他者の注目を惹き同調者を探すタイプ。この場合僕は〝ダシ〟であり、同調者が見つかれば被害はそれ程深刻にはならない。人前では僕をイジメても二人だけの時は普通だったり無視したりするからだ。
タイプ②コンプレックスマウンティング
自らのコンプレックスを誤魔化す為に自分が格下だと思った相手に狙いをつける。コイツよりは俺はマシなんだ!という悲痛な叫びが聞こえて来る。徒党を組まないから交わしやすい。
③抑圧バースト
家庭環境などの抑圧の吐口としていじめるタイプ。抑圧はさまざまであからさまな家庭崩壊の方が少ないかもしれない。親の学歴至上主義などから子供への過度な期待が抑圧となり子供の精神を崩壊させるケースが多い気がする。全てにおいて支配的で群を作って支配する。イジメがエスカレートする確率が高く、こちらとしても心理戦、消耗線を強いられる。但しこのタイプが教室に複数いる場合は、お互いに牽制し合ってピタリとイジメは止まったりするから不思議だ。
彼女は初めて出会ったタイプ④
だった。まず人前でも二人きりの時でも裏表がない。コレが僕には有難い。
そして僕を彼女に惚れさせたのは、彼女以外の人間に僕のことをいじめる事を許さない事。そう、コレはもう愛の告白に等しいのだ!
「コイツ馬鹿じゃねぇの!」
嘲笑と共にそう言った友達に彼女は猛然と食ってかかったのだった。その時の僕の感動を理解して貰えたらと思うんだけど…。
「ドライブいくぞ!」
僕が免許を取った週末だった。
「えっ? でも車は?」
「兄貴に借りる。」
因みに彼女は4月生まれで僕よりもずっと前に免許を取っていて、ちょくちょく歳の離れたお兄様のジムニーを借りて乗り回していた。きっと教習所の教官のように初心者をイジメて威張りたいのだ。それも悪くないよね。
「ホラ、サッサとウインカー出せよ! まったくドンくさいなー!」
彼女は怒っているようで愉しんでるのだ。そして僕も愉しんでる。
天気は上々。海岸線の有料道路。時速100kmは初心者には怖いけど、カーステから流れる彼女のお気に入りのrock 'n' rollが僕に勇気をくれる。
今日は僕の人生最良の日かもしれない。愛する人と週末に二人きりでドライブ。二人を知っている人は僕らがカップルだとは思わないかもしれない。彼女にとって多分僕はペットの犬くらいの存在感だろう。それでも構わない。今までモテた事なんて一度もないし、女の子とまともに話しをした事なんて一度もなかったんだから。
それは渋滞に差し掛かった頃に突然起こった。
前方に渋滞が見えて、彼女がハザードのスイッチを押した。
「後続車が認識しやすくなるから追突防止だ。」
「はい、教官!」
僕らが三車線道路の真ん中をトロトロと走っていたら、左の車線を走っていた赤いスポーツカーがウインカーも出さずに危険な割り込みをしてきて反射的に彼女が助手席からハンドルに手を伸ばしてクラクションを鳴らした。
「あっぶねーな!馬鹿かコイツは!」
悪夢の始まりである。
前に割り込んだスポーツカーは突然急ブレーキをかけたり蛇行運転をしたりし出した。今話題の〝煽り運転〟ってヤツだ。初心者マークの軽のジムニー如きにクラクションを鳴らされて腹を立てているのがありありとわかる。僕はなるべく車間距離を取ろうとスピードを落とすが、相手も更にスピードを落として嫌がらせを続ける。左に車線を替えれば向こうも着いてくる。僕らの車はとうとう車間をギリギリまで詰められて停止させられてしまった。
スポーツカーの運転席側のドアが開いて男が降りてくる。チンピラっぽい派手シャツに黒ジャケット。背は低いがガタイの良い30才前後の角刈り男。
男は大股でのしのしと近づくなりジムニーの運転席側のドアにケリを入れて窓をドンドン叩いて、開けろコラー!と喚いた。
僕がドアのハンドルを回して半分だけ開けると、その隙間に頭を突っ込んで来て、唾を飛ばしながら聞き取り困難な罵声をデカい声で喚き散らした。
僕はどうしたらいいかわからなくて助けを求めるつもりで彼女の方を見たんだ。
彼女は真っ青な顔で固まっていた。
僕の視線を感じた彼女はシフトレバーに置いた僕の手を握りしめた。
彼女の手は震えていたんだ。
その瞬間僕が感じたものは、生まれて初めての感情だった。
それは〝怒り〟だ。
そしてその〝怒り〟は混乱しかけた僕の頭をクールダウンしてくれた。
冷静に考えれば、この男は長年僕が相手にしてきた手合いの男じゃないか。分類すればそれは、タイプ②コンプレックスマウンティングだ。
いじめられっ子の逆襲の恐ろしさを思い知らせてやる時がついに来たのだ。
僕はドアのハンドルを思いっきり回してコンプレックスマンの首を挟んでやった!
「コラー餓鬼、何すんじゃワレ、なめとんのか!」
お兄様のジムニーがパワーウインドーじゃなくて本当によかった。パワーウインドーだったら安全装置が働いてこんな芸当は出来なかっただろう。そしてなんだか楽しくなってきた!
ギアをバックに入れて助手席のシートに腕を回して後方確認! コレって女子が弱いポーズじゃんって思ったら、彼女に笑顔でウインクして見せた。その時の彼女の驚いた顔を今でも忘れない。
幸い他の車は僕ら2台の車を敬遠して後方にはかなりのスペースが出来ていた。
「はーい、じゃぁバックしますねー!」
「コラー待てや、餓鬼、停まれコラー!」
コンプレックスマンは頭を窓に挟まれながらヨタヨタと着いてくる。
「もう少しスピード上げましょうかね。あ、ミキちゃん、コレ動画撮っておいて貰っていい?」
「あ、うん、分かった。」
やっと少し落ち着いた彼女はちょっと呆気にとられながらも素直に僕の指示に従ってくれた。
「イデーよ、停めろ馬鹿!」
「あなた自分の立場分かってます? 人に命令出来る状況じゃないですよね?」
「分かった分かった、俺が悪かった!」
「いや、まだ分かってませんよね。もう少しスピード上げますね。」
200m程バックしたところでとうとう男が泣きを入れた。
「すいません、停めてください。俺が悪かったです。」
「ミキちゃん、あの赤いスポーツカー運転できるかな?」
「うんうん、出来ると思うよ!」
彼女はもうすっかり落ち着いて笑顔で応えてくれた。
「次のサービスエリアまで5kmくらいだから丁度いいかもね。そこで待っててくれる?」
「うん、分かった!サトシ君…、気をつけてね!」
いつもなら〝サトシ!〟と呼び捨てにする彼女が〝サトシ君〟だ!
赤いスポーツカーまで軽やかな子鹿みたいに駆けていく彼女の後ろ姿を見送って、僕はとても満足していた。
「さてと…、免許証と携帯見せてもらいましょうか?」
サービスエリアに着くと彼女の方がジムニーを先に見つけて駆け寄ってきた。
駐車スペースにジムニーを停めて降りた途端に彼女が僕に抱きついてきた。
「サトシ君…、大丈夫だった?」
彼女の潤んだ瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていた。
僕はと言えば…、ちょっと感動して言葉も出なかったんだ。もしかしたら僕も泣いていたのかもしれない。
「もう…、心配したんだから…。」
そんな乙女な彼女を初めて見たと茶化そうとしたけどダメだった。ヤッパリ胸が熱くなっちゃって…。
スポーツカーの鍵と免許証と携帯は男を解放した時に約束した通り、市内の警察署に落とし物として届けておいた。書類に書き込んだのは偽名だったけどね。仕返ししようなんて思ったら例の動画をネットに晒すって脅しといたから、多分コレで大丈夫じゃないかな。
散々歩かされて少しは頭を冷やしてくれているといいんだけど…。
あれ以来僕に対する彼女の態度が一変した事に周りの皆んなは驚いている。
僕にとっては快感でもあった彼女の罵倒が消えてしまったのは少し寂しい気もするんだけど、多分僕の中の何かもあの事件以来変わったんだと思う。それが自信とか落ち着きとか物腰とか物言いとか、表面にも出ているのかもしれない。僕をあからさまに馬鹿にしたり、蔑んだりするヤツは居なくなっていた。
彼女との仲はって?
フフフ…、ペットと飼い主から〝恋人同士〟に昇格したとだけ言っておくよ。
今日もお兄様のジムニーで彼女とドライブだよ!
おわり




