【8】
しかし凛が元気になると、嵐は来るもので、数日後の朝、大変なことが起きた。
「ーうわあ!!」
大雅の叫び声に、凛達家族が顔を見合わせる。大雅が動揺するなんて珍しいことだった。
「おい!! どうしたんだよ、父さん?」
「何? お父さん?」
朝食後のお茶の時間をきりあげ、店に向かった大雅の元へ向かう。すると大雅が店の前の道に立ち、口に手を当てている。
「一体、何が…。きゃあああ!!」
定が悲鳴を上げる。大雅の目の前に、女の遺体があったからだった。
「お父さん…」
「お前達は動くな」
大雅は念押しすると、女の手首をとる。脈をはかっているらしいのだが、やはり死んでいるようで、首を横に振ってくる。
「何だって、うちの前に…」
清が呟き、女の遺体を凝視する。いい襦裙を着ているが、胸元などが乱れている。綺麗な顔をしているのだが、少し細すぎるような気がした。
「どうする? 役人に言いに行くか?」
清の提案に、大雅がうなずく。
「そうだな。私が行こう」
そう言うと、大雅は慌てて出かけていく。凛は定の体にぎゅっとしがみつき、遺体を見つめる。
ー何だって、うちの前に…。
また何か巻き込まれそうな気がし、清に声をかける。
「お兄ちゃん、何で…? 昨日はなかったのに」
「…さあ。俺も分からない」
「住所か何かないか調べてみる?」
「やめとけ。役人が来るまで現状維持だ。疑われても困るしな」
「分かったけど…」
気になって仕方がなかった。頭の先からつま先まで凝視すると、
「…あれ、この人…」
首に何か下げているのに気づき、凛はそっと持ってみる。
「こら、凛!」
「大丈夫、お母さん。これだけだから」
そう言うど、紐の先についた袋ー守り袋だろうか。中を覗いてみる。
「…これ」
青の宝石がついた指輪が入っていた。今日は生憎の天気でさす光は弱いが、指輪だけは跳ね返すように美しく輝く。
ーこの人、何者何だろう?
興味が出てきて、他も探ろうとすると、清に止められる。
「やめとけ、凛」
「…うん、分かった」
それで遺体の側から離れたのだが、何か嫌なものを感じ、清と定の側に寄る。
ー雅巳さんがいれば…。
一緒に考えられるのだが、今は無理だった。さすがに彼も朝早くに来ないだろうと残念がる。
「ー一難去って、また一難か」
清がぼそりと呟く。凛が顔を向けると、彼がなだめるように言ってくる。
「生きていれば、大なり小なり、起こるものだ。その中から自分で取捨選択し、幸せを掴み取るんだよ。分かったか、凛?」
「う、うん…。大なり小なり…」
事が大き過ぎるだろうと思うのだが、黙っておいた。遺体の情報が欲しいが、好奇心と拒絶感と両方わく。
ー全く。何でいつも巻き込まれるのかしら?
ぶつぶつ呟き、役人が来るのを待つのだった。




