【5】
雅巳はその後も、夕方になると見舞いに来てくれた。
「そんなに心配しなくていいのに」
ごほごほと咳をし、凛は柔らかく言ったつもりだった。そんなに優しくされると、誤解しそうになるから、雅巳の首辺りを見つめることにする。何だか気恥ずかしく、どきどきしてくる。
ー余計に、熱が上がりそう。
暑さを感じ、布団から手を出すと、そのままにしておく。しかし雅巳は何を思ったのか、手を握ってくる。
「無理に明るく振るまうな。甘えろ。まだ具合が悪いんだろう?」
気難しい顔で言ってきたので、凛は真顔になって返す。
「…寝たほうが怖い。悪夢を見そうで」
優にひっかかれた傷は治りつつあるが、まだ事件の尾をひいていた。
「…そうか。分かった」
多くを語らず、雅巳は額に乗せた手巾を取ると、水を張った桶の中に入れる。よく水分をしぼると、また額に優しく乗せてくれる。
「…ありがとう」
気持ち良さから、うっとりした表情となる。雅巳も優しい表情になると、
「温泉、改めて行こうな」
と言ってきたので、凛はこくりとうなずく。それから正直に告げる。
「雅巳さんと話すと心が安らぐ」
雅巳は何も言わず、首筋に触れてくる。何しているんだろうと思うと、雅巳が手を放し、言ってくる。
「脈が速いな。ゆっくり休め」
「…うん。普段、頑張っているから、神様からの贈り物だと思うことにする」
「そうか。神からの贈り物か」
くすっと雅巳は笑い、椅子を座り直す。
「散歩はしばらく禁止な。…その様子だと、痩せそうだし」
「…うん。あ、蜂蜜、ありがとうね。大事に食べさせてもらってる」
「それならいい。今のお前は悪いものを出して、幸運を貯めているところだと思ったほうがいい。元気になったら、良いことがあるぞ」
「本当に? 何だろう」
今度は凛がくすりと笑うと、場が明るくて柔らかい雰囲気になる。
ー悪夢、もう見ないかも。
直感的にそう思い、雅巳に感謝する。彼に話したことで、本当に悪いものが体から排出したような気がした。
「寝ろ。俺が見ていてやるから」
「…うん。…素直に甘えていい?」
「どうぞ。何かして欲しいことでもあるのか?」
「あのね…」
言おうかどうしようか迷ったが、ここは正直になることにした。
「私が寝るまで、手を握っていて欲しい。…駄目かな?」
うかがうように上目遣いになると、雅巳が手を握ってくる。
「いいぞ。俺の運を分けるから、悪夢は見ない。1人じゃないんだ。だから安心して寝ろ」
「うん。おやすみなさい」
そう呟くと、凛は静かに目を閉じたのだった。




