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【4】

それからどれくらい経っただろうか。目を覚ますと、床の横で定が寝ていた。彼女のほうが風邪を引いたらまずいと思い、薄手の毛布をかけてあげる。

ーさてと。

体はだるいのだが、目だけはぎらぎらと覚醒していた。喉が渇いたなと思い、側を探すのだが、水差しはなかった。定を起こさないように、ゆっくりと動くと、凛は厨房に向かう。瓶の中から水を汲み、グラスに入れて飲む。水分に飢えていたのか、一気に飲んでしまい、おかわりまでした。

「…ふう。一息ついた」

口を手で拭うと、瓶の蓋をしまう。額に手を当てるが、自分で熱いのかどうか分からなかった。

ー今、何時?

暗いのは分かるが、正確な時は不明だった。

ー…今日も悪夢を見るのかしら…?

1番恐れているのは熱ではなく、それだった。首を横に振ると、頭がくらくらしたのでやめる。目眩がしたので、卓に手をつくのだった。

ー…雅巳さんに会いたいな。

ふと思ってしまい、その考えを打ち消す。こんな夜中に会いに来るわけがないだろうと、失笑する。どこまで雅巳を頼りにしているんだと、自分を戒める。するとその時、

「夜分にすみません」

入口の戸を叩く音がし、凛は耳をぴんと立たせる。まさに会いたいと思った人が来たのだった。ふらふらしながら、近づいていき、入口の戸を開ける。まさか雅巳も凛が出ると思ってもみなかったのか、驚いたように目を丸くする。

「…、おい、大丈夫なのか?」

心配そうな声音に、凛はこくりとうなずく。雅巳の顔を見たら、安心してだるさなど吹き飛んでしまった。

「雅巳さんこそ、大丈夫なの? こんな夜中に」

かすれた声で言うと、雅巳が小さな陶器を出してくる。

「これは…?」

「ー蜂蜜だ。免疫力向上、疲労回復などにいいから持ってきた。喉にも優しいから食欲がなくても大丈夫だと思う」

「蜂蜜…。高かったんじゃ…?」

「遠慮するな。病人は甘えるのが仕事。ゆっくりしろ」

「…ありがとう」

嬉しさから笑むと、雅巳がわずかに視線をそらす。熱っぽい凛は自覚がないが、色っぽかった。

「早く良くなれよ」

早口で言われ、凛は陶器を両手に持ち、明るく言う。

「うん! 雅巳さんのお陰ですぐに良くなりそう」

「そうか。…じゃあ俺は帰るけど…」

踵を返した雅巳に向かい、凛は喉の痛みなど忘れ、言う。

「私、雅巳さんのお陰で助かっているから。嫌な縁は忘れて、私のことだけ考えて。損得なんか考えてないし」

「お前…」

雅巳がぎょっとしたように振り返ってくる。自分では何気ないつもりでも、大分、大胆なことを言ったらしい。

「…あれ? 何か違う?」

「違くはないけど…。まあいい。早く休め」

「うん。雅巳さんもね。うつるかもしれないから、帰って」

「分かった。じゃあな」

真っ暗な中、雅巳は飛び出していく。彼の姿が見えなくなるまで、ずっと見送り、ようやく戸を閉める。

ー蜂蜜か…。

雅巳からの贈り物は嬉しかった。早速、蓋を開け、中を覗いてみる。とろりとした黄金色のものがたっぷり入っていた。

「ええっと、れんげは…」

探して一口分、すくうと、口に運ぶ。優しい甘さはさらさらしており、口の中が潤っていく。

「…美味しい」

りんごをすったところに入れたら、もっと美味しそうだと思い、凛は微笑む。何だがくすぐったかった。

ー雅巳さんが私を見捨てても、私は雅巳さんを見捨てない。それだけ価値のある男だから。

改めて思い直すと、凛は陶器を大事そうに抱え、部屋へ戻ったのだった。


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