【3】
「ー心労からくる風邪ですね」
医者はそう判断すると、凛の手を放す。定がすかさず布団の中に入れてくれ、医者に尋ねる。
「先生、心労とは…?」
「今日までの疲れが出たんでしょう。ゆっくり休ませてあげてください」
そう言うと、医者は風呂敷の中から、四角く折られた紙を取り出す。、
「牡丹の根皮です。1日3回煎じて温服すれば、解熱の作用があります」
「…ああ、なるほど」
医者が言ったことに理解したのは、雅巳だった。彼は元薬屋の息子だった。しかしすぐにため息を吐く。
「雅巳さん…?」
額に手巾を乗せられた凛が、不安そうに名前を呼ぶ。すると雅巳は何かを振り落とすように首を振る。
「…嫌気がさす。俺、大丈夫か?」
「どういうこと?」
掠れた声で聞くと、雅巳は無表情で告げてくる。
「もう、あいつらは関係ないのに、こうして繋がっている。捨てたはずなのに…。完全には切れないんだな」
「そんなことはない!! 雅巳さんは雅巳さんよ!! もう考えなくていい」
体を起こそうとして、定の手に邪魔される。雅巳もまずいことを喋ったと思ったのか、詫びてくる。
「いいのよ、別に。言いたいことがあれば、言えば…」
「いやいい。ー帰る」
雅巳はそう告げると、大雅達に挨拶し、部屋から出て行ってしまった。
ー大丈夫かしら…?
心配だけれども、体がだるくて動けなかった。ようやく熱があるんだと、実感するようになっていた。
「眠りなさい」
定に優しく言われ、凛はゆっくりと瞼を閉じたのだった。
次に起きた時、凛は食事の時間となった。
「お粥は…?」
定が聞いてくるが、凛は首を横に振る。
「いらない。気持ち悪い」
「吐く? だったら…」
「ううん、大丈夫。…何か食べないとまずい?」
食欲がなかったので、そう言ったのだが、定が心配そうに言ってくる。
「お薬、飲まないといけないし。…ああ、そうだ」
「何?」
「豆腐は? 温めようか?」
「…。それなら食べられるかも」
「そう? じゃあ作ってくるわね」
定が退室すると、ますます体が重くなってきた。若干、汗をかきつつある。
ーこれは…痩せるわね。
ふ、っと笑ってしまった。こんな時でもダイエットのことを考えるなんて、自分でも馬鹿らしいと思う。
ー雅巳さんが心配だけれど…。
親子の関係は切っても切れないものだと思い知る。凛も雅巳の家族に嫌悪するが、咳が出たので考えるのをやめる。
「ーお待ちどうさま。豆腐、温めて来たわよ」
定が盆を持ち、凛の側にやって来る。器には、湯気がたっており、凛はのそのそと起きあがる。
「はい、れんげ」
「ありがとう、お母さん」
そう言い、もらったれんげで豆腐を崩す。暖ぼだんの店のものだと思うが、一口含むと舌の上で転がす。
「どう? 食べられそう?」
「…苦い」
熱のせいか、豆腐が苦く感じられ、喉を通っていかない。、もう一口と思うのだが、体が拒絶するので、定に渡してしまう。
「ごめん。もう食べられない」
「…そう。残念だわ」
凛が横になると、定が布団をかけてくれる。
「お薬、持ってくるわね」
そう言い、定は去っていく。1人にされ、淋しさが募るが、子どもでもあるまいしと思い直し、黙って目を閉じることにした。




