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【15】

「ー凛!!」

凛が帰って来るのを待っていたようで、店の入口から大雅と定が駆けつけてくれる。

「お父さん!! お母さん!!」

凛も2人の姿を見てほっとし、雅巳を見る。「行け」と顎で示されたので、大雅と定の側に寄る。すると、しっかりと抱きしめられ、離すまいと包みこまれる。

「ああ、無事だ…。無事で良かった」

「本当に…!! この娘は全く…!!」

「怪我は…? …腕を切られたのか?」

「う、うん。ごめんなさい」

反射的に謝ると、定が泣き出す。娘の無事に安堵したようだった。大雅が傷を確認してくれ、

「これくらいなら痕には残らなそうだ。…良かった」

大雅まで涙ぐむなんて、思わなかったから、凛も泣きそうになる。家族3人まとまっていると、雪の冷たさなんて関係なかった。深い絆の輪ができ、葉家は安心感に満たされる。それを側で見、雅巳が羨ましそうにする。本当は輪が眩しくて中に入れて欲しいと思っていたのだが、今は血の繋がりを優先して黙った。それに大雅が気づき、雅巳に言う。

「雅巳くん、どうもありがとう」

「いえ、俺は何もしていませんから」

丁寧に言葉を告げると、雅巳は凛に言う。

「今日は雪も降ってきたから、散歩は中止だ。ゆっくり休め」

「…雅巳さん、帰っちゃうの?」

子どもみたいに雅巳の袍を掴むと、寂しそうに言った。彼が帰って行くのが嫌だった。

「この手は何だ、この手は。…全く」

凛の淋しさが伝わったのか、雅巳が苦笑する。その2人の関係にいち早く気づいたのは定で、雅巳に声をかける。

「お茶でも飲んでいきなさい」

「いえ、あの、仕事がありますので…」

「それなら私が理由を言いに行こう。定、任せたぞ」

「ぼたんさんに、お礼を言ってね」

「ああ。仕事に戻っても心配していると思うから、寄ってくる」

そう言うと、大雅は傘をさし、出かけてしまった。

「ほら、中に入って。2人とも寒いでしょう?」

「あの…俺は」

「いいから。お父さんに任せましょう」

凛が袍を引っ張り、急かすと、雅巳も諦めたのか、店の中に入って来た。

「凛、あとでぼたんさんに礼を言いなさいよ。最後まであなたの心配をしてくれていたんだから」

「そうなの!? ちゃんと、あとで言う」

定の言葉に、凛が答える姿を見、雅巳がぽつりと言う。

「ーお前の家族は暖かいな。裏表がないし」

「そう? 雅巳さんがそう言うなら、そうかもしれない」

厨房へ向かいながら、凛は少し考えてから答える。

「基本的にうちは、来るもの拒まずだから。あ、もちろん雅巳さんのことも心配してくれたと思うよ」

「そうなのか? 俺の心配なんか別に…」

「別にって言わないの!! 子どもは甘えなさい!!」

定の言葉に、雅巳が恐縮したようにうなずく。雅巳がどうやら気に入られたらしいと知り、凛は満面の笑顔を浮かべる。それをどう思ったのか、雅巳が少し恥ずかしそうにはにかんだ。

「夕食もまた一緒にとれるといいわね」

定だけが何故か張り切り、腕まくりをする。凛が雅巳の席を促し、彼が静かに座る。

「寒いから、熱いお茶にしましょう」

定が鼻歌をしそうなくらい機嫌がいいのに、凛と雅巳は不思議だったが、大人しく待つことにした。


馬車事件は衝撃的な話題となり、皆を叫喚させた。皆、誰でも犯人になる可能性があると怯える一方、犯人がどういう結末を迎えるのか、ざわめいていた。

「死刑でしょ、死刑」

「そうよね、あれだけ人を殺して怪我させたんだから」

凛の耳にも話題はもちろん入ってきて、本当はもう関わりたくないのだが、犯人の気持ちが知りたかった。

ー自分で死んだほうがいいかも…。

皆、公開死刑にしろだの何だの叫んでいるから、犯人は今、どういう気持ちか知りたかった。しかし捕まっては、もう聞くこともできないし、死刑になればあの姿を見ることもできなかった。

ー外傷は治ったけれど…。

心の障がいはまだ積もったままだった。雅巳のお陰で、軽くなる時もあるのだが、いなくなって孤独になると、具合が悪かった。しかし逆を言うと、雅巳に甘えているのだと気づく。

ー…やだ、私。雅巳さんのこと…。

それ以上、考えるのはやめた。とりあえず何も起きない平穏無事な暮らしがしたかった。しかし天は凛を試し続ける。もちろん彼女自身もまだ終わりではない。何か大きなものがありそうだと感じていた。


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