【10】
「ーは? 遺体?」
夕方になり、散歩中に話すと、雅巳は驚いたようだった。
ーそれはそうよね。
自分のうちの前に遺体があったら、誰でもびっくりするに決まっている。凛自体がそうだったのだから、当然である。
ー今日は久しぶりの散歩だけど、距離は短いのよね。
凛の体調を鑑み、雅巳から言ってきたのだった。もう稲刈は済んでおり、田畑は淋しい光景となっている。ああ、もう冬の色だなと考え、近くにあった草を1つ取る。何をするわけでもないが、茶色の光景に色づけしたくなった。冬になっても頑張って大きくなる野菜もあるが、冬の濃厚な香りに、また寒くなりそうだと息を吐く。喉の痛みはもうないが、目に見えない雪が降っているように感じ、ひんやりして身震いする。
「お前、いつも巻き込まれるな」
雅巳が腕を組み、凛に言ってくる。凛は草を手で持て余しながら答える。
「別に私は…。巻き込まれたくているわけじゃないし」
「それはそうだ。しかし店の前に遺体か…」
雅巳は空を見上げる。夏より暗くなるのが早く、もう黒があらわれていた。橙色とあいまって、太陽に幕を引くような、そんな光景だった。
「詳しいことは…?」
「まだ分からないの。ぼたんさんに聞けばいいのかもしれないけれど。役人が連れて行ったっきり、帰って来ないの」
「そうか…。…あのな」
雅巳が足を止め、凛を真っすぐ見つめてくる。
「天がお前に解決しろって宿題を出したみたいだな」
「宿題? 冗談じゃないわ」
凛も立ち止まり、天を睨む。雅巳はそれを見、
「いい迷惑かもしれないが、良いことがあるはず」
「例えば?」
「それは分からないが…。多分、亡くなった人もお前に解決してもらいたくて来たのかもしれない。幸運というか、その人は幸せ者だ」
「そうなのかな?」
遺体の顔を思い出し、凛は自分の手を見つめる。なぜか泣けてきた。
ー本当は死ぬんじゃなくて、幸せになりたかっただろうな。
綺麗な顔に、襦裙、靴だって、趣味が良かった。多分、凛の生活よりも豊かだったと思うのだが、なぜ死ななければいけなかったのか。世の中、不思議なことだらけだった。
「お前は優しすぎるからな…。それがいいところなんだけど」
「…え? 何か言った?」
「いや、何も。それよりあと少し歩いたら戻ろう。また風邪を引かせるわけにはいかない」
「うん。行こう」
指に巻きつけた草を捨てると、雅巳と並んだのだった。




