表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静かに欠けてゆく世界  作者: オクト
第一章〜嘘〜
9/22

第8話:守れなかったもの、守れたもの

一山超えて、また一山…というところです。

眠ったユウヒの目元を、ホウジュンは撫でた。

深く刻まれた隈と、疲れ切って生気のない顔。

多分、自分も同じようなものなんだろうな。と、苦笑する。


ユウヒの意識が戻ったことを伝えようかと立ちあがろうとした時、カタンと背後で音がした。

視線だけを向けると、ナツメが入ってくるところだった。


彼女は何も言わずにユウヒに近づくと、機械の数値を読み取り、軽く頷くと慣れた手つきで点滴など治療を施していく。


「峠は、越えたようだね」


治療を終えたナツメは、ため息混じりに言った。

はい。と、安堵の混じった返事をするホウジュンに、なら!と彼に向き直って顔を覗く。


「あんたももう寝な!自覚はあるんだろう?」


随分と酷い顔だ。と、眉間にデコピンする。

そこそこの威力のそれにたじろぎ、反射的に弾かれたところを押さえながら、やっぱりか…と零す。

しかし、彼はユウヒを見つめ、立ち上がるそぶりを見せなかった。言うことを聞かないねぇ。とナツメは零し、ホウジュンの背中を思い切り叩く。


「部屋に帰れとか言わない。そこでいいから、とりあえず横になってな!」


ユウヒが眠る隣の空きベッドを示され、ナツメの気迫に負けたホウジュンは、渋々と移動する。

横になった途端、限界近くのホウジュンはすぐに寝入ってしまった。


呆れながら、彼のことも診察する。

似たもの同士か…とぼやき、ホウジュンにも点滴を施した。


「あんたたちが要なんだから…今はゆっくりお休み…」


誰に聞かせるわけでもない言葉をこぼすと、ナツメは静かに部屋を出ていった。



———



ユウヒとの面会許可が出たのは、彼らが帰還して5日後、ユウヒが目覚めて2日後のことだった。

シンとリッカは病室の前で立ち止まり、意を決して扉をノックした。

返事が来る前に扉を開けたシンの視界には、ベッドから上体を起こしているユウヒの姿だった。


「ああ、どうした?」


普段と変わらない柔和な表情で迎えたユウヒ。

あまりにもそれが自然で、2人は固まってしまった。


「入るなら入れ」


動けないでいる2人を、ホウジュンが中へと促した。

そして、ベッドの脇に椅子を二つ並べてやると、2人に座るように促しつつ、自分は壁際へと身を引いた。

シンとリッカは素直に椅子に座るが、言葉が出ずに、ただユウヒを見ていた。


「2人は、なんともなかったか?」


不意に言われた言葉に、2人は目を見開く。

そんな2人を見てから、ユウヒは頭を下げた。


「不甲斐なくてすまない。悪かったな…」


シンとリッカは言葉が出てこなかった。

自分たちが不甲斐ないせいで、彼を危険に晒したのに…ついこの前まで生死の境を彷徨っていた人に、頭を下げられ、謝罪されている事実に、頭がついていかなかった。


「…うして……どうしてユウヒさんが謝るんですか?」


やっと言葉が搾り出せたシンの声に、顔を上げたユウヒは当然だろう?と言う。


「守るべきお前たちを守れず、挙句にこのザマだ…ホウジュンから役目を取っておいての醜態だぞ?…本当に、申し訳なかった」


「守られ、……ましたよ!!」


耐えられなくなったシンが、椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がり、ユウヒに怒鳴った。


「守られた!俺たちは!俺は!!何もできなかった!だから……だからあんたが、今そんなんなんじゃないか!」

「ちょっと、シン…」


リッカが止めるのも構わず、目元を雑に拭いながら、シンは更に怒鳴る。


「あんたがいなかったら!俺も!リッカも!戻ってこれなかった!だから……謝んなよ!!」


言うや否や、シンは病室を飛び出していった。

オロオロしているリッカと、シンが飛び出していった方向を見ながら、ユウヒは苦笑した。

そして、リッカの頭を軽く撫でる。


「悪い、リッカ。シンについててやってくれるか?今は…多分リッカの声しか届かない…」


はい。と小さく返事をすると、リッカは立ち上がってユウヒとホウジュン、それぞれに頭を下げる。

そして、シンを追いかけるべく、病室を出ていった。

部屋を出る前に一度立ち止まり、リッカはユウヒを見る。


「私も…もうちょっとちゃんとしてたら…って、思ってます。だから…」

「リッカは俺を、助けてくれてたろう?」


言葉を遮るようにしてユウヒが言い、驚くリッカに、にこりと笑ってみせる。

少し安堵した表情になったリッカは、パタパタと走り去っていった。



———



2人が去り、若いなぁ…としみじみ呟くユウヒを、ホウジュンが小突いた。


「今のやりとりは、悪手だろうが…」

「いや、想定内…」


俺が謝りたかったんだよ。と、ユウヒは視線を落としながら呟く。


「初戦であれは……トラウマになるだろう?」

「初戦じゃなくても、その場にいたら既にトラウマだろう」


俺だって例外じゃねぇよ。と、こめかみに手を当てながら言うと、どかっと椅子に座り、まっすぐにユウヒを見る。


「あまり、無茶をしてくれるな!こっちの心臓が保たない…」


本気でダメかと思った。とこぼす声は、微かに震えていた。視線も外れ、項垂れるように顔を落とす。

ホウジュンの反応が想定外だったユウヒは珍しく狼狽え、困ったように笑うと、彼の頭に手を乗せる。


「悪かったって…泣くなよ、ホウジュン…」

「なら、泣かせるなよ…」


本当に泣いてるわけではないが、泣く一歩手前のような声音に、ユウヒは苦笑する。

彼の頭に乗せていた手で、ゆっくりと髪を撫でる。


「悪かったって……」

「……お前の正直なところは…口先だけでも、もうやらない。って言わないことだよな…」


大きなため息を吐くと、知ってたけど…と、呆れたようにこぼす。


「…まぁ、二度とはごめんだが…同じような場面になったら…やるだろうな…」


想像して…自分に呆れるように、ため息混じりでいう。

思い返しても…いや、思い返すのも躊躇うほどの記憶だ。あの壮絶さは、二度と味わいたくない。


「本気で……殺してくれって…思っ、…!」


ポツリとこぼした瞬間、ユウヒの目から涙が一粒溢れ、それを皮切りに、次々と涙が溢れた。

無自覚だったユウヒは慌てるが、立ち上がったホウジュンが、その顔を自分の胸に押し付けた。


「お前が、泣くのかよ…」

「いや…ちょっと……止まらな…ッ」


本気で焦っているユウヒに苦笑しながら、ホウジュンはその背をポンポンと叩く。


「泣いとけ泣いとけ…で、今はしっかり休め」


ユウヒはホウジュンの背に手を回し、顔を押し付けたまま、声を押し殺して、泣いた。

ルクス編ひと段落なので、次回からレリクス編に飛びます。

時系列としては、今までの話より過去の話です。


次回更新予定は11/3です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ