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静かに欠けてゆく世界  作者: オクト
第一章〜嘘〜
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第6話:崩れ落ちる帰還

ユウヒががんばります…たぶんがんばりすぎです…

身悶えているユウヒを前に、2人は何もできなかった。

オロオロと狼狽えるリッカを目端で捉え、ユウヒは意識して、一度大きく呼吸をする。


「2人は…動ける…か?」


シンとリッカが同時に頷く。

そうか。とユウヒは零し、ゆっくりと体を持ち上げる。

意識が飛びそうになるのを、必死に堪えていた。


「動けるなら…先に戻ってくれ。増援を呼んできてくれると、助かる…」

俺はしばらく動けそうにないから。と、力なく笑う。

でも…と躊躇うリッカの頭を撫で、大丈夫だと、ユウヒは繰り返す。

その、明らかに大丈夫ではない様子に、シンは何かを言いかけ…ぐっと堪えた。


「なら、俺が先に戻ります!リッカはユウヒさんについててやって!」


ユウヒが止める間もなく、シンはアンカー・コードを取り出すと、躊躇うことなくボタンを押し———姿が消えた。

今のユウヒには、到底使えない代物…


苦笑したユウヒは、心配そうに見つめるリッカの、汚れてしまった頬を撫でた。


「そんな顔、しなくていいよ、リッカ…お前たちに、怪我がなくて、よかった…」


ユウヒの言葉に、リッカの喉がヒュッと鳴る。

この人はどこまでだって、自分より相手のことを気にしてしまう人だ。


残らない方が、この人にとっては良かったのかもしれない。そう思いつつも、彼を1人で残していく勇気も、リッカにはなかった。

ここで彼を1人にしたら、きっと壊れてしまう。

そんな予感が、彼女の背筋を冷たく撫でていった。


リッカは一度手で顔を覆い、深呼吸した。

そして、しっかりとユウヒを見つめる。


「私たちも…戻りましょう。途中まで、ゆっくりで良いですから」

「リッカ…」

「私にも…貴方を、守らせてください」



———



ユウヒの足取りは、重かった。

リッカの肩を借りていたが、彼はほとんど自力で動けていなかった。


「……悪い、…リッカ……」


掠れた声で、ユウヒが零す。

リッカは何も言わず、ただ彼の体を支え続けていた。

涙がこぼれそうになるのを、必死に堪えて…


「エイジさんが生きてたら…怒られそうだな…」


ポツリと呟く彼に、え?とリッカが反応する。


「お前を、泣かすなって…結構、親バカ…」


ユウヒから父の話を聞いたのは初めてで驚くが、彼の表情を見て、納得した。

きっと、無意識で喋っているのだろう。

もう、目の焦点があっていないようだった。

ただ意識を飛ばさないために、喋り続けているように見える。


「お母さんから、プレゼント…もらってただろう?あれを選んでたの…エイジさんだって、知ってた、か?」


首を横に振るリッカに、ユウヒは柔らかく笑った。


「何を選べば、いいか…なかなか、決まらないのに…色だけは、先に…決まってたんだよ…女の子だから、ピンクだって…小さい頃、リッカは…ピンクだらけだった…」


思い返すと、その通りだった。

髪留めやリボン、服に靴。様々なものがピンクに溢れていた。

少し大人になるたびに、身につけるのを躊躇ったこともあった。


「でも、リボンとか…リッカの髪に…よく似合ってたね」


視界に入るミルクティー色の髪を見ながら、ユウヒは途切れ途切れに語る。

今ある記憶を、挿げ替えられないように、思い出すように、ポツリ、ポツリと…

しかし、声は震え、短い呼吸を繰り返すようになっていった。


そして、彼の足が遂に止まった。

その体は冷え切っており、動くことができなくなっていた。


「少し、休みましょう…休んだら、さっきの続き…聞きたい…」


リッカが必死に笑顔を作り、精一杯の明るい声で言う。

2人とも、限界が近かった。


———そのとき、遠くから足音が響いた。


地面を叩くような、力強い足音。


「———ユウヒ!!」


ホウジュンの声が、空気を震わせる。

彼の息遣いは荒く、額には汗が滲んでいた。

駆け寄ってくるその姿を見た瞬間———


ユウヒの膝が、崩れた。


「……ホウ、ジュン…」


その名を呼ぶと同時に、ユウヒの体の力が完全に抜けた。

リッカは支えきれず、倒れそうになったところを、ホウジュンが抱き止めた。


「しっかりしろ!!」


ホウジュンの声に、ユウヒはしがみつくように縋った。

それまで、2人に見せなかった弱さ。

それを、ホウジュンには見せた。


少し遅れて、シンも駆けつける。


「シン!俺の背中に乗せろ!その方が早い!」


連れていく!とユウヒを一度引き離しながら言い、彼を背負う。シンも慌てて手を貸し、しっかりと背に収めると、全速力でホウジュンは駆けた。


「お前を…落とさせるかよ……」


ホウジュンの呟きは、誰にも届かず、空気に溶けた。

次回更新予定は10/19です。

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