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静かに欠けてゆく世界  作者: オクト
第一章〜嘘〜
5/6

第4話:行きと帰りの境界線

ちょっと、用語説明回っぽいですが、お付き合いください。

転送の光が消えた瞬間、シンとリッカは同時に息を呑んだ。

ついさっきまでセントリウムの門前にいたはずなのに、目の前には荒れた街並みが広がっている。

瓦礫と化した建物。

風に舞う砂塵。

空気の匂いまで違う。

乾いた鉄の匂いが微かに届き、遠くで何かが軋む音がした。


「違和感とか、酔ったりしてないか?」


ちゃんと移動できたな。と呟きながら、ユウヒは2人に問う。

転送の感覚は人それぞれらしく、相性が悪いのはどうしてもいるらしい。

が、シンとリッカは特に何もなかったようで、頷いてみせた。


「大丈夫です。本当に一瞬なんですね」


リッカが感嘆の声を漏らす。

シンは周囲を見渡しながら、眉をひそめた。


「でも、オブリシカ…見えなくないか?もっと近くに飛ぶもんだと思ってた…」

「すごいな、シンは。初戦なのに、そんなに目の前に行きたかった?」

「え?!」


シンの言葉に、ユウヒは淡く笑う。


「一応、気を使ったつもりなんだけどね。心の準備もさせずに、突然送り込んだりしないよ。それとも、それでよかった?」


ユウヒの言葉の意図がわかり、シンは自分が舞い上がってることに気づいて赤面した。

確かに、目の前にいきなりオブリシカが現れたら、面食らって慄いていたかもしれない。

彼の表情で色々察したユウヒは、くしゃりとその髪を撫でる。


「からかいすぎたな。まぁ大丈夫だ。それより、ほら」


ユウヒが何かを差し出した。

それは雫型をしていて、真ん中にボタンのようなものが見える。

反射で受け取ると、ユウヒはリッカにも一つ渡し、そして自身が持つものを2人に見せた。


「これはまぁ、帰還用。と言っても、あんまり使えた試しがないから…お守りみたいなもの。

ルクス・コードを座標にして、セントリウムの門前に行けるように設定してある、帰還座標固定転移装置。

アンカー・コードと、呼んでいるものだ」

「へぇ、便利…」

「じゃないんだよ。帰還場所の設定はしなくていいのは楽なんだけど…まず、オブリシカ内では使えない。

それともう一つ…自身の心身状態が万全じゃないと、使えない…というか、使えるけれど、怪我をしてたら悪化するし、精神状態が悪いと、最悪精神崩壊する…」

「え?」


思わずリッカが声を出した。

危険と隣り合わせのシステムすぎて、使用をためらってしまいそうだ。

それをわかっているからか、ユウヒも苦笑する。


「危ないだろう?だけど、命綱なのは変わらない。使えるのが戻れれば、増援も望める。ただ、使い時を見誤らないようにすればいい」


それと…と続けて、ユウヒはまた違う物を取り出した。

それは、一見腕時計のように見えるが、バンド部分が腕に巻くには短く、留め具なども見当たらなかった。


「こっちは、アクシス・コード。ここに来る時に使ったやつだね。概念座標同期転送装置。一つしかないから、大体最年長とか歴が長い人が持ってる。レリクス・オブリシカが顕現すると、ルクス・コードが生み出す。とされている。実際に顕現したのは見たことないけど、あるから、そういうことなんだろうね」


2つを手のひらに並べて、ユウヒは言葉を続ける。


「アクシスは、レリクスによって形を変える。今回はこれ。いつも中途半端な形で、持ち運びには不便」


仰々しくため息をついて、ユウヒは軽口を叩く。

2人は笑い、話しているうちに緊張が少しずつ和らいでいるようだった。


「アンカーは最初のアクシスがこの形だったらしくて、それを模しているらしい。アクシスみたいに複数人まとめて転移できないから、1人一つずつ必要。そして、使ったら壊れる。……発展途上なんだよ」


へぇ。とシンがマジマジと小型の装置を眺める。

そして、ふと気づいたのか顔をあげ、話そうとしたが、先に声を発したのはリッカだった。


「アンカー・コードは万全じゃないと使えないんですよね?使えないと判断したら、どうやって帰るんですか?」

「まぁ……歩いて、かな。距離が遠いととてもしんどい」

「は?……無謀すぎません?」


ユウヒの答えに、リッカと同じ質問をしようとしたシンが呆れたように言う。

近いなら問題ないだろうけれど…ここでだって、そこそこに距離はあるだろう。


「まぁ、そうなんだけどね…1人でも無事なら応援呼んでもらえばいいし、大規模で討伐。ってなればそれなりに準備をして挑むよ」


今回は調査だからと、ユウヒは苦笑する。

レリクスが長期に渡って顕現しなかった代償がここにも見え隠れしていた。

本来であれば、ルクスたちを支援する団体などがいたのだが、今は停滞しているようだった。


「協力者もいるにはいるから、そのときは頼らせてもらえばいいさ」


そうならないようにしたいけどね。とユウヒは零し、さて。と一息ついて、視線を遠くへ投げた。

風は冷たい。遠くで鐘が鳴っている気がする。


「雑談はここまで、かな。———行けるか?」


「はい!」

「もちろん!」


元気な声が返ってきたことに、ユウヒは笑みを浮かべる。


「よし。じゃぁ、行こうか」


3人は、まだ見ぬレリクス・オブリシカへと、歩みを進める。

胸の奥で、何かがざわつく。そんな、気がしながら……

次回更新予定は10/5です。

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