第27話:静かな綻び
ホウジュンとシンの絡みも、結構好きです~
その後の訓練場は騒然としていた。
医療班が複数名現れ、床で転がってる訓練生たちを手当てしていく。
ユウヒはといえば、そのうちの1人にお小言をもらっているようだが、聞いているのかいないのか、上の空のように見えた。
そんな騒動から、一夜明け…
昨日あれだけ騒いだくせに、ユウヒはケロッとした顔で食堂の隅に腰を下ろし、気怠そうにスープを啜っていた。
周囲からひそひそと視線が飛んでくるが、本人は気にしているのかいないのか、ただぼんやりとカップを片手で転がしている。
「……お前なぁ。反省って言葉、知ってるか?」
呆れ声と共にホウジュンが向かいに腰を下ろした。
トレイを置く音が、やけに重く響く。
ん?と顔を上げたユウヒは、不思議そうに首を傾げた。
「あったか?反省するところ」
「……お前ってやつは…」
呆れたホウジュンが小言を溢そうとしたのを、ユウヒは手で制した。
「昨日のなら、反省するとしたらアイツらだぞ?」
俺じゃない。と、ユウヒはスープを口に運んだ。
その仕草が妙に自由で、何かを諦めた軽さではなく、何かを悟った人間の軽さだった。
憮然とするホウジュンに、ユウヒは苦笑いをする。
「ワンマンならまだしも、1対複数だ。それなりに訓練を積んでいる…それであれは…由々しき事態」
「……お前は、ちょっとは自覚したほうがいい」
「何を?」
「お前が強すぎるってことをだよ!」
えー。と不満をこぼすユウヒを、ホウジュンは頬杖をして眺めた。
確かに、ルクス全体を見ても、訓練生を見ても、歴代にしてみればどうしたって小ぶりだというのが今の世代だ。
一つ前、ネグレシアの惨劇の影響がここにも見え隠れする。後続を育てるまでもなく、実力者たちは殆どが鬼籍に入っていた。
そして、生き残った者たちの中で、ユウヒは頭ひとつ以上飛び出しているのは間違いない。
けれど、当の本人はその自覚が全くないのだ。
そんな彼の様子に、言葉にできるほど明確ではないが、昨日の動きは、倒れた直後よりむしろ“冴えてる”感じがする。
病み上がり特有の弱さがない。
むしろ……以前より軽くなっているようですらある。
何かを背負っていたはずの重さが、跡形もなく消えている。
「本当に、大丈夫なのか?」
「ん? ああ。問題ない。むしろ、なんかスッキリしてる」
そう言うユウヒは、確かに健康そのものに見えた。
見た目は細いが、動きには無駄がない。
──軽すぎる。
力みも、重さも、迷いもない。
ファルシラに触れていた時とは、また別の“異質さ”だ。
その様子に、ホウジュンは何か背筋に冷たいものが走る気がした。
そんな二人のやり取りを遠くで見ていた訓練生が、友人の袖を引く。
「なぁ……あれ、本当に病み上がり?」
「違う意味で、病み上がりじゃ済まないだろ……」
ざわざわとした空気が、しかしどこか平和な雰囲気を纏って漂っていた。
食堂のドアが開き、息を弾ませたシンが入ってくる。
「ユウヒさん!今日こそ模擬戦──」
「無理かな」
「即答っ?!」
シンが肩を落とすと、ユウヒは苦笑しながら言った。
「悪い。この後用があるんだよ。また今度な」
「!絶対ですよ!!」
見えない尻尾でもあるような勢いのシンに、ユウヒははいはい。と笑って答えた。
いつもの、変わらない空気。
けれどどこか少しだけ──
“変わってしまったもの”が混ざっている気がする。
ユウヒ自身は、その微細な違和感に気づかないまま、カップのスープを飲み干した。
「んー…甘いものも、欲しいな」
何かあるかな?とユウヒは席を立つ。
目線だけ上げたホウジュンが、どこか行くのか?と無言で問うと、ユウヒは気付き、淡く笑った。
「食べ終わったら来てくれ」
見せたいものがあるんだ。と、それだけを言うと、何処にとは言わずにユウヒは去った。
去り際に、棚から何かを見つけたようで、2、3個摘まんでは、ポケットに入れる動作をしている。
おおよそ、チョコか何かを見つけて取ったのだろう。頭をよく使っているせいか、彼は甘いものを常に欲している。
怪訝そうにしながらも、食事を再開させたホウジュンを見て、シンは先ほどまでユウヒが座っていた場所に腰を下ろす。
「てか、どこに?」
「アイツが言葉が足りないのはいつものことだ。食べ終わった頃に出てったら、待ってるだろ」
そんなもん?と不思議そうにするシン。
ユウヒとの間合いは、長年付き合ってないと取りにくい。
今それができるのは、おそらくホウジュンだけだ。
「あいつの頭の中は複雑すぎてわからん。お前くらい単純だと助かるんだがな…」
「……軽く、バカにしてるか?」
ムッと不機嫌になるシンに、ほらな。とホウジュンは言う。
「それくらいわかりやすいと助かる」
褒めてんだよ。と、あしらうようにホウジュンは笑うと、器の中身を一気に煽った。
褒められてる気がしねぇ。と、シンがあからさまに不機嫌なのを笑い、ホウジュンは彼の頭を雑に撫でる。
やめろ。と口では言うが、シンはまんざらでもなさそうだった。
「……本当に、お前くらい、わかりやすけりゃいいんだがな…」
「ん?なに?」
ホウジュンの独り言ちが聞こえずシンが聞き直すが、なんでもないとはぐらかす。
一度息を整えると、トレイを持ってホウジュンは立ち上がった。
「お前との模擬戦、頼んでおいてやるから、ちゃんと訓練しろよ」
「!おう!任せろ!!」
あからさまに機嫌がよくなったシンに苦笑し、ホウジュンはその場を去った。
ホント、あれくらいわかりやすいと楽だな。と、ポツリ零しながら…
次回更新予定は3/15です。
次回より、レリクス視点を挟みます。




