第26話:病み上がりにつき、手加減不可
こういう…無双してるユウヒが、もっと書きたい。。。
その日、ユウヒの姿は訓練場にあった。
特に何をするわけでもなく、部屋全体が見渡せる舞台ような場所に腰かけ、ぼんやりと訓練の様子を眺めている。
時折反応を示すように眉根を寄せたり、口元に指を運んで何か呟いているようだが、声は漏れていない。
最近まで姿を見せていなかった彼に、室内はざわついているような気配もあるが、特に誰も口に出すことはなく、各々すべきことをしている。
「あ、あの…!」
一人の青年が、ユウヒに声をかけた。
ん?と首を傾げながらユウヒは答えると、声をかけた青年は一度ぐっと息を呑みこみ、そして
「俺に!訓練!つけてもらえませんか?!」
声を発した彼ですら、自分の声に驚くほどの声量を出したので、ユウヒもわずかに目を見開いたが、すぐに柔和な笑みをこぼした。
「いいよ。やろうか…」
すんなり応じてくれたことに、青年は内心ガッツポーズをする。
そして、その声に反応した他の者たちも、我も我もと一気に押し寄せてきた。
「あー……多いな。別にいいけど…最初は君?武器は?」
室内にいるほぼ全員が詰め寄ってくる構図に、ユウヒは一瞬たじろぎを見せたが、軽く羽織っていた上着を脱ぎ、先ほどまで座っていた場所に置いた。
最初に声をかけてきた青年に向かって問いかけながら、軽くストレッチをする。
脱いだことによりあらわになった手足は細く、おおよそ回復したようには見受けられない。
青年は、もしかしたら勝てるかもしれない。という淡い期待を抱き、素手でお願いします!と頭を下げた。
そうなんだ。とユウヒは呟いて少し考えると、取り囲むギャラリーを一瞥し、不敵な笑みを浮かべる。
「じゃぁ、俺を倒したいやつ。で、素手のやつ。全員まとめておいで」
「「「え?」」」
驚きの声が上がるが、ユウヒは何でもないように言う。
「いやだって、人数が多いからさ。……ただ、俺、一応病み上がりだから」
手加減できないないと思うけど。と続けたが、その言葉を聞いている者はほとんどいない。
舐められているわけではないとわかっているが、それでも、この人数を相手できると豪語されては、訓練生たちのプライドに障った。
「負けても、悪く思わないでくださいよ?」
「もちろん。寧ろ、倒してほしいね」
楽しそうに笑うユウヒを、素手で挑む者たちが取り囲む。
それを見て、ユウヒはごく軽く、構えを取った。
「いつでも、どうぞ?」
その一言が、合図だった。
次の瞬間、空気が爆ぜた。
訓練生たちが一斉に飛びかかる――だが、視界が揺れる。
ユウヒの影が、分裂したように見えた。
――ドンッ!
――ガンッ!
――バキィン!
乾いた衝撃音が連続し、床が震える。
誰かの息が詰まる音、誰かの武器が宙を舞う音。
それらすべてが、ほぼ同時に起きた。
「……え?」
声にならない声が漏れる。
気づけば、立っている者は一人もいなかった。全員が床に沈み、呻き声すら出せない。
ユウヒは、ただ埃を払うように手を振っただけに見えた。
息は乱れていない。笑みすら浮かべている。
「言ったろう?……手加減できないって」
まだやるなら――と、軽く手招きする。
その仕草に、訓練生たちの背筋が凍った。
そうか。と、ユウヒは零すと、すたすたと武器が陳列してある棚から、棍を手にした。
くるり、と回しただけで風が鳴り、空気が変わった気すらする。
光の軌跡が、彼の指先をなぞる。
「武器組もどうぞ。立っていられたら、個別に稽古つけてあげるよ?」
ユウヒから個別で指導されることはめったにないと聞く。
意気消沈していた訓練生たちだが、その言葉に士気が上がった。
挑む者たちが、雄叫びを上げて突進する。
武器と武器が、ぶつかり、音がところどころで爆ぜるようだった。
――ガァン!
――キィン!
――ガシャン!
だが、次の瞬間には剣が宙を舞い、持ち主が床に叩きつけられていた。
最後の一人の剣を、棍で軽く弾いた瞬間、その青年は、まるで糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
静寂――
訓練場に立っていたのはユウヒだけ。
当の彼は、手元の棍をくるくると回してから、元の棚へとそれを戻した。
――――
「何、やってんだ……お前」
騒ぎを聞いて駆け付けたホウジュンが、訓練場の惨状を見て、呆れるように零した。
当の本人はきょとんと首を傾げながら、んー、と考える仕草を見せる。
「………訓練?」
「一方的にのしてるのを訓練とは言わねぇよ」
ホウジュンの低い声が響くが、そうか?とユウヒはのほほんと答えた。
「普段はそれなりに抑えてるけど…今はちょっと、加減が難しい…」
「普通は逆なんだよ!病み上がりなら病み上がりらしく大人しくしてろ!」
いやだって、鈍ってるんだよ。と、ユウヒは苦笑し、手を見つめながらグーパーと何度か繰り返す。
あれだけ無双しておきながら、これで本調子ではないとは、末恐ろしい話である。
騒ぎを聞きつけて、また何人か訓練場に顔を出す。
その中に、シンやキキョウらの姿もあり、ユウヒと模擬戦をやりたがっていたが、既に大勢の訓練生が倒れているため、打ち合う場所がなかった。
「また今度だな。加減が出来るようになるまで待ってくれ」
「え?いいッスよ!手加減無用で!」
「すぐ終わりそうだな、それなら…」
「なっ!ホウジュンてめぇ!先にあんたとやるか?!」
シンとホウジュンの掛け合いに、ユウヒはくすくすと笑う。
なんだかんだと、日常が戻ってきているようだった。
平和な日常を…書きたかっただけです……平和?(。-∀-)
次回更新予定は3/8です。




