第21話:過去の邂逅と揺らぐ決意
ユウヒはリッカをとても大事にしているから…更に苦しんでいる感じ…?
どうぞ。というユウヒの声に、リッカがひょこっと顔を出した。
「やぁ、リッカ」
「ユウヒさん、来ました」
部屋に入ったリッカは、ホウジュンを認めると軽く会釈し、首を傾げた。
「早かったですか?」
「いや、ぴったりだよ」
これは見張りだから。と、ホウジュンを指さして苦笑する。当の彼は憮然とした顔で椅子に腰を下ろした。
ユウヒはリッカを手招きし、リッカも気付き近寄ると、壁に映されている何かに気づく。
正確に言えば、壁にではなく空中に放映されているそれが不思議で、リッカは茫とそれを見つめた。
「これ、なんですか?」
「コンシリウムに蓄積してるデータを見れるように繋いだ機能だよ。これを見せるのに、呼んだんだ」
へぇ。と感嘆の声をこぼしたリッカにユウヒは笑むと、とりあえず座るように促した。
彼女は素直に従う。
素直で可愛い。といつもの軽口をユウヒが口にすると、リッカははにかみ、そして…
「寝ているユウヒさんも、可愛かったですよ?」
軽く反撃に転じた。
リッカの言葉にホウジュンは軽く吹き出し、ユウヒは珍しく動揺を見せた。
「あー……いや、まぁ……うん。……そうか」
ユウヒは少しだけ髪をかいて、苦笑する。
「でも、今は起きてる俺で、我慢してくれ」
「ふふっ、はい」
その一言で、部屋の空気が少し柔らかくなる。
ユウヒは小さく息をついて、視線をリッカに戻した。
「じゃぁ、…始めようか」
途中で停止していた映像をスタート位置まで巻き戻す。
一度、決意をするように息を吐くと、ユウヒは画面をタップして、それを流し始めた。
今度は、音声も流れていた。
『……お城、みたい……』
映像内のリッカの声が聞こえた。
何度見ても圧倒される、壊れかけた、ガラスと鏡で組み上げられた城。
映像が進むにつれ、リッカはのめりこむように見入っている。
同じ映像を見て、ホウジュンは少し見やすくなっている気がしていた。
ユウヒ曰く、一度取り込んだデータはコンシリウムと同期されるから、編集がされているんだ。と言っていた。
なるほど、最初に見た生データでは目まぐるしく場面が飛んでいたが、幾分抑えられている感じはある。
それでも、やはり他のものとは比べ物にならないほどの鮮明さを保っていた。
『……反響が拾えない。空間が、偽ってる』
映像内のユウヒの声が響いた。
映像内の音を拾うたび、ユウヒの体が反応しているようにも見えた。
ふと、ホウジュンはユウヒの顔を見ると、体の反応とは違い、上の空のような表情をしているのが、引っかかった。
ホウジュンが声をかけようとしたとき、ユウヒと目が合い、彼は首を横に振り、最小限の動作でリッカを示した。
彼女の気を反らすな。とでも言いたげな所作に、ゆっくりと瞬きをすることで答える。
『“嘘”、か…ここの、概念……』
先ほども見たシーンが流れると、静かだった場面が一気に慌ただしくなる。
飛び交う光。羽切音。3人の誰でもない声。
目まぐるしく変化する情景が、ただひたすらと流れた。そして…
『だめだ!リッカ!止まるな!!』
映像内のユウヒの叫び声と、リッカを掴む彼の手が出てきたところで、映像は唐突に止まった。
詰められていた息が吐き出され、リッカは至極当然の疑問を投げかける。
「ここまで、なんですか?」
うん。とユウヒは淡く笑む。その目は、どこか別のところを見ているかのように上の空だ。
その表情と答えに狼狽えるリッカを見て、ホウジュンがため息を零しながら口を開いた。
「事情があってな、ここまでしか残せてない。リッカ。今のを見て、何か思い出すことはないか?」
「思い出す……」
口元に手を当てて、思考を巡らせるそぶりをするリッカ。
ユウヒの視線は、定まっていないながらに、リッカから外れてはいなかった。
「何を、悩んでいる?」
「いや…ちょっと、な…」
気づいたホウジュンは、リッカに気づかれないように問いかけるが、ユウヒははぐらかすだけだった。
一度、大きく息を吐いたホウジュンは、ユウヒの目前でパンッ!と音を立てて手を叩いた。
不意を突かれたユウヒは驚き、ホウジュンと焦点が合い、リッカも何事かとそちらを直視している。
やっと目が合ったな。とホウジュンは零し、まっすぐに彼を射抜く。
「言ったよな。お前の頭の中は複雑すぎてわからん。思ってること、全部話せ。今もそうだ」
一人で抱え込むな。そうホウジュンが言い、リッカも心配そうに見つめている。
あー…ともうー…ともならない声を出したユウヒは、頭を落として、視界を両手で覆った。
「本当は、聞くつもりだったんだ…だけど…本人を見たら…決心が、揺らいだ…」
泣きそうな、消え入るような声で、ユウヒは続ける。
「俺自身が痛むのは、構わないんだ…だけど……周りが…仲間が、傷つくのは見たくないし、傷つけるとわかっていて…言いたく、ない…」
弱くて、すまない。と、消え入るような声が続いた。
そんなの当たり前だろう。とホウジュンが言えば、そうじゃない。とユウヒは首を振る。
しかし、その言葉の先はなく、ただぐずっている子供のようだった。
次回更新予定は2/1です。




