第18話:記憶の残穢の果ての光
新年1発目です。よろしくお願いします。
楽しんでいただけると幸いです。
「なんで…そう思うんだ?」
指摘されたことに動揺はしないものの、らしくない受け答えに、やっぱりか。とホウジュンは眉間に手をやる。
自分もコンシリウムに記憶を提供してることがある。その時、特に何も感じなかった。
それに…あそこまで鮮明に映っている記録を、ユウヒ以外で見たことがない。
記憶は万能じゃない。深層心理をつかみにいくシステムでもない。そもそも未知数で、わかっていないことも多いが、そういうことでもなさそうだ。
「あと、黙っていることは、なんだ?」
「……俺、読まれすぎじゃないか?」
そんなにわかりやすくないはずなんだけど…と、方向違いに悩みだす相手に、はぐらかすな。と軽く諫める。
ユウヒは、ホウジュンから視線を逸らして、ぼそぼそと、歯切れ悪く話した。
「《トレース》も、《エコー》も…まだ使用できるレベルじゃないんだ…特に、《トレース》だな。
使わない前提で、基盤を組み込んだだけだから…色々、機能を削ってある」
青筋を立てているのが雰囲気でわかり、ユウヒは軽く怯んでいるが、ホウジュンは無言の圧で先を促している。
ため息を一つ零したユウヒは、やはり歯切れ悪く話す。
「コンシリウムの機能は、まぁ…色々搭載してあるだろう?さすがに全部引っ張ってくるのは無理だ。
だから、最小限必要な機能だけ引っ張ってこれるようにしてある。既存のデータの閲覧とかな」
さっき見ただろう?というが、ホウジュンの表情は変わらない。
胡麻化されないと悟ったユウヒは、こめかみに手を当てて、ため息を吐いた。
「本当に、やらない予定だったんだよ。性能は、もちろんコンシリウムのほうがいいからな。
だけど……俺は当分、入れないだろう?弾かれなければ、向こうでやったさ…」
「で、何を削ったって?」
「………耐性と、編集…」
観念したように、手で顔を覆いながら、答えた。
「さっきのエコー見ただろう?俺の視点は目まぐるしくて…生データだと酔うんだ。
コンシリウムはそれを自動で調整している。さっきも言ったけど、どうやら俺のデータは、閲覧制限かかってるらしい」
俺のことは、俺にはわからない。ととぼけて見せるが、どうやら今のホウジュンには冗談は通じないようだ。
無言を貫く彼に、先を促されているようで、ユウヒは頭を掻く。
「…記憶の抽出は、厄介なんだよ……引っ張ってくる時、その時起きたことすべてが甦ってくる。
コンシリウムの機能は、それら全てをシャットアウトする。本当に、記憶をそのまま抽出できる感じだな…
だけどこれは…リンクにはそれを組み込んでない。というか、再現が困難で頓挫しそうだったんだ。だから、とりあえず…それを省いて形にしてもらった」
「お前、それ…」
「そう。だから……途中で切った。さすがにあれは…もう一度は無理だ」
そう話すユウヒの手は、微かに震えていた。
ふぅ。と大きく息を吐いたホウジュンは、ユウヒの髪を雑に撫でる。
なんだよ…と、彼は非難めいた視線を向け、拗ねたように視線を外す。
「まぁ、無理した自覚はある。だけど、無理した甲斐はあった、かな…」
「何かわかったのか?」
「わかったというか…言っただろう?覚えてないって…結構記憶が混濁してて、抜き出せないと思ったんだけど…」
トントン。と、自分の頭を指でつついて、ユウヒは笑みを浮かべた。
「俺のここは、優秀らしい…俺自身はあんまり覚えてないし、これだけ時間が経ってるのに、あそこまで出せた」
人の記憶とは曖昧なものだ。そして、すぐ消失してしまう。
深層心理に貯蓄されているともいうが、この機能はそこまでアクセスできるものではなかった。
けれどユウヒの場合、かなりそれに等しい記憶を抽出してるようだった。
「俺の微かな記憶と、ファルシラに行ったやつらの言葉が、どうも結びつかなかった。俺の記憶がおかしいとすら思った。
だけど、違う。……やはり俺は、俺たちは……無限回廊を通ってない」
「通って、ない?」
「ああ。俺たちは惑わされてないし、分断されてもいない。そもそも、全てが違ったんだ」
そこまで言うと、ユウヒはポルタに向かってコードを発する。――《カウント》と
すると、バングルとリングを繋いでいる鎖が光り、10と浮かんだ。
「まだ、使えそうだな…《リジ……》」
「《ダウン》!」
ユウヒが再起動の言葉を紡ぐより先に、ホウジュンの短い声が低く響いた。
ポルタのリングが赤く閃き、Linkの光が糸を断たれるように崩れ落ちる。
“安全優先プロトコル、認知。強制終了を実行します。再起動可能まで、九百秒”
無機質な音声が室内に冷たく落ちた。
光の残滓が空気に散り、静寂が戻る。
一瞬呆けたユウヒは、パッとホウジュンを見た。
彼は渋面を浮かべ、腕を組んだまま動かない。その手には、コマンド一覧が描かれているシートが握られていた。
「今日はもう、終わりだ」
「いや、まだやれただろう?」
「その顔色でか?」
ホウジュンは表情を変えず、ユウヒの頬に触れた。
冷たい体温が、手のひらを刺す。
「お前は、お前に無頓着すぎる。いい加減、自覚しろ」
倒れる寸前だろうが……と、ホウジュンは低く零した。
ユウヒは何も言えず、小さく息を吐いた。
悪あがきに《ブート》と発するが、無情にも再起動可能秒数が告げられるだけだった。
「落とされたら、何もできない…」
「そのための機能だ。あまり酷いようなら、取り上げるぞ?」
ぐっ、と言葉を詰まらせたユウヒは、首を横に振り、降参とばかりに両手を挙げた。
「了解。無理はしない」
「言質取ったからな」
光が消えた空を、ユウヒは未練がましく見つめる。
そこにまだ像が残っているかのように、指先がわずかに動いた。
ブツブツと呟きながら、脳内で情報を再構築している。
ホウジュンはつくづく、コマンドに目を通しておいてよかったと心底思った。
そのとき——
「……あ」
小さな声に、ホウジュンの視線が鋭く動く。
「どうした?」
「あ、いや……なんでも……」
珍しく歯切れの悪いユウヒに、ホウジュンは眉をひそめる。
本当に、大したことじゃない。とユウヒはガシガシと頭を掻いた。そして、
「何かを、見落としてる気がしてた。それを探すために、映像が欲しかったんだよ」
「……見つけたのか?」
「見つけたというより……思い出した。確証はない。けど……ホウジュン」
一度言葉を区切り、ユウヒはまっすぐと彼を見据えた。
「リッカを……呼んできてくれないか?」
次回更新予定は1/12です。




