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静かに欠けてゆく世界  作者: オクト
第一章〜嘘〜

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第14話:光に届かぬ、その指で

ルクス側へと戻ってきました。

8話より、半年ほど経った話です。

あれから、半年過ぎ――

嘘のレリクスは未だ討伐出来ずにいた。



光を遮った部屋に、淡い光が漏れていた。

ベッドに腰かけ、右手首にバングルを嵌めたユウヒは、それの中央にある飾りを指で摘まんだ。

飾りはリングになっていて、引き延ばすように動かすと、淡い光が鎖のようになって繋がり、リングを人差し指に嵌めた。


《ブート(boot)》


バングルに向かって発すると、それは低く脈打つ音が響き、バングルとリング、そして、近くに置いてある長方体の形状をしているものが、淡い光を放った。

指先から光が広がり、半透明のUIが宙に浮かび上がる。

彼は指を滑らせ、何度か空をなぞる。

光のパネルがスライドし、記憶データのリストが現れる。


「……とりあえず、これと…これか…」


必要なデータを見つけると、既に浮かんでいる画面とは別のところでピンチアウトする。

すると、そこには新たなUIが浮かび上がり、2つのUI上をスワイプすることで、表示を移した。

同じ動作をもう一度繰り返し、合計3つの画面を表示させた。


「うまく…動いてくれよ…」


小さく零しながら、リングを嵌めた指で、画面を軽くタップする。

すると、設定した映像が動き出した。

ノイズが走り、決して鮮明ではないが、見れないこともないそれに、ユウヒは安堵のため息を零した。


しばらく、ユウヒはその映像を見比べていたが、背後でドアが軋む音が聞こえ、軽く振り向く。

立っていたのはホウジュンだったが、その目は浮かび上がっているUIを見ていた。


「なんだ…これ…」


ホウジュンの視線は、宙に浮かぶUIに釘付けだった。


「あー……開発中の、コンシリウムのポータブル機能?」


曖昧に答えながら、ユウヒは《ポーズ(pause)》と発する。映像がすべて静止した。


「ポータブル? ……お前、コンシリウムでやればいいだろ」

「……できなかったんだよ…」

「できない?」


ホウジュンの眉がわずかに動く。

ユウヒは、どうやって説明したものか…と、頭を掻く。


「……拒まれた。あそこに入った瞬間、意識が飛んだ」

「……は?」


短い沈黙。ホウジュンの声が低く落ちる。


「で、誰が拾った」

「拾ったって、お前……」


呆れたように言い、ホウジュンを見るが、彼の目は真剣だった。

ふぅ。と、ユウヒは息を吐き出す。



――あのとき、確かに、コンシリウムに拒まれた。


やっと許可が下り、ユウヒは病室を後にした。

レリクスとの戦闘時、肉体ではなく精神を蝕まれたユウヒは、思った以上に回復に時間を要したのだ。

その間、何チームかのルクスたちがレリクスに挑んだらしいが、皆口をそろえて同じことを言っていた。


“どうしても、奥に進めないんだ”と……


ユウヒ自身、あの日の記憶は曖昧だ。そして、できることなら思い出したくはない。

自分の中の記憶と、ルクスたちの証言の食い違いや違和感を感じたユウヒは、退院したその足でコンシリウムに向かったのだ。


ルクスたちがレリクスに対しての会議などを開くその場所は、オーパーツがあり、オーバーテクノロジーが備わっている。

ただし、この場所でしか機能しないし、機能を使用できるのはルクスだけであった。

解析はあの場所で行うのが最適だ。というか、今時点ではここでしかできない。

ユウヒは、コンシリウムの扉の前に立ち、ゆっくりとそれを開いた。


扉を抜けた瞬間、空気が変わった。

冷たい圧が、皮膚の下にまで染み込んでくる。

一歩、踏み出した――そのとき。


視界が白く弾けた。

耳鳴りが爆ぜ、世界の音が遠ざかる。

膝が抜ける感覚。

声にならない息が、喉奥で途切れた。


――落ちる。

そう思った瞬間には、もう床が頬に触れていた。



――



「……あれ、明かり…」


今日は使われる予定はないと聞いていたコンシリウムに明かりがついており、ソウイチは不思議そうに声を零した。

暗いのは嫌だな。と思いながら、資料を取りに来ていた彼にとって、それは想定外のラッキーだったが、

室内に足を踏み入れた途端、ラッキーなどではない。と自己否定した。

コツンとつま先で何かを蹴った感触があり、恐る恐るそれを確認すると、ソウイチの喉がひゅっと鳴った。


「……ユウ、ヒ?おい!大丈夫か?!!」


慌ててしゃがみ込むと、倒れている彼を確認する。

顔色も悪くないし、呼吸も正常に思える。

けれど、何度呼びかけても、意識は回復しなかった。


「ちょ、ちょっと待て……マジかよ……!」


頭の中で警報が鳴りっぱなしだ。

やばい、やばい、やばい――でも、止まるな。

足がすくむのを無理やり蹴飛ばし、通信端末を叩く。


「医療班!聞こえるか!医療班!!至急、コンシリウム前まできてくれ!」


声が裏返りそうになるのを、歯を食いしばって押し殺した。

人が倒れてると言うと、端末の向こうでざわつきのあと、了解!と短い声が響き、通信が切れた。

心臓がうるさい。想定外のことが起こり、彼の内心はずっと騒いでいる。

そして何より…倒れていたのが、よりにもよって彼だということが、ソウイチを一番ざわつかせていた。



――



白いシーツに沈むユウヒを見下ろし、ナツメは彼の額に手を当てた。


「……こんなにすぐ、戻ってくるとはね…」


先ほど出ていった彼が、またベッドに寝かされている。

見通しが甘かったのか?と呟きながら、ナツメはくるっと振り返った。

そこには、発見者であるソウイチが座らされていた。


「で、どういう状況だった?」


怒りと不甲斐なさが入り混じり、低くなったナツメの声に、ソウイチは口をパクパクさせる。

言い淀む彼に、別にあんたに怒っちゃいない。とナツメは言い、ドカッと椅子に腰かけた。


「状況が知りたいだけさね。見つけたとき、既に倒れていたって。それだけかい?」

「そ、そ、そ…そうです。本当に、ただ、眠ってるだけみたいで……」


呼びかけても起きなかったけど…とどもりながら説明するソウイチ。

確かに、心配するような異常は見つからなかった。

けれど、不思議なことに…数値は退院した先ほどより悪くはなっている。

正確に言えば……一月分、時間が戻ったような数値であった。


「あんたに……何が起きたんだい?」


盛大にため息を吐いて、ナツメはユウヒに向き直る。

彼の頬を軽く叩きながらこぼすと、わからないことだらけだと首を横に振り、立ち上がった。


「悪いけど、もうちょっとだけユウヒを見ててくれるかい?」


こくこくと頷くソウイチを見て、じゃぁ頼んだよ。と言って、ナツメは部屋を後にした。

一人残されたソウイチは、所在なく、視線をさ迷わせていた。


次回更新予定は12/14です。

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