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静かに欠けてゆく世界  作者: オクト
第一章〜嘘〜
14/22

第13話:残された白いドレス

この兄妹に、幸はあるのか…

朝の光が、静かに部屋を満たしていた。

トウヤは、アイナの部屋の扉をそっと開けるが…


そこには、誰もいなかった。


ベッドは整えられたまま、白いドレスが椅子に掛けられている。

鏡は、ひび割れていた。

床には、いくつかの破片が散らばっている。

鳥かごの中の小鳥が、静かに横たわっていた。

まるで何かを告げているように……


「アイナ……?」


その名を呼ぶ声は、あまりにも小さく、虚空に溶けて消えた。

昨日までそこにいたはずの存在が、まるで最初からいなかったかのように、静かに消えていた。


彼は家の中を探し回った。

庭、廊下、書斎、浴室。

どこにも、アイナの姿はなかった。


外に出て、近所を歩いた。

思い出の場所を巡った。

詩集を読んだ公園。二人で買い物をした店。お気に入りだと言っていた川辺。


けれど、彼女はどこにもいなかった。


――なぜ、気づけなかったのだろう。


トウヤは、アイナが何かを抱えていたことに気づいていた。

笑顔の奥に、言葉にならない痛みがあった。

けれど、それに触れることができなかった。

彼女が守ろうとしていたものを、壊したくなかった。


だから、踏み込まなかった。


その選択が、今になって胸を締め付ける。

最後に見た笑顔が、脳裏に焼き付いて離れない。

あれは、別れを告げる微笑みだったのか。

その答えを、もう確かめることはできない。


部屋に戻ると、静寂が彼を包み込んだ。

時計の針の音だけが、規則正しく響いている。

その音が、やけに遠く感じられた。

窓から差し込む光は、やさしいはずなのに、今は冷たく、残酷だった。


床に散らばった鏡の破片を、ひとつ拾い上げる。

そこに映った自分の顔が、涙で歪んでいた。

鏡の破片は、冷たく、鋭かった。


その中に、一瞬だけ、白い少女の姿が映ったような気がした。

鳥かごの中に座る、白いドレスの少女。

その目は、静かにこちらを見つめていた。


――現実か、幻想か。


わからない。

けれど、確かにそこに「何か」がいた。


幼い頃の記憶がよみがえる。

小さな手を握って歩いた並木道。

風に揺れる髪、笑い声、夕暮れの匂い。

あの頃、彼女は檻の中になどいなかった。

けれど、いつからだろう。

彼女の瞳に、見えない鉄格子が映り込むようになったのは。


トウヤは、白いドレスをそっと畳んだ。

その布地は、まだ彼女の温もりを残しているようだった。

指先に伝わるその感触が、胸を締め付ける。

窓の外に、朝の光が広がっていた。

その光は、静かに部屋を満たしていく。

けれど、彼の心は、深い闇に沈んだままだった。


それでも――

その闇の底に、小さな光が灯る。


――彼女を、見つける。

――彼女を、もう一度抱きしめる。


檻を壊すのは、誰でもない、自分だ。

そのためなら、どんな痛みも受け入れる。

彼は深く息を吸い込んだ。

その瞬間、胸の奥で何かが軋む音がした。


それが、彼に残された唯一の願いだった。

レリクス編、ひと段落です…

次回よりルクス編に戻ります。

8話より、半年ほど経った時間軸予定です。


次回更新予定は12/7です。

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