009. 正義の錬金術
現代社会には、投資という錬金術がある。
働かなくても、金が金を生むのだ。
俺も、NISAとiDeCoの枠をフル活用して、こつこつと資産形成している。
この現代の錬金術に、魔法を組み合わせるとどうなるのか?
もちろん、ろくな事にはならんのだろうが … 。
「5分後の未来が見える?」
白い方の魔法幼女、ハーの魔法で、5分後の未来が見えるんだとか。
未来予知能力としては、「たったの5分なの?」なんて思ってしまう。
大災害を予知出来たとしても、5分では備えるのも避難するのも無理だろうな。
しかし、これを投資と組み合わせると … ?
株価なら、せめて当日の終値くらいは見えて欲しいものだが、利益を得られる可能性が少しはあるかな?
「FXをやる」
証拠金で外国為替の差金決済をするFX。
投資ではなく、投機。個人的には、丁半博打と同じだと思うが。
5分で1円動く事だってあるから、5分後の未来が見えるなら … ?
1円動かなくてもいい。1銭でもレバレッジ次第では、結構な額を動かせる。
もしかして、魔法を使った錬金術いけるか?
スマホがあればFXは出来るが、パソコンの方が勝手はいいだろう。何してんのか、横で見てたいし。
ノートパソコンは、持ち出していたので、ボロクシャアパートの爆破に巻き込まれずに済んでいる。
パソコンとネットワークさえあれば、FXはスグにでも出来る。
ネット証券は、前世紀の人間にしてみれば、魔法に見えるかもな。
だが、家なき子の俺達は、どこでやろう?
ネカフェに行ってもいいが、会話出来ないからな。
「問題はネットワークか。モバイルルータとかは、持ってないんだよな」
「フリーWiFiが使える公園が近くにあるよ」
そんな公園あったっけ? ここ住宅街だぞ?
魔女共について行くと、住宅街の中にある児童公園だった。
試しにスマホで確認してみるが、確認出来るのは周辺の住宅から漏れ出る電波だけ。
稀に、パスキーを設定していないWiFiを運用している家があるが、それだろうか?
「WPA2なら、魔法で突破出来るよ」
犯罪なんだが、もう今更だろう。
魔法が便利過ぎだよ。悪事しか働ないてないけどな。
こいつら親なんか居なくてもサバイバル可能なんじゃなの? 俺が養って欲しいわ。
「接続端末を監視してるかも知れんぞ?」
「そんな暇な事をする一般人なんか居ない」
そうか? 俺は、やってたぞ? 暇なワケじゃなくて、システムエンジニアとしての宿命だな。
まあ、一般人はSSIDすら意識してないか。
「それにMACアドレスを偽装するからバレない。さすがに一般家庭で証明書までは運用してないでしょ」
こいつら、ウチのWiFiもそうやって、タダ乗りしてたのかもなあ。
ボロクシャアパートの壁は薄いから、こいつらの部屋までウチの電波が届いていただろうし。
ってゆーか、こいつら詳しいな? 俺の代わりに働けるんじゃないの?
やっぱり、養ってくれないかな。
ノートパソコンと証券口座を魔女共に貸してやる。こいつらには、戸籍すら無いので、口座なんて持っていないからな。
ついでに資金も900万円貸してやろう。
こいつらの金は、ロンダリングが必要な金だから、そのまま俺の証券口座に突っ込まれては困る。
いや、900万円くらいなら大丈夫かな? 俺は青色申告している個人事業主でもないしな。
こういう事も、弁護士に相談しておけば良かったかな?
「さあ、見てなさい。マンションを買えるくらい稼いでやるわよ」
この辺りのマンションの相場をスマホで調べる。
中古でも、4000万円以上はする。タワマンだと1億円でも足りないかも。
少子高齢化で人口も減っているのに、なんで不動産は値上がりし続けてるんだろうなあ?
俺の稼ぎじゃあ、持ち家の購入なんて、もう無理だぞ。やっぱり養って欲しい。
「3分後に長い陰線、5分後にもっと長い陽線」
「3分後に買って、5分後に売るわ」
ハーがぼやっとした予測をして、ミーが注文を入れていく。
短時間で小さい値幅を狙う、スキャルピングという手法だ。
見えると言っても、くっきりはっきりと具体的ではないようだ。ちょっとぼやっとしている。
また、未来は確定しているワケじゃないので、必ずしも的中はしないらしい。
「でも、5分後の為替相場くらいなら、だいたいいけると思う」
だといいけどね?
ギャーギャー言いながら取引をする魔女共。
これは、ネカフェなんかでやるのは無理だな。
「くっ、あと0.1秒引っ張れば、プラス10万円だった!」
アクションゲームみたいな感覚だな。
小さい値幅とはいえ、900万円を25倍のレバレッジで動かしているので、結構な金額が動く。
俺の予想に反して、資金はみるみるうちに倍々の勢いで増えていく。銀河を埋め尽くす、栗饅頭の如く。
こいつら、証拠金維持率130%以下のギリギリ攻めてやがるな。
120%でロスカットされる設定にしてあるから、その内静かになるだろう。
「ここで、一気に倍プッシュだ!」
倍の勢いで増える、ということは、減る勢いも倍という事だ。何故か、体感的には10倍の勢いで減るけどなあ。
何故かって事は無いな。そういうものなのだ。所詮、博打なんだから。
「うぎゃー!」
未来予測は100パーセントではないと言っていた。
中央銀行の総裁だとか、大統領だとかが、迂闊な事でも言ったんだろう。
或いは、何処かで戦争でも始まったか、大規模災害でも発生したか。
そういう突発的な事態は見えなかったんだろうな。
予測とは反対方向に、急速な値動きをして、損切りする暇も無かったらしい。
FXなんてやってると、「今、大地震でも起きれば、俺のショートポジションは救われる」とか、言い出しちゃうから、機械的に損切が出来ないなら、やらない方がいい。
悲鳴は、すぐに消え、無言になった。完全に固まってる。声も出ないってやつだ。
「ロスカット喰らったか?」
ロスカット率を高めに設定しておいたので、あっさりと強制決済された。
追加証拠金の発生もなく、900万円はほぼそのまま残ったのだから、かなりマシな結果だと思うよ?
どうやら、再挑戦する気力は失せたようだ。
FXの損害を、FXで埋める! とか言い出すと、もう泥沼だからなあ。良かったよ。
「50円増えたわよ」
「へー、すごいねー」
俺も、うっかりちょっとだけ夢を見てしまったけど。
賃貸物件を探しに行こうか。




