007. 正義のヒーローの夏休み
まずは、風呂に入る事にした。
疲れて行き詰った時は、ゆったり風呂に入って、魂の丸洗いだ。
綱島辺りの真っ黒な温泉の湯が、黒ずんだ魂によく染みるだろう。
風呂に行く前に、コンビニに寄る。
俺のパンツやなんかを買うためだ。俺の着替えは全て炎の中に消え去ったからな。
「残念、地味なパンツしかない。前後に穴の開いたのとか無いの?」
「そんなパンツは、コンビニには無い」
どんな店にならあると言うのか?別に知りたくもないし、探す気もない。
真夏だから、すっかり明るくはなっているが、まだ6時前。コンビニくらいしか開いてないしな。
しかし、白いのは下ネタが好き過ぎるな。教育すべきだろうか? いや、放っておこう。
ちんちん見見せて、これはドラゴンだ、とか言っちゃったからな。もう、手遅れだ。
「ぷーくす、これがドラゴン? ぎりレッサードラゴン?」とか言われなくて良かったな … 。
幼女達は、魔法で着替えが出来るようだが、俺には無理だ。
幼女達の子分になって、使い魔のグループチャットに入ったところで、俺に魔法能力は付与されなかった。幼女か少女じゃないとダメなんだろう、きっと。それが、世の理だと言われれば、異論は無いな。
買い物かごには、しれっと幼女達の入れたお菓子が大量にある。
おやつは、ひとり一日一個までだぞ、とでも言おうかなと思ったがやめた。
子供の教育や躾なんて、50過ぎて独身の俺には荷が重い。
欲望に忠実に生きさせても、問題は無いだろう。どうせ、こいつらまっとうな大人にはならんだろうよ。アリの巣に水流し込む感覚で、国家機関を爆破するようなヤツらなのだから。
朝早い時間から営業しているスーパー銭湯に来た。
川崎を端から端まで移動して、更に横浜にまでやって来た。今日は、かなり移動したな。
働き過ぎだろ俺。やった事は爆破テロだが、報酬が入るのだから、労働って事でいいだろ。
カメを助けて以来、俺もまっとうな大人ではないなあ。
大人1人、子供2人分支払い、タオルも3人分買い、脱衣所へ向かう。
この時間は客が少な目でいいね。朝のゆったりした時間って感じを堪能する。しかし。
幼女達が男湯の脱衣場までついて来ようとするのだが?
神聖な朝の雰囲気を、邪悪に染めないでもらえる?
「子供でも、混浴はダメだろ。魔女は男湯に入れません」
最近は、その辺が厳しくなっている。確か、条例にもあるはずだ。
これは躾とかそういう問題じゃないから、魔女共を窘める。
「まだ10歳なんだけど」
「ダメだな」
「じゃあ、6歳」
「じゃあって何だよ」
俺と一緒に風呂に入って何がしたいんだろうか?
もう姉妹ふたりだけで入れるんじゃないか?
破壊活動は出来ても、自分で頭洗えないの?
「これからは、いくらでも見放題なんだし。女湯でいいんじゃないの?」
黒い方がそう言うと、白いのも納得したようだ。ふたり揃って女湯に向かった。
何が見放題なのかは、この際どうでもいいが。あいつら、何を企んでいるんだろうか。
しかし、女の子の方がませてんのかな? 10歳といえば、俺はその頃何してた? 女湯に入りたかったか? 入りたかったな、うん。
上がる時間は示し合わせてなかったが、ぴったり同じ時間にロビーに出て来た。
親分と子分だから、シンクロしてんのかな?
湯上りでホカホカの幼女達は、大人しくしていれば可愛いな。見た目だけは。
スーパー銭湯の食堂で朝食を食べて行く事にする。
ここのご飯は、可もなく不可も無くってところなんだが、この時間だと他に開いてる店もないし。
ビールでも飲めればいい感じなんだろうけど、車の運転があるから無理だ。
食べながら、今後どうするのか相談をする。
「目先の大金よりも、今後の生活の保障を優先すべきだと思う。4500万円は大金だけど、一家三人で暮らせば10年ももたないでしょ」
白いのは、下ネタや物騒な事以外も、ちゃんと話せる。幼女とは思えない程しっかりしてんな。
そして俺は、こいつらの子分になり、魔法幼女隊の末席に加わっただけじゃなく、家族の一員になるんだな。
家族が出来て、喜ぶべきなのか?
湯上りホカホカ幼女を毎日眺める日々が始まるワケだ。
中身は悪魔だから、子育ては大変だろうなあ。むしろ、地獄の日々の幕開けなのかも知れん。
選択肢は無いみたいだから、考えても意味ないか。
炎上案件を押し付けられた時と同じ、腹を括るだけだ。
「じゃあ、まずは悪徳弁護士のところへ行くか」
4500万円の持ち逃げは無しだ。
食事を終え外へ出ると、今日も太陽が眩しい。
でも今日は、眩しすぎる太陽にむかつかない。
新しい一日が始まったんだ。
なんて思うのは、気のせいか、気の迷いなんだろうな。




