005. 正義とは?
県警本部や警視庁までは、消さないそうだ。
何か根拠があるのかと思えば。
「もう飽きた。メンドイ」
と。
他人が砂場に作った城を破壊して回ってる感覚だったのかな。
俺も、反論するような根拠は無い。既に、やり過ぎだし。
家に帰る前に、コンビニに寄った。
ファミレスの方が良かったんだが、最近は深夜営業のファミレスはすっかりなくなってしまった。
コンビニもいつまでも24時間のままではないのかもなあ。
ところで、魔法幼女達は、フリフリのドレスのままで堂々とコンビニの店内に居るが。
店員も、ひとりだけ居た他の客も気にしている様子は無い。
ここが川崎区ならともかく、多摩区にこんなのうろついてたら、2度見するんじゃないのか?
まあ、何か対策があるのだろうと思って、何も言わずにコンビニに寄ったワケだが。
コンビニを出た後で、車中にて聞いてみると、白いのが教えてくれた。
「他人の意識を操作する魔法を使った」
認識阻害の魔法ってやつか? 魔法の定番のひとつだな。なんで、空が飛べないのか、ますます不思議になる。
「監視カメラの映像には残ったんじゃないのか? ついでに言うと、Nシステムに、俺達の通行が記録されてると思うんだが」
深夜で車通りが少なかったから、2件の爆破事件の近辺を通過した車は、俺達のくらいだろう。
通行する車のナンバーを記録するNシステムを確認すれば、まっさきに容疑者候補になるだろう。
「後で、記録された映像を消すのは難しいけど。あらかじめ分かっていれば、魔法で妨害出来る」
「魔法すげえな」
俺にも、そんな力があればな。正義の執行も捗るのにな。
そろそろ自宅のボロアパートに着こうかというタイミングで、スマホの通知音が鳴った。
また、正義のヒーローミッションかも知れない。急いで確認しよう。
毎回、短納期なんだよな。ミッションコンプリートした時の褒美は、未だに曖昧なくせに、未達の場合は、きっちりペナルティがあるとカメに脅されている。
理不尽過ぎる … 、悪なのは俺達の方なんじゃないだろうか … 。
車を路肩に寄せて停車し、スマホを確認する。
「おめでとう! ジャスティス・ポイントが規定値に達成したよ!」
なんでだ?
魔法幼女との破壊活動で稼げたのか!?
やっぱり、悪なんじゃあ?
「ご褒美として、ポイントが何と交換できるかを教えてあげよう」
なあ、それご褒美か?
チュートリアルで説明する事だろ?
「666万ポイントを貯めると、なんと! 異世界へ引っ越し出来る権利を進呈するよ!」
「まじかー!?」
666万ポイントがどんだけのものか分からんし、今何ポイント貯まってるのかも分からんが。
ついでに、666とか如何にも悪魔って感じで、やっぱりなあ、って感じだけども。
異世界だー!
「どうやれば、666万ポイント達成するのか、はよう!」
「うるさいわよ?」
黒いのからクレームが入った。
興奮して、カメと音声通話モードで会話してたからな。向こうは、しゃべんないけど。
しかし、返事が無いな。いつも高速で返事が返って来るのに。どういう仕組みなのか知らんけど。
まだかなー、と握りしめたスマホを見つめていると … 。
ずどん! とスマホのスピーカーから爆音が鳴り響いた。
「もしかして今、あんたの家のカメと話してた?」
「そうだよ」
「じゃあ、今の爆発音は?」
車を再始動し、急いで自宅へ向かうが、帰るまでも無かった。
「盛大に燃えてんなあ」
遠目からでも、うちの辺りが燃えているのがよく分かった。
消防署の前を通る度に、消防車が緊急出動して行くのに、出くわす。
この光景を見るは、今日もう3度目だよ。
「着替えた方がいいかも。野次馬が集まってそうだから」
白いのがそう言うので、また車を止めようかと思ったのが、その必要はなかった。
幼女の生着替えシーンが展開される事も無かった。
魔法でさらっと、ジャージ幼女になってたよ。
人数が多いと、認識阻害の魔法が効きづらいんだろうな。
カーシェアを返却してから、しれっと火事場の野次馬の後方に混ざる。
4500万円の札束とファイルは、リュックにつめて持ち運んでおいたので、俺が背負っている。
非常用持ち出し袋を担いで慌てて出て来た住民に見えるといいが。
「あ! カメが!」
「死んじゃったでしょうね。うちのフェニックスなら飛んで逃げたかも知れないけど」
相棒のカメが死んでしまった。
カメの足で避難出来たとは思えないし、チャットの返信も途絶えたままだ。
今後の正義の執行はどうなる? ジャスティス・ポイントは? 異世界の引っ越しは!?
というか自宅が吹き飛んじゃったぞ?
ジャスティス・ポイントだとか言ってる場合じゃないかも。落ち着いて状況を整理だ。
カード類は、銀行のキャッシュカードもクレジットカードも、今持ってる財布の中だし。マイナンバーカードだって財布の中だ。銀行の口座も他の資産も、通帳や証券の類は不要なものばかりだし。
今時は、大概のものがスマホさえあれば何とかなる。
まあ、さほどの被害ではないか?
極力モノを増やさない生活をしていたし。タンスの中身は、安ものばかりだし、布団だって買い替え時だった。本も電子書籍ばかりだし、音楽も動画も配信だけで、ディスク類は、最近まとめて買取に出して処分したところだ。
きっと大丈夫。俺はまだ、やれる。




