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正義のヒーローは魔法幼女と共に異世界転生を目指して悪事を働く  作者: へるきち


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003. 正義のヒーローは悪と戦う

 なんか見た事あるビルだよなあ。


 夜間作業明けに寄ったスーパー銭湯にあるテレビに、見覚えのあるビルが映っている。夕方のローカルニュース番組だ。

 夜間作業は、電車の始発も動いていない時間に終わるはずだったのだが、問題が起きてほぼ24時間軟禁される事になった。

 36協定違反なんだけどなあ。時間外手当で金にはなるので、文句は言わない事にしている。

 以前、派遣元の担当営業を通して抗議したら契約を切られたし。

 未だに、働き方改革に逆らう企業があるのだ。それも名の知れた大企業が。

 いや、正社員だけは別か。今朝も「僕、時間外は4時間までの規定なんで上がります」と、トラブルシューティングの真っ最中に、正社員だけさっさと帰って行った。

 正社員の働き方改革のために、俺のような派遣や、協力会社が犠牲になっているワケだ。

 責任者が不在になったせいで問題への対処が滞り、こんな時間までかかってしまった。

 この国は、ほんとにもうダメかも知らんなあ。

 異世界へ行きたいぜー。


「この弁護士のところ、親戚も行ってたぜ?」

「えー、じゃあ被害者じゃん」

「ただより高いものは無いって事かあ」


 テレビを見ている連中が、そんな会話をしている。

 ああ、そうか。ニュースでやってんの、昨夜侵入した弁護士事務所のあったビルじゃん。

 無料法律相談で人を集め、交通事故の賠償金の回収や、遺産相続の手続きなんかの代行をやっていたそうなんだが、回収した金や資産を着服していて、それが法に触れるレベルだったようだ。

 きっかけが無料だし、弁護士報酬も格安だったらしく、被害者達に騙された自覚が無かったらしい。

 10年以上に渡って不正を働いていたとか。

 法律のプロだから、脱法のギリギリを攻めてたんだろうが、一線を越えてしまったか。

 聞き流していたので、詳しい事はよく分からんが。


 あの弁護士事務所は、悪の組織だったってワケだ。

 どうやら、俺は正義を執行したらしい。

 でも、手段が違法なんだよなあ。


「これは真っ黒い金だったかあ」


 自宅に帰った俺は、弁護士事務所から押収した札束を前に、考え込む。

 この金の被害届は出ない気がする。

 顧客情報のファイルだって、証拠隠滅になって、むしろ被害者は喜んでいるかもなあ。

 いや、警察が気付いた場合、証拠隠滅に協力した者が居るって事になんのか?

 監視カメラの映像消せないかなあ?

 俺は、IT系のシステムエンジニアだけど、ハッキングは専門外だからなあ。


 こういう時は、何もしないのがきっと最善だ。

 下手に動くと裏目に出るんじゃないかな。

 金をどうするかだけど。額がでかいから、銀行の口座に入金するのもなあ。

 それで足がつくほど、日本の警察が優秀なのかどうか知らんけど。

 とりあえずゴミ袋に詰め込んで、押し入れに仕舞っておこう。


 疲れ果てたし、さっさと寝よう。

 寝る時間には少々早いが、俺は布団に潜り込み、部屋の明かりを消した。


「おっけーぐーぐる照明消して。そして、俺を異世界へ連れて行って」


 もちろん、2つめのお願いは無視された。


 早くに寝たせいか、深夜に目が覚めた。

 

「午前3時は、まだ朝じゃねえな … 」


 枕元のスマートスピーカーに表示された時刻を確認すると、まだ3時だ。

 年取ると目が覚めるのが早くなるが、3時はあんまりだろ。

 これで熟睡していれば文句無いんだが、眠りは浅かったらしく、何ともだるい、というかつらいぞ?

 まるで全身を縛られているかのような … 。

 年取って目覚めが早くなるのは、眠る体力すら衰えているからだそうなんだが。

 このつらさは異常じゃないか? これで、寝直す事も出来ないんだぜ。年は、とりたくないなあ … 。


「ちょっと、パンツに手をかけて何してんの?」

「ちんちん見てみたい。姉さんは見たくないの?」

「そりゃ興味はあるけど、ってダメでしょ。それは犯罪」

「既に、住居不法侵入という犯罪なんだから。毒を食らわば皿まで」

「むしろ、そのパンツの中身こそ毒だと思うんだけど」


 なんだこれ? 幻聴か? 幼女らしき声の会話が聞こえる。子供が居ないまま50を過ぎた孤独なおっさんが、ついに頭おかしくなっちゃった?

 どこかで生まれていた娘が突然訪ねて来たりしねえかなあ、なんて昭和のテレビドラマみたいな妄想しながら寝入ったから。


「おっけーぐーぐる、照明つけて」


 幻聴じゃなければ、幻覚も併発している事になるんだが。

 明るくなった部屋の中に見えたのは、俺のパンツを下ろそうとしている幼女だった。

 枕元に、もうひとり幼女が立って、俺のパンツを凝視している。


「あー、お前ら、暗闇の中でも見えんの?」


 このボロアパートは、南側にマンションが隣接しているせいで、昼でも暗い。

 深夜に照明を消すと、真っ暗だ。パンツを下ろしても、ちんちんなんか見えないはずだ。

 今は、俺がつけた照明で明るいけども。


 いや、気にするのそこじゃねえわ!

 全身を縛られて、幼女にパンツ下ろされそうになってんじゃねえか!

 ある意味ご褒美かも知れんが、何だこの状況は。


「起きちゃったじゃないの」

「わーお」

「それでも下ろすのかよ!」


 幼女はパンツにかけた手をぐいっと動かした。

 幼女にちんちんをまじまじと見られている。

 これは、ご褒美 … じゃないよ!?

 カメは何してんだ。正義のヒーローがピンチなんだぞ。

 まあ、カメだし。なんともしようがないかあ。


「見られたからには始末しちゃう?」

「むしろ見たのは私達。ちんちんを見た責任をとるべき」

「それもそうね」


 物騒な会話してんなあ。

 こいつら、黒と白のランドセルの双子姉妹じゃないか。

 まるで魔法少女のような恰好をしている。幼女だから、魔法幼女だな?

 フリフリの露出度高めのドレスに魔女っ子ステッキ風の棒を手にして。

 ランドセルと同じく、性格悪そうな方が黒いドレス、無表情な方は白いドレス。

 パンツ下ろしたのは白い方。会話からして、黒い方が姉で、白いのは妹か。

 ふたりとも、俺のちんちんに夢中だ。 


「なんかおっきくなってきた」

「ほんとだ」


 それは、疲れているからであって、この状況に興奮しているワケじゃないからな!?

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